第13話

 大きな紙には、その分の大きさを誇る写真が色付きで載っていた。

 現代には写真をカラーにする技術があるらしい。

 私達、赤城の乗員じょういんは写真が色付きという事で、体を乗り出して写真にがっついてしまった。

 その写真を持ってきた隊員は、私達を気にすることなくあかぎ艦長に説明を始める。


「敵艦隊は恐らく、空母打撃群に相当するものと思われ、どこから見ても珊瑚さんごかい海戦かいせんです。」

「珊瑚海と言えば、あの…敵を視認せず戦った当時史上初の戦いだな。」


 あかぎ艦長は、相づちのようにとんでもないことを口にした。


「敵艦隊ですが、先程レーダーにて探知した索敵機の報告によって既に我を発見しているものと思われます。この写真は、ついさっき撮られたらしいのですが…」


 説明している隊員は、航空母艦らしきものに指をのせる。


「大量の航空機が、甲板に上がり、エンジンに火が入っています。恐らく、もう発艦が始まる頃かと。」


 艦橋が静まる。

 今は、対空兵装はそこまで強化されていないのだろうか?一向に、口を開く者が出てこない。


「攻撃こそ最強の防衛だ……誰かが、そんな事を言わなかったか?」


 南雲司令長官が、おっしゃった。

 だが、最上海将がそれに反論する。


「今の日本は、先制攻撃が出来ないのです。戦後発布はっぷされた日本国憲法で、そう宣言しています。例え、相手がこの時代の者でなくとも、恐らくこれは有効でしょう。そもそも、時空を越えると言うことが定義されていません。」


 艦橋にいる全員の目が、最上海将に集まる。


「攻撃を受けるまで、待つしかありません。」


 それから、時間は時を一定に刻むことを忘れたように早く過ぎ去った。

 時計を確認すると、少し前よりも長針が60度傾いていた。


Adviceアドバンス Hawkeyeホークアイ、着艦始め~。》


 電子音混じりの声が、艦橋に鳴った。着艦、と言えば当然、艦後方より航空機が接近するはず。という事で、私は艦後方に目を向けた。

 すると、思った通りに艦首を零時として八時方向に航空機が確認できた。双発機だ。大きな翼を生やし、背面を見せている。


《甲板乗組員キャットウォークに待避。甲板乗組員キャットウォークに待避。》


 この放送で一番疑問なのが、キャットウォークだ。直訳しても、猫の道…何なのかは、後で聞くことにしよう。

 そんな事を考えている内に、艦内が少し慌ただしくなったことに気付いた。

 段々と静かなレシプロエンジン音が聞こえてくる。ここまで静かなら、敵地におもむいてもある程度バレないのではないのか?

 不快な音が耳にはいる。着艦した。重量、甲板素材の関係で今まで聞いたことの無い音だ。

 だが、驚いたことに着艦用のワイヤーは現存しているらしい。何かに引っ張られるかのようにして、双発機は甲板上で動きを止めた。

 その機体は、すぐに主翼を折り畳む。幾度いくどか、主翼を折り畳む航空機の開発の話を小耳に挟んだことはあるが、このような畳み方ではなかったはずだ。主翼の根の部分から折り畳んでいるので、かなり小さくに見える。

 双発機は、エレベーターによって、颯爽と艦内に消えていった。


《敵機!我が、CATキャットCCシーシー管轄内に侵入!》


 まただ。艦内放送のように艦橋へ効率よく伝えられた。実際、艦内放送なのかもしれない。

 だが、ここからが早かった。

 あかぎ艦長は、右舷側の赤椅子から即座に立ち上がり、声をあげた。


「電文にて警告始め!一応、全周波数チャンネルでも放送。」


 すると、ある隊員が小さなダイヤルを回し始める。


「通信員より、電文の送信完了とのこと。」

「こちらは、日本国海上自衛隊航空護衛艦あかぎである。貴艦らが発艦されたと思われる航空機が、攻撃用の装備を搭載し、こちらとの接触を試みている。直ちに、この行動をやめさせなさい。」


 静かな艦橋は、そう簡単には戻ってこないだろう。

 それに、いくら実戦を経験してないにしろ、このくらいの行動が出来るということが分かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る