第11幕 エセルカ対ティーチ
グレリアくんの励ましを受けて、私はクルスィ先生の待つリング場にあがることになった。
「はぁい、ガール。僕と戦うなんてユー、ついてないね」
「は、はぁ……」
なんだか話し方が独特過ぎて……私には彼がなにを言ってるのかさっぱりわからない。
まるで自分とは全然違うものをみているようで、すごく怖い。
でも……でも頑張らなきゃ。
――頑張ってこい。
グレリアくんが言ってくれたその一言。それが私に力を与えてくれた。
私はあんまり人と喋るのが得意じゃなくて……この学園に通うかも知れないって時に一つ決めたことがあったの。
それは……一番最初に会った人と、お友達になるってこと。
それがどんな人でも私の精一杯で話して、お友達になって……少しでも人と仲良くなれるしよう、そう思ったんだ。
それで一番最初に会ったのが……通う前になっちゃったけど、グレリアくんだった。
私、いつもおどおどしてて、こんな自分がちょっと嫌になるけど……それでも、変えようと思って話しかけた、初めての人。
グレリアくんは北の村から来たって言ってたけど、すごく話しやすくて、まだ通ってもないのについつい学園の案内なんてしちゃって……すごく楽しかった。
あんなに人と話したのは初めてだったし、何も知らないグレリアくんに教えてる私は、ちょっとお姉さんになったようですごく誇らしかった。……いや、背はグレリアくんの方が高いんだけどね。
それから学園での試験とか、クラスももちろん一緒で、お隣の席で……今もそう。
グレリアくんにはいっぱい、いっぱい勇気貰ってる。だから……その勇気分は答えたいなって、そう、思ったの。
――◇――
エセルカはちょっと怖気づいてる……いや、やっぱ人見知りでもしていそうな雰囲気を醸し出していた。
相手のティーチってのはなんというか……すごくナルシストな感じが伝わってくる。
ふふん、とその緑色の髪をかきあげる仕草とか、その細い身体で一々ポージングを決めてる姿とか……見ていて相当萎えてくる。
ただ、悪い人物ではなさそうだ。嫌なやつだったらまず間違いなくL組から野次が飛んでくるからな。
クルスィが双方にちょっとしたルール確認をした後……互いに武器を構えて試合が始まった。
エセルカはやはり両刃のそれなりに太い細剣で、ティーチの方は刺突剣――というか完全にレイピアだ。
あんな細い武器で戦いに出るなんてよくやると思ったが……動きは結構鋭い。
軽やかなステップを踏んで剣先を相手に突きつけて常にその半歩後ろに身体を下げている。
それが意外と様になっていて、ただ単に貴族の道楽ってわけでもなさそうだ。
シュシュッとした軽やかな動きから繰り出される刺突はまるで羽のようにふわりとしている。
エセルカはそれを困った顔のままいなしてるから焦ってるのか余裕なのかよくわからん。
ただ、足取りや剣の動きは相当しっかりしてるから、ティーチの動きはかなり見えてるのだろう。
俺から見ても危なげのない試合運びだ。この調子で行けば余裕で勝つことが出来るだろう。
俺の予想通り、エセルカは徐々に攻勢を見せてきて、ティーチは苦しそうな顔を見せていた。
そりゃそうだ。エセルカの剣はしっかりと戦闘にも使うことが出来るもので、重さもそれなりにある。
というか、両手で握りしめてるとはいえ、よくそんな体型で剣を扱えるもんだ。
剣戟の音が鳴り響き、ティーチの突きを上手くかわして懐に潜り込んだエセルカは、そのレイピアのガード部分に振り上げた剣が当たり、レイピアはあえなく弾かれた形で宙を舞い、ティーチは弾かれたその姿のまま動けなくなってしまった。
「こ、これで……終わり、です……!」
その隙を逃すほどエセルカの方も優しい方じゃなく、そのまま流れるように剣を首筋に。
諦めたかのように嘆息し、首を左右に振るティーチは、やっぱりどこか気取っているように見えた。
「ま、まいったよ……サレンダーってやつだね」
「はい、試合終了です!」
クルスィの合図とともに、そのまま試合は終了。蓋を開けてみれば楽な戦いだったと言えるだろう。
「君、すごくストロングだね。僕、とってもびっくりだよ。正にサプライズってやつだね」
「え? あの、あ、ありがとう……」
馬鹿にしてるのかしてないのかよくわからない言葉遣いだが、まあ多分褒めてるんだろう。
なんだかんだ言ってあいつもいい奴ってこと、かもしれないな。
「エセルカ、お疲れ様」
「あ、ありがとう、グレリアくん」
ティーチと一言二言かわして戻ってきたエセルカを激励すると、彼女はまた小動物に戻ってしまった。
戦ってるときはまだ闘志があってよかったんだけどなぁ……。
「はい、次はグレリア・エルデ。対するはアルフォンス・吉田」
お、次は俺……ってアルフォンス・吉田ってのは俺が初めてここに来た時に出くわした貴族か!
ばっとA組側を見てみると、二人の取り巻きを引き連れて偉そうにしている金髪の少年。
「あれが俺の対戦相手かよ……」
「え、えっと……頑張って! グレリアくん!」
どうにも頑張る気力が起きそうにないが……選ばれた以上やるしかないだろう。
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