第11話

 今日は、米海軍に対する反撃の日だ。

 私たち赤城の限られた乗組員は、日本の海軍である海上自衛隊の最新鋭航空母艦に乗せてくれるらしい。

 因縁かどうかは分からないが、その航空母艦はあかぎと名付けられたらしい。海上自衛隊最初の航空母艦らしいが……『鳳翔』は、ヘリコプターと呼ばれる戦闘機を積むための艦の名前に使われたらしい。揚陸艦にも成りうると聞いた。

 何はともあれ、現在帝国ホテルを出て直ぐにつけられていた車に乗っている。

 現在の記者達は、仕事に命を賭けている程らしく、それらしい人影がちらほら見える。

 恐ろしいほどの情報だ。自衛隊内部でも、相当な機密情報として扱われていたはずだが…

 記者も汚い手を使うものだな。




 車を走らせ数時間。辺りが明るくなりかけていた。

 段々と潮風の香りがしてきた。それで驚いたのだが、この車はスイッチを押すだけで窓が開く。面倒な手回しではないのだ。これは、とても画期的だと思う。

 そうこうしている内に金剛型戦艦の突出した艦橋が、遠くに見えてきた。

 昨日最上と出会った横須賀地方総監部の建物付近に、車が停まる。

 そして、少し海に出ている埋め立て地に連れてこられた。英語の“H”のマークが、地上絵のようにえがかれている。

 しばらくすると、バタバタ、という音が聞こえてくる。これは、私が海上で初めて聞いた音だ。恐らく、ヘリコプターだろう。


「では、早急にお乗りいただけると幸いです。」


と、最上がヘリコプターが着陸するや否や言ってきた。決行が近いのだろう。

 南雲司令長官を筆頭に、艦長、私、最上が乗り込んだ。

 ドアが閉まったと同時に、体が上方へ引っ張られた気がした。




 構造からは想像できない快適さをヘリコプターは、体験させてくれている。

 レシプロエンジンが真上にあるのに、前へ進んでいる。これも驚きだ。

 窓から太陽光で反射する海原を見る。そうやって、暇を潰していた。見学とはいえ、向かう場所は戦地だ。みんな緊張している。

 私自身も緊張はしているが、現代の日本はどのような戦法を執るのか気になり、気分が高揚している。そんな期待を胸に、水平線を見た。水平線よりも少し手前に、艦隊がある。

 甲板は木では出来ていないらしく、全体的に灰色だ。パイロット程の目がないと、遠くからの目視は難しいだろう。

 空中で動きを止めたかと思うと、ゆっくりと降下していった。段々、灰色の飛行甲板が近づく。

 日本国海上自衛隊自衛艦隊護衛艦隊第一航空護衛隊群第一航空護衛隊旗艦航空護衛艦あかぎ。それが、“今”のあかぎの役職らしい。長ったらしくて嫌になってしまう。だが、そんな堅苦しいところも日本らしさを連想させる。

 吐き気を催しながらも、コツン、と革靴が軽快な音をたてる甲板を踏み込む。飛行甲板には海に落ちそうな危なそうなところに、翼がとても大きくレシプロが見当たらない航空機のようなものが二、三機並んでいる。『零式艦上戦闘機』や『九六式艦上戦闘機』には、似ても似つかない。

 艦橋は、高雄型重巡洋艦のが縦に伸びたようなものだ。さらに、艦橋は長く、艦後方に至る勢いだ。だが、赤城の艦橋とは位置が違う。反対側にある。どちらかというと海軍の中でも赤城が珍しい方なんだが。

 気付くと、長く観察してしまっていた。周りを確認すると、甲板作業員にチラチラと目を向けられている。やはり、旧軍服を来た私達が珍しいのだろう。しかも、私の奥には南雲司令長官がいらっしゃる。それも大きな理由だろう。

 いつの間にか、ヘリコプターのエンジン音は消えていた。しかも、今まで回転していた場所が折り畳められている。

 最上は、甲板作業員との会話を終えたらしく、私達を艦内に誘導してくれた。

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