第9幕 一致団結するクラス

 魔法の授業の一件以来、どうにも不信感が拭えないまま、ただただ時間だけが過ぎていく毎日。


 強いて言えば魔方陣を使う魔法はあまりにも目立つだろうということで、出来る限り封印しておくと決めたことぐらいだろうか。


 歴史のことと言い、魔法のことと言い……あまりにも俺が知る世界とかけ離れている。

 ただでさえ身体能力が皆より上だということは誤魔化しきれない。

 入学試験の時に盛大にやってしまったからな。


 この上魔法も他のものとは異質では相当浮いてしまうこと間違いないだろう。

 今後どうするにしても、運動能力以外の事で目立つことは極力避けたほうが良いだろう。



 ――



 授業に力が入らず、度々呪王クルスィにマークされそうになったこの頃。

 この日、クルスィは教室に入ってくるなり、こんな事を言いだした。


「はい、一週間後、実力トーナメントがありますので、皆さん、気合を入れますように」


 実力トーナメントってのは確か、L組とA組が交流を持つ貴重な機会……とか言ってたな。

 普段は校舎もなにもかもが違う俺達と貴族が触れ合うことと、現時点での生徒たちの実力を見ることが目的なんだとか。


 不正を防ぐ為に各学年のL組とA組は当日になるまで誰と戦うかわからないらしい。

 これは以前、A組の生徒がL組の生徒を買収して、事前に勝敗を操作していたことがあったからだとか。


 強制参加イベントな為、断ることが出来ない上、トーナメントの順位は各組の成績にも響くと来たもんだ。


「実力トーナメントかー。楽しみだな!」

「そうか? A組の連中と顔合わせなきゃいけないんだぞ?」


 そういえばA組の奴らとまともに顔を合わせるのは入学試験の時以来だな。

 訓練場は流石に共同だからA組の連中を見かけることもあるが、お互い距離を取っているから滅多に話すことはない。

 が、やはり下民下民とこちらを馬鹿にしてきたりと、少々いざこざは起きているらしい。


「A組の人、あまりいい噂聞かない、かな」


 そこで話に参加してきたのはエセルカ。

 彼女はそのおどおどとした癖は治らないものの、クラスの方にはだいぶ馴染めているようだ。

 なんでもすぐに顔が赤くなるところなんかが可愛いのだとか。


「エウレちゃんが妾にしてやるって迫られたり、シュリカちゃんも言い寄られたとか」


 言ってて自分で恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてうつむいてしまった。

 相変わらずの小動物っぷりだが、エウレっていうのは確か俺達のクラスメイトの一人だったな。

 確か髪が長くて、顔立ちの整った綺麗な少女だったはずだ。


「あいつら、この学園に何しに来てるんだか……」

「俺達L組の奴らと違って、貴族はここに通うことが義務のようなものだからな」


 それは初めて聞いたが、それでようやく納得出来た。

 あいつら、微妙にやる気がなかったというか、面倒臭そうな顔して授業してるようにも見えたからな。

 こちら側の教室だとあいつらが訓練場で授業してるのが丸見えだからよくわかる。


「あいつらの担任が呪王だったらA組は潰れてたかもなぁ……」

「ああ、言えてるな! ただでさえ呪いが横行してるしな!」


 はっはっはっと互いに笑いながらだが、割と真理だろうとも思う。

 ……というか話がそれている気がする。


「いや、もうマジで潰れて欲しいわ。あいつら貴族の家系だって自分たちのこと大きく見せすぎ」

「わかるわかる。この前俺なんか『下民のいるところで訓練するなど、母上が知れば激怒されてしまうよ』なんて当てつけるみたいに大声で言いやがって!」


 俺達の会話を聞きつけてか、次々と声を上げ始める下民――もといクラスメイト達。

 どうやらお貴族様方と接触してないのは俺達ぐらいらしく、他の奴らはみんな鬱憤が溜まっているようだ。


 どんどん不満の声が高くなっていき、いよいよもってうるさくなってきた。


「だったらちょうどいいじゃないか。この学園は通ってる以上、身分なんか関係ないって知らしめてやればいいじゃないか」


 その言葉でしーんと静まり返ってしまった。

 まるで天啓が舞い降りたとでも言うかのように一斉に俺の方に注目が集まる。

 な、なんだなんだ? そこまでみんなが黙ること、今言ったか?


「グレリアの言う通りだ! 貴族だってこと鼻にかけているような連中ばっか入学しやがって!

 お前が偉いんじゃなくって親が偉いんだっての!」


 みんなが神妙に頷いているその姿は、貴族……というよりこの学園に入ったA組の――多分突っかかってきてる連中に対してイライラを爆発させてるように見える。

 これは……余計なことを言ってしまったかも知れない。


「俺達の事を馬鹿にしてきたA組の連中、見返してやろうぜ!!」

「「「おおおーーー!!!」」」


 こうして、俺達は一致団結して実力トーナメントに備えることになった。

 備える……と言っても、別に何もすることはなかったんだがな。

 それにしても、なんだか妙な空気になったが……まあ、やる気があるのはいいことだろう。


 ――そして一週間後、実力トーナメントがとうとう幕を開けることになった。

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