第4幕 実技試験
エセルカに学園の案内をしてもらってから二日後。俺は再びこのアストリカ学園にやってきた。
すると以前来た時にはなかったのだが、校舎の入り口付近に受付が設置されていて、男が一人でぽつんと立っているようだった。
あー……エセルカに案内されたのが無駄になったかも知れないなぁ……。
ま、今日はまだ来てないみたいだし、またぺこぺこ頭下げられるようなことは避けられそうだ。
「すみません」
「うん?」
「この紹介状を貰った者なんですけど」
受付まで行った俺が取り出したのは学園についたら見せるように言われていた紹介状。
これが村に届いたおかげで俺はこの場にいるってわけだ。
受付の男が中身を開いて確認していると、うんうん頷いて奥に入るように促してきた。
「それじゃ、校舎に入って試験を受けてもらうことになるよ。中央都市の子じゃないみたいだから、座学の試験はいいけど、実技の試験は必ず受けてね。外にある訓練場でやってるから」
座学は出なくて良いのか……ま、世界の知識をほとんど仕入れてないから出れたとしてもたかが知れてるから良いんだけど。
村には本とかいう高価なものはないし、何を知るにしても他人の知識当てだ。
ほとんど村から出たことがない奴らから教えてもらえることなんてのはたかが知れてるし、結局読み書きぐらいしか教えてもらってないからなぁ……。
「どうも」
ひとまず礼を言って、さっさと中に入る俺なのであった――。
――
実技試験の会場は訓練場――という名の大きな広場みたいな場所だ。ちょうど学園の裏側にあるようで、建物とかがあるわけじゃなく、ただだだっ広い場所ってだけ。
一応中央には石で出来たリングみたいなものが設置されていて、それもまた結構大きい。会場かなにかかな?
流石に試験当日なだけあってかなりの人がいるんだが……どうにもまとまってるグループとばらばらに散らばってる奴らがいる。
恐らくまとまってる方は貴族か、この中央都市出身の奴らだろう。
無駄に自信たっぷりの表情からもよくわかる。逆に不安そうな顔してるのは大方俺と同じでどっかの村から招集を受けた奴らだろう。
俺も含めた全員が中央に集まって来たかと思うと、一人の男がそのリングの真ん中まで歩いてきた。
多分、アレが試験官だろう。
「あー、あー……それでは、実技試験を始めようと思います。
試験と言っても簡単です。これからこのリングで試験官相手にそれぞれ実力を示してもらいます。
その後、中央都市出身の方は座学の試験がありますので、会場を別途移すことになります。
他の方は受付に戻り確認後帰宅となりますので、その点だけご注意ください」
また随分変なやり方をするな。
ま、いいか。試験は始まったし、俺の順番が来るまでのんびりと見学するとしようかな。
――
それから一人一人呼ばれ、試験官と手合わせしているみたいだったが、なんといえばいいんだろうか……。
「で、出てきやがった。エイシャル・田中!」
「バイオ田中と呼ばれた、あの伝説の英雄の末裔か!」
「おいあれ……泥の魔法を自由自在に駆使したっていうマッド鈴木の血を引くというブライト・鈴木じゃねぇか!」
「マジかよ! あの伝説の英雄の血筋かー……」
こんなのばかりだから本当に嫌になってくる。
しかもこういう奴らに限って貴族のなんだから余計にな。
というか、伝説の英雄多すぎるだろ! お前ら本当にいい加減にしろ!!
しかもこの解説してる奴ら、すんごい雑魚臭がするっていうか、それを生きがいにしてるんじゃないか? ってぐらいそれしか言ってない。
しかもその伝説の英雄の血を引いてるって割には凡人っていうか……。
剣筋もお遊び剣術の域を全く出ていないし、魔法ってのもそもそも使ってないからなんとも言えない。
あー、だけど大体俺と同じ子供だし、これくらいが妥当なのかも知れない。
「次! セイル・シルドニア!」
「……」
「……」
で、こういう風にマシそうなのが出てきたらだんまり決め込んでるんだもんなぁ……。
貴族の賑やかしもいいが、大概にしてほしいものだ。
そのお貴族様に比べたらこのセイルってのは他の貴族連中に比べたら大分いい剣筋がいい。
動きがかなり大雑把だけど、大剣を使ってるということを考慮しても、一撃が重そうに見える。まだ子供ってことを考えたらこれからの訓練次第ってところだろう。
……どうにもいけないな。ついつい上から目線で考えてしまう。
「次! グレリア・エルデ」
「はい」
やっと呼ばれた俺は、そのままセイルと呼ばれた赤髪のよく似合う男の子は、俺に笑顔を向けて声をかけてくれた。
「頑張れよっ!」
「……ああ、ぼちぼちな」
ひらひらと軽く手を振ってリングの中央に立つと、試験官の男が怪訝そうな目でこっちを見ている。
……まあそれも当然か。向こうは剣を構えてるのに、俺はなんにも持ってきてないからな。
「君、武器は?」
「これですよ、コレ」
軽く握り拳を作ってにっと笑う俺の仕草が気に食わなかったのか、イラッとしている様子の試験官。
いやだって仕方ないだろ。実技試験があるなんて聞いてなかったし、紹介状にも学園の案内と少しの文しか書いてなかったからな。
「あまりふざけてはいけないよ? 早く武器を持ってきなさい」
「だーかーらー! この拳が武器だって言ってるだろ!」
全く、人の話を聞かない奴だな。
おまけに俺の言葉に更に苛立ったようで半ばキレ気味に剣先を突きつけてきた。
「……仕方ないな。だったらその自信、へし折ってあげるよ!」
やっと試験する気になってくれたようだ。
俺の方もすっと腰を落として臨戦態勢を取る。
――それじゃあ、へし折れるかどうか、やってもらおうじゃないか。
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