第2幕 再臨後の世界
神の要求通り、この世界に再び生まれ変わった俺は小さな農村でその生を受けた。
朱色の髪に淡いオレンジ色の目をした姿。名前は前世と同じグレリアだったが、
村では俺の他に数人の子供がそこにいたんだが……どうにも話が合わなくてなぁ。
こう、新しい生を受けたのはいいけどさ、純粋に遊ぶことが出来るほど汚れを知らないわけじゃなかったからなぁ。
結局俺は森を駆けたり、薬草や動物を採取したりして時間を過ごすことになった。
ま、退屈はしなかったし、それでもそこそこ楽しかったんだが……他人から見れば変わった子供に映っただろうな。
そして生まれ変わって数年の月日が経ち――俺が13歳になったときだった。
この村が所属している国から、中央に一人、優秀な子供を寄越すように指示を受けていたそうで、今回俺がその出向する子供に任命されることになった。
なんでも中央都市にある学園に行って欲しいんだと。
学園ってなんだ? とも思ったが、子供が集まって文字や歴史を学ぶ所らしく、そんな場所ができたんだと俺の方はものすごく感動したがな。
昔のことは多く知っていても、今の時代のことはほとんど知らない。村の中のことが今の俺の世界の全てだった。
だからこそ、今回のことは願ったり叶ったりってわけだ。本当はもう少し身体が出来てから動こうと思ったが、このチャンスを逃す手はまずない。
すぐさまそれを引き受けた俺は、両親との別れの挨拶もそこそこに、この国――ジパーニグの中央都市ルエンジャにある学園に向かった。
――
村から何日かかけて歩いてやってきたそこのあまりの異質さに、俺は思わず呆けてしまった。
「ここが、ねぇ」
奇妙な四角い箱のような建物が並ぶ区域と俺が知る建物が混在している中央都市ルエンジャ。
村では俺が知ってる世界の面影が垣間見えていたが、ここはそんなもの吹き飛ばすほどの奇妙な場所だった。
まず道が綺麗に整備されている。砂利を固めたかのような変な道は妙に歩きやすい。遠目に見えたこの都市の全景といいこれといい、俺がいない間に随分と変わったなと感心したと同時に、そのあまりの変わりように言いしれない不安感が胸の中に沸き起こった。
「おい、道の真ん中でなにキョロキョロしてるんだよ」
ふと後ろからした声に振り向くと、やけにビシッとした立派な服をきた少年三人が嫌な笑いを浮かべていた。
まるで人を馬鹿にしたような……見下すようなその笑みに腹が立ってくる。
「吉田様、こいつ、田舎者なんですよ。その証拠にほら、あの呆けた顔」
「あっはは! 田舎者は農村で畑でも耕してればいいのになぁ」
随分はっきりと言ってくれるじゃないか。確かに田舎者だけどよ。
そしてそのヨシダとか呼ばれたいかにも貴族風の男は、下品に笑う二人をなだめるように手で制してきた。
「まあまあ、二人共落ち着き給えよ。下民を笑ってはいけない。彼らは生まれる場所を選べないのだから」
まるで自分は望んだ形で産まれることが出来ると言いたげなその言葉の端々から伝わってくるのは、やっぱりこいつらは俺を馬鹿にしている、という一点だった。
こういう場合、下手に絡むべきじゃない。連中はこちらが
「はあ、実はそうなんですよ。こんな場所、初めて見たものですから、申し訳ないです」
自分でも寒気を覚えるような敬語を使いながら、極力感情を抑えて話す。
ちょっと不自然に見えるだろうけど、所詮相手は馬鹿なんだし、わからないだろう。
「ははははっ、うん、いいだろう。そういうことならこの中央都市の歩き方なんぞわからないだろう。
いいかい? お前たち下民は本来そこの端っこを通って歩くんだ。中央は馬車などが通る道なのだからな」
「そうですか。それは悪いことをしてしまいました。色々とこの都市についてお詳しい貴方様に、本当は色々とお話をお伺いしたいのですけれども……私の方も行かなければならない場所がありますので、申し訳ないですが、これで失礼させていただきます」
「待て」
そのまま頭を下げて立ち去ろうとすると、中央の貴族に呼び止められてしまった。
まだなにか言いたいのだろうか?
「下民、お前には貴族である私の名すら知らないであろう。ならば礼を欠かぬように覚えておくと良い。我が名はアルフォンス・吉田。かの英雄、吉田
「光栄に思えよ? 吉田様は寛大なお方だ。田舎では貴族の名など覚えなくてもいいだろうが、ここではそうはいかないからな」
はあ、子爵様の息子か。これはまた変なのが出てきてしまったな。
俺の後続の英雄の子孫なんだろうが……さっぱりわからない。
「ありがとうございます。自分は――」
「ああ、よい。下民の名など私は覚えることが出来ぬからな。それではな」
それだけ言って、その吉田だかアルフォンスだか名乗った貴族様は自分の乗っていたであろう馬車に乗ってしまった。
馬車……といっても馬がやたらと角ばっていて、生きている感じがしない。どちらかというと昔見たゴーレムのような印象を抱かせるものだ。
まあなんでもいいか。あまりじろじろと見てしまっては、また余計な詮索をされかねない。
俺はひとまず道の端に避け、前に進み始めた馬車に会釈するように頭を下げ、彼らを見送ることにしたのだった。
馬車がそれなりの速さで去っていく中、俺はさっきの貴族達の事を思い返していた。
なんだか鬱陶しい貴族そのもののような連中だったけど、妙に印象に残ったな。
確か……アルフォンス・吉田? だっけか。これ以上ないセンス0の名前だ。
俺だったら産まれたことを後悔する程ひどい名前だったからなおさらよく記憶に残ってしまった。
あんなのが貴族ってことはこれから先、あんな妙な名前の連中とか変わっていく可能性があるってことなのか……。
考えるだけでも頭が痛くなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます