第6話

 時期不明、国不明、東京湾浦賀水道航路。

 艦隊は、東京湾に入るため浦賀水道航路に突入しようとしていた。だが、浦賀水道航路に入る前に私たち、帝国軍人はあり得ないものを見た。先程、遭遇した艦隊の艦でも十分多いのに、浦賀水道航路の出口には先程のような艦が多く並んでいた。港に私たちが入港できるように、自衛隊とやらの艦隊を湾外へ出させたそうだが、あまりにも数が多すぎる。

 赤城の艦橋では、先程のしらぬいの副長である磯部芳美が南雲司令長官と話をしている。


「そういえば、不知火は大日本帝国海軍では駆逐艦として運用しているのだが、当然、それとは違う艦なんだろう?」

「はい。先程も言いましたが、日本国は戦後の大日本帝国の名前であり、艦名も平仮名で表記されています。ですが、日本国のしらぬいも国際上では駆逐艦なんですよ。」

「あんなに、大きいのにか?凄いな。」


 南雲司令長官は、受け入れがたいことも直ぐに信用したように感嘆された。


「ということは、やはり大日本帝国は勝ったんだな。山本長官のやつにも言ってやらなくちゃな。やっぱり、勝てた、とな。ハハハ!」


 そう言って、南雲司令長官は大きく笑われた。

 だが、磯部芳美の表情はどんどん沈んでいく。


「どうしたんだ?」


 南雲司令長官も気になったらしく、磯部に問いかけた。


「い、いえ。なんでもありません……」

「……分かってる。死ぬんだろ?終戦前に。」


 南雲司令長官は、普通言うことすら辛いことを簡単に言って見せられた。だが、それも違うと言うようなような合っているとも言うような難しい表情で、磯部は南雲司令長官を見ている。


「浦賀水道に入ります!」


艦橋の一人が言った。


「な、なんだ!あれは!!」


 一人が、空を指差して、突然叫んだ。艦橋の全員は、指された方を向く。


「ああ。あれは、東京スカイツリーですよ。自立式電波塔と言って、あそこから電波を飛ばすんです。」

「ぐ、軍事施設かなんかなのか?電探でんたんか?!」

「いえ。民間の電波を飛ばすためのものです。」


 さっき指されたのは、空ではなかった。空まで伸びた、建物であったのだ。しかも、それが軍事施設ではないと言う。どこまでも発展した亜米利加のような場所だ。それ以上とも言える。この国の工業力には、恐怖を覚える。

 いや、磯部の話だと、これが日本のすえということなんだよな?


「あ、あれは、敵か?!星条旗だぞ!」


 今度は、双眼鏡で周囲を確認していた士官が言った。みな、“星条旗”という言葉に反応した。

 確かに、港の一角に星条旗が掲げられている。


「あれは、どういうことだ?!」


 一人の士官が、磯部に詰め寄った。


「どういうことも何も、あそこは米軍基地ですよ?」

「なにぃ?!騙したのか?!」

「いえ。アメリカとは現在、同盟関係にあり日米安全保障条約というものに基づき、日本の各地に米軍が駐留しているんです。有事の際は、米軍が日本の防衛軍、自衛隊と共に戦います。」


 知らない世界を知ろうとすると、頭が破裂しそうだ。要するに、今は戦争をしていないということだな。だが、突拍子にこんなことを言われたら、これを受け入れられない人もいるだろうな。

 現に私も、これまで経験してきた国のぶつかり合いが頭に残り、完全な信用には至っていない。


「入港用意!」

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