第28幕 そして一つの終わりへ

「おーい、グレリアー、帰ろうぜ」

「ん、ああ。ちょっと待ってろ。エセルカ、一緒に帰ろうぜ」

「う、うん!!」


 決闘? のようなものが終わってから数日……俺達はすっかり日常を取り戻していた。

 いや、あの時期だけがやたらと問題が起こっていただけなのだけどな。


 セイルがぶんぶんと手を振りながら俺とエセルカを呼んでいて本当に忙しない奴だ。

 二人で苦笑しながら俺達はセイルに追いつくように駆け出していく。


 ――アルフォンスが絡まなくなってからは随分と学園生活も快適になった。

 吉田子爵が乗り込んできた一件以来、A組の連中は遠巻きにこちらを見ているだけだったからだ。


 ま、気持ちはわかる。

 あれだけアルフォンスがこっぴどく叱られていたのを見て、おまけに俺は大人2人を圧倒していた。

 下手に絡んだらどうなるのかわかったものじゃない。それが彼らが導き出した答えだということだ。


 おまけに元々こっち側に好意的だったA組の奴らはより俺達と接する機会が多くなってきて、比較的良好な関係を築くことが出来ていると言えるだろう。

 最近では垣根を越えて町に出歩く者もいるとか。レイセルとセイルの関係みたいな奴らまで出てくる始末だ。


 エセルカもすっかり元どおりになって、いつも接するように接してきてくれるようになった。

 ただ――なんだか熱っぽい目を極たまに向けられているような気がするんだが……気になって視線を追った時は全く俺の方を見てなかったし、多分気のせいだろう。


 セイルとはあの件以降、より一層仲が良くなったというか――。

 あいつの方から俺に教えを乞うことが多くなってきた。

 なんでもライバルに追いつくのは直接教わる方がいいとかなんとか。

 更にレイセルのところにもちょくちょく遊びに行ってるようで、最近では共に筋トレする姿も見かけて……実に汗だくの青春を過ごしているようだ。


 それにしても、ライバルだったり仲間だと言ったり……こいつも忙しい奴だ。

 最近ではあのリング上でよく手合わせをしているほどだ。

 ……まあ、戦績はお察しと言ったところだ。

 少なくとも俺がまともに戦おうと思うのはまだまだ先になりそうだ。


「いつか必ずお前と並んでやるからな! その時まで待ってろ!」


 というのはセイル談。

 そのいつかが一体いつになることかとも思うが……気長に待ってやるとするか。

 こいつなら、案外本当に並び立ってくれるような予感もするからな。


 そして今日も一日が終わり、セイルやエセルカと夕食を取って、部屋に戻る。

 今までも度々一緒にいた二人なんだが、あの出来事を経て、更に中が良くなった気がする。

 セイルがのんびりと汗を流している間に、俺はベッドに寝っ転がり、そっと目を閉じて思いを馳せる。


 ――ここに来てから本当に色々なことが起こったな。

 まだ入学してそんなに時間が経ってないはずなのだけれど、入学試験から実力トーナメント。

 セイルと図書館に行って、エセルカとは町を回った。


 エセルカが誘拐されたときには心底焦ったが、幸い傷物にされてはいないようで本当に良かった。

 暴力を振るわれはしたようだが、奴らは圧倒的にぶっ飛ばしてやったし、コレ以上関わっては来ないだろう。

 その後のアルフォンスは吉田子爵にこっぴどく叱られていたし……ここに来るまでの13年が吹き飛ぶほどの濃厚な時間だった。


 詠唱と魔方陣。今の世界と邪神。

 そして……神の言っていた『俺しかなんとか出来る人材を思い至らない』という言葉と、【英雄召喚】。


 わからないことはいくらでもある。

 だが……それはあとからでもわかることだろう。俺は今、この世界に確かに生きているのだから。

 前に進む事を辞めさえしなければ、俺はいくらでも先に進むことが出来るのだから。

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