第10話

 2022年7月27日日本国東京都帝国ホテル。

 なんと、まだ、帝国ホテルは健在であったらしい。しかも、とても高くそびえ立っている。最上は、日本でも有数のホテルだ、と言っていた。

 ちなみに、反撃は明日の朝に始めるそうだ。それまでに、私達の泊まる場所に案内してくれるらしい。

 どうやら、私達は警戒されているか、厳重に警備されているらしい。制服姿の日本の軍人がそこかしこに立っている。我々、帝国海軍の下士官にまじまじと見られても直立不動だ。

 気付いたら、隣にいる最上が笑っていた。何かを企んでいるように見えるが、実に楽しそうだ。


「ようこそ。日本へ。」


 すると、まだ二階しか上がっていないのに扉へ案内された。普通は、士官が上だろう、と思ってしまう。今の時代は違うのか?

 扉が開くと、そこは部屋ではなかった。

 ここは、とても広い場所。宴をするにはもってこいの場所だ。いや、実際そうなのだろう。机がところ狭しと並んでおり、軍服を着ていない、恐らく会場準備が未だに動き回っていた。

 私達は、状況が飲み込めきれておらず、最上の言うとおりに壇上の近くの円卓に座った。

 しばらくして、それぞれの艦の准士官以上の帝国海軍軍人が入ってきた。

 全員が入りきるまで、少し時間がかかった。やっと、会場の出入りがなくなったことを確認してか、一人の男が壇上に上がった。


「まず、皆さん。我々の指示に従っていただき、ありがとうこざいます。そして、察している方が殆どかと思われますが、ここは昭和の世界ではありません。戦後の日本の末路をご覧いただいているのです。日本は、開戦のため行えなかった東京オリンピックを戦後間もなく開催。2年前には、2回目の東京オリンピックも行われました。」


 興味深い話しに、士官全員が釘付けになる。

 その後も、私達が護ろうとした日本はどうなったのかをずっと聞いていた。だが、何故か戦争の結果だけは口に出さなかった。発展具合で悟れ、ということなのだろうか。新しいことを知ると、新しい疑問が湧く。


「では、歓迎会を迎えるに当たって、国歌斉唱と行きましょう。」


 壇上の男がそう言うと、壇上の端の日本軍人が日章旗と旭日旗を掲げた。

 会場にいる全員が、脱帽し、起立した。


 ━━君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて 苔のむすまで━━


 国歌斉唱は、オーケストラの生演奏であった。斉唱が終わったので、どんな人たちが演奏していたのか確認するため、目を向けた。

 どうやら、日本軍の音楽隊のようだ。軍服を身に付けている。

 これから楽器をろすのかと思ったら、指揮者が指揮棒を下から上へ勢いよくあげた。

 指揮棒が上に達して、また下に下りた。瞬間、トランペットとトロンボーンが聞き慣れた音を出した。音が下がったときに聞こえるテューバが、とても味を出している。

 “行進曲「軍艦」”だ。


「…まもるも、攻むるもくろがねの浮かべる城ぞ頼みなる…」


 唐突に流れたのにも関わらず、歌詞がすらすらと口を滑っていく。

 どうやら、私だけではないらしく、この会場にいる一部の士官は立ち、大きな声で歌い始めた。南雲司令長官も、口が動いている。

 未来に来ても、聞き慣れた曲を聞くと安心してしまう。

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