第12話

 艦橋構造物への扉が開く。艦内は、何かのくだやら箱やらでやたらと狭く見えた。

 自衛隊の下士官は、私達に道を譲ってくれるので答礼をしながらあっという間に艦橋へ到着する。

 軋む音もなく、すっと扉が動く。艦橋内部は、青のような緑のような色で壁や天井が統一にされている。当然ながら、未来だけあって操作方法や用途が全くわからない機器もある。それとなく分かるようなものもあるが…

 どうやら、私達に気付いた隊員がいるようだ。立ち位置からして、士官クラスか。


「護衛艦隊司令官各位に、敬礼!」


 突然、大きな声で先の隊員が言うと操舵している者以外はこちらを向いて、綺麗な敬礼を見せてくれた。こちらも負けじと、答礼をする。

 どうやら、未来は士官も作業服を着ているようだ。確かに、戦闘中に制服を着ていれば、動きづらい面も否定はできない。


《こちら、『あしがら』。0度に敵影確認。》


 艦橋に突然聞こえた。足柄?重巡洋艦…だよな?

 …そうか、足柄という名前は、同じように受け継がれたのか。まだ私は海軍に入ってから浅いが、何故か誇らしいような嬉しいような感情に浸った。


「見過ごせ。どうせ、落とせない。」


 赤い椅子に座った、明らかに艦長と判断できる人物が言った。

 すると、その回答に南雲司令長官が鼻で笑う。

 私は、南雲司令長官の気持ちを肩代わりするように指摘した。


「えっと……艦上戦闘機位積んでますよね?迎撃しないんですか?場所を知られますよ。」

「いえいえ。その点は安心してください。もう既に、敵がどこにいるかなど分かりきっていますので。」


 あかぎの艦長が言った。笑みを浮かべている。


「敵?!どこですか?」


 赤城の長谷川艦長は、あかぎの艦長の言葉に驚き、咄嗟に近くの隊員の双眼鏡を取り上げて外を確認した。


「どこに?」

「まだ、目視では確認しておりません。」


 あかぎの艦長が付け加えた。


「では、要するに策敵機さくてききを飛ばしたと言うことですね。」


 私が、確認のため聞いた。これでも、実戦の見学だ。未来の戦闘を知っておきたい。


「まあ、そう言えば、そうですが…」


 あかぎ艦長は、顎に手を当て少し考えた。また、こちらを向いた。


「では、説明させていただきますが…まず、艦前方を見てください。」


 南雲司令長官が周りを見られた。すると、直ぐに察した隊員が双眼鏡を渡した。それに続き、私にも双眼鏡が渡された。長谷川艦長は、既に持っている。


「あれは……陸上攻撃機か?」


南雲司令長官は、双眼鏡に目を付けながらおっしゃった。

 確かに、双発機が前方を飛行している。上には、円盤が載っている。

 同時に、この時代でもレシプロ機が残っていて少しの安心感を覚えた。


「あれは、海上自衛隊の新型早期警戒機…つまり、策敵機に当たる航空機です。」


 あかぎ艦長が、南雲司令長官の言葉に答える。すると、私も思ったことを司令長官が代行して言われた。


「成程…流石に、ここまで航空機が付いてこれるとは……航続距離が恐ろしく長いらしいな。」

「え?…ああ、あれは、艦載機ですよ。あかぎから発艦した機です。」


 あかぎ艦長は、一瞬とぼけた顔をして、直ぐ納得した表情になり言った。

 私には到底信じられないが、双発機が艦から出たらしい。


「艦長。敵艦隊の衛生写真が届きました。」


 艦橋に、大きめの紙を持った隊員が入ってきた。

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