リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~
灰色キャット
第一節 アストリカ学園編
第1幕 そして再び生まれ変わる
グレリア・ファルト。
この世界では誰もが知ってる魔物の
遥か昔の遠い歴史に生まれ、その名前を刻み込んだ男。
彼の名前は永い年月が過ぎ去った現在でも語り継がれる英傑の一人だ。
その古き時代を生き抜いた彼は、今白い空間の中にいた。
意識ははっきりとしており、自分がどう死んだかすら正確に覚えている彼は、最盛期の若い身体と、この異様な場所に戸惑いを覚えていた。
「おはよう。ちゃんと目が覚めたみたいだね」
声のする方に視線を向けると、そこには金髪の少年が人懐こい笑顔を浮かべていた。
どこまでも真っ白な空間。
地平線すら見えない場所にグレリアと少年だけしかわからない奇妙なところ。
だが、グレリアの方は普段となんら変わらないと言うかのような態度で目の前の少年を睨みつけた。
「おっと、怖い怖い。そんなに凄まないでおくれよ。希代の英雄にそんな目で見られたら僕も縮こまってしまうよ」
鋭い眼光を向けるグレリアにおどけるように大げさにぶるぶると震えてみせる少年の態度に思いっきり不満そうなため息を出すグレリア。
彼はこの少年がこんなふざけた態度をとってることに対して不満を抱いているわけではない。
どれだけの刻が過ぎたかはわからないが、死人であるこの身を無理やり起こしたことに対して不満を抱いているのだ。
「なんで俺を起こした?」
たったその一言。
それだけで並の人なら全身が泡立つ程の威圧感を覚えるだろう。
それほどの圧を受けても微動だにしない少年は慈しむように微笑み、ただグレリアを見ているだけだった。
その様子は気に食わないが、ただ漂うだけで満足に動かすことの出来ないこの体ではなにをする事も叶わないと諦めて深く嘆息する他なかった。
「僕もね、本当は君に頼るつもりは無かったんだ。だけどさ、もう君しかなんとか出来る人材に思い至らなくてね」
まるで知己の友人に向かって語りかけるような遠いものを見る視線に不審がるように顔を歪めるグレリアだったが、ようやくその少年がどんな存在か気付き、驚きの表情を浮かべてしまう。
彼はこの世界で唯一、理から外れた存在。
原初の
根源。または終着点……人はさまざまな呼び方で彼を賛美し称えるが、その行き着く先はどれもたった一つ。
神と呼ばれる存在がその少年だった。
かつてたった数度のやり取りを交わしただけの遠く及ばない存在であった彼に再び声がかかった事にグレリアはただただ驚くばかりだった。
「あ、もしかしてようやく気付いた? 遅いなぁ。
君ならすぐに気付いてくれると思ったんだけど……ちょっと鈍ったんじゃない?」
「死んでまであんたの声を聞く事になるとは思いもしなかったんだよ。
それにしても……今更一体何の用だ?
あんたの声を聞いて魔王を倒し、感謝されて以来聞こえないと思ったら……まさか死んでからあんたに会う事になるとはな」
グレリアが不満そうな顔をしているが、神はただただ笑顔を浮かべるだけだ。
「うーん、詳しく話すと難しくなるんだけど、簡単に言ったらもう一度生まれ変わってくれない?」
ウィンクなんかして随分と気軽に言ってくれる神に対し、呆れ顔になってしまう。
とりあえず生き返ってくんない? みたいな軽いノリで言われてしまえば、後悔もなく天寿を全うした者であれば、誰でもそうなるであろう。
「……嫌と言ったら?」
「だったら仕方ないけど……君も気になるんじゃないかなぁ? 君の子孫の事」
ふふん、と余裕そうな笑みを浮かべてちらっと横目に見やる神の姿に怒りを覚えそうになるグレリアだったが、確かに気にならないといえば嘘になってしまう。
――もし、もし私達が来て欲しいって言ったら……おじいちゃん、助けに来てくれる?
不意に、グレリアはそんな言葉を思い出してしまった。
死ぬ前に泣きながら言っていた孫との、最後の会話。
涙と嗚咽混じりの震える声で、
今がどれくらい過ぎ去ったのかもわからない。少なくとも彼の孫はすでに死んでいるだろう。
だが、もし自身の血脈が受け継がれているのならば――もう一度だけでいい。
自分が救ったその世界で、彼の子孫たちがどういう風に生きているのか……見てみたいと思ってしまった。
そしてその考えは神に筒抜けになっており、結論を出したグレリアに向かってより深い笑顔を向けてきた。
「ふっふっふっ……どうやら決意出来たようだね」
「……! ああ、そうだな。良いかもしれない。
これもまた一つのチャンスだと思うことにしよう」
こうして、グレリアは自身が救った――700年後の世界に転生するのだった。
――
転生する時期を告げ、グレリアが光に包まれ消えていった後を……たった一人で見つめ続ける神はどことなく寂しげな瞳でそこを見ていた。
「僕はきっと許されないことをしたんだろうね。……ごめんねグレリア。君にとってそこは……とっても辛い現実なんだよ。
でも、僕の力じゃ、どうすることも出来ないからさ。本当に……情けないよね」
決して涙を浮かべることはなかったが、宙を漂う彼の姿はまるで泣いているように見えた。
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