第10幕 実力トーナメント
朝目が覚めると、いつもは俺より遅く起きるはずのセイルが、準備運動をしながら俺が起きるのを待っていた。
起きたら同居人の男が目の前で筋トレしている姿なんて、これはこれで結構最悪な目覚めだな……。
「お、グレリアおはよう!」
「ああ……今日は早いな」
「あったりまえよ! なんてったって今日は実力トーナメントの日だからな。気合も入るってもんだ!」
準備運動のせいか汗のせいか……いつも以上に暑苦しいその姿のままこっちに近寄ってくるのだけはやめてほしいもんだ。
「はぁ……朝から元気なもんだな。途中でスタミナ切れにならないようにしろよ」
「おう! それよりも早く朝飯食べに行こうぜ!」
いつも以上にやたらと張り切るセイルを抑えながら、俺はゆっくりと準備をするのだった。
――
実力トーナメント当日は教室の方には向かわず、全員訓練場に集合する事になっていた。
俺達が来た時にはすでにほとんどの生徒が集まっているようで、どうやら俺達が最後に来たみたいだな。
「あ、グレリアくん、おはよう」
相変わらず困り顔のジト目小動物なエセルカがその顔を精一杯笑顔にして、トタタッと小走りでこっちの方にやってきた。
今日も実に小動物していてなによりだ。
「おう、おはよう」
「今日はいよいよ、だね」
「ああ、エセルカの方も頑張れよ?」
「う、うん!」
俺が来たからか……いつの間にかL1組の奴らがこっちに集まってきていた。
「グレリア、実力トーナメント、頑張れよ!」
「A組の連中に目にものをみせてやれ!」
……お前らは少し前までやってやる! とかなんとか言ってなかったか?
なんで急に他人任せになってるんだよ。
「いや、お前らも頑張れよ」
「も、もちろんやるけどさー……」
「お前かエセルカの方が目がありそうなんだもんな」
うんうんとうなずく男子共は少しは自分を情けなく思ってほしいもんだ。
特にエセルカ。確かに彼女は学園の中でも強い部類に入るんだろうが……いかんせん、あの容姿がなぁ……。
可愛らしいのは認めるところだが、小さくて他の女子より幼い顔立ちをしている。それにいつもおどおどしてるし、すぐに照れる。おまけに俺とセイル以外の男子にはなぜかあまり話しかけに行こうとしないんだからな。
小動物として女子の方には可愛がられてるようだからそれなりに友達はいるようだけどな。
「はい、それでは皆さん、準備はいいですか」
クラスの奴らと話していると、いつの間にか時間になっていたらしく、リングの中央に呪王ことクルスィが立っていた。
なんというか……それだけであの中央リングが邪悪な祭殿かなにかに見えてくる。
わざわざこの男を選んだ教師陣は何を考えてるんだろうか……。
「はい、この実力トーナメントはあくまで模擬戦の延長線です。命を奪いかねない行為や執拗な攻撃は禁止。正々堂々戦うこと。いいですね」
手元にマイクを握りしめ、みんなに聞こえるような声で喋るクルスィ。
あれにはなんでも魔力の込められた石が入ってるらしく、それが声を響かせてくれるのだとか。
そのおかげで普段声の大きくない呪王の声も、まるで意思を伝達するかのように伝わってくるというわけだ。
「はーい」と声が上がっていたが、どっちの組も嫌な笑いを浮かべてる奴らがいるにはいる。
この実力トーナメントで変なことを企んでなければ良いんだけどな。
「はい、それでは最初の選手から――」
クルスィの選手を読み上げる声が会場が響き渡り、とうとう最初の一戦が幕を開けた――。
――
最初の不安は何処にいったのか、試合は順調に進んでいた。
L組同士、A組同士で当たることもあれば、別の組で当たることもあり、と結構ランダム性が強かった。
中にはL1対L2などの学年違いの戦闘もあり、見ごたえも中々にあるほうだろう。
ただ問題は……L組とA組があたったときだろうか。
A組側の生徒が負けると、その生徒は両組から明らかに嘲笑の的にされ、L組側が負けるとその生徒はA組から野次を飛ばされる……と言った感じであまりよろしくない態度が続く。
「本当に仲が悪いな」
「か、彼らは英雄の血を引いてるって誇りがあるからね」
「英雄の血……か。そんなものに一体何の意味があるんだろうな」
それにかこつけて怠けているようではその血も泣くと言うものだろう。
「次、エセルカ・リッテンヒア対ティーチ・沢木」
「あ、つ、次私の番……」
自分の名前を呼ばれたからか、エセルカはドキッとした表情で緊張しているように見えた。
……全く、仕方ないな。少しほぐしてやろうか。
そう思って頭に手を乗せ、軽く撫でてやる。
「グ、グレリアくん……?」
エセルカは驚いた表情でグレリアの行為を見つめていたが、すぐに照れたように俺に微笑みかけてくれた。
うん、ほどよく緊張がほぐれたようだ。
「エセルカ、頑張ってこい」
「ありがとうね。行ってくるっ」
そのままエセルカは、トタタタッと足音が聞こえるかのような軽やかな足取りでリングの方に駆けていくのだった。
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