此処は?

第1話

 1941年11月24日 大日本帝国北海道択捉島単冠ヒトカップ湾。

 先月に、大日本帝国海軍連合艦隊第一航空艦隊に属する、第一艦隊と第二艦隊の艦艇から臨時に編成された第三艦隊第一小隊の戦艦『比叡』、『霧島』と第八艦隊の重巡洋艦『利根』、『筑摩』、第一水雷戦隊の軽巡洋艦『阿武隈』、同戦隊第十七、第十八駆逐隊が単冠湾に集められた。

 最近では、鹿児島県で航空隊の訓練が延々と行われていた。亜米利加アメリカの真珠湾を攻撃するのでは?という噂が飛び交っていたが、恐らく今回の召集はこれだ。

 すると、私、鈴木涼介の元に一人の男が手紙を持ってきた。


「鈴木大佐。ご無沙汰してます。」


 男は、海軍兵学校の後輩でたまに私と言葉や酒を交わしていた。


「清水~!久しぶりだな!えっと、名前は~……」

「故晴。清水しみず故晴ゆえはるです!お久し振りです。」


 清水は、敬礼をした。清水は、同じ大佐だが、任期は私の方が長いので清水は敬語を使っている。


「で、今日はどうしたんだ?」

「実は…今回の作戦の件で、山本五十六連合艦隊司令長官より手書きの手紙を、赤城の艦長殿に…」

「ほう。出来るだけ、経由を多くして機密性を高めるんだな。どれ、こちらで一部確認をしよう。」


 私はこんなことを言ったが、実際はただ中身が知りたいという好奇心だ。

 清水は、その事を察したか分からないが、私に手紙を渡した。手紙の開封口はもうボロボロで、恐らく経由した士官の皆みなが見たのだろう。

 私は、ボロボロでもこれ以上破れないようにと、慎重に封を開けた。


……………


 作戦の概要は分かった。

 だが、内容には不可解な文章が含まれていた。まあ、艦長と長官なら分かる暗号文だろう。うん。絶対そうだ。そうであってほしい。

 私は、そっと手紙を封筒の中に入れた。


「清水。お前は読んだか?」

「やはり、自分も好奇心に負けて…」


 清水は、少し恥ずかしそうに言った。


「まあ、いい。私も人の事を言えない。…ちなみに聞くが、お前はなんで単冠湾にいるんだ?」

「それが、第三艦隊が編成されたときに比叡の砲術長を任されたんですよ。そしたら、第一航空艦隊の護衛艦になって。本当に、切っても切れない何かで繋がってますね。自分ら。」

「女ならまだしも、男とはなぁ。お前とは、腐くされ縁えんがあるようだな。それより、第一航空艦隊の護衛艦とはなんだ?」

「え?聞いてないんですか?連合艦隊…いや、世界初の航空母艦を主にした機動部隊が編成されたんですよ。この単冠湾にいる艦隊で!と言っても、あくまで艦隊構想が、ってことです。」


 清水は、海軍本部からの信頼が厚いと聞いていたがここまでとは。第一航空艦隊旗艦『赤城』の副長を勤めている私にも入ってこなかった情報だ。


「そうだったのか…あ、いかんいかん。これを艦長の元へ届けなくては。おい!」

「はい。なんでしょう。」


 私は、近くに待機していた伊藤少尉を呼び寄せた。私は、伊藤少尉の経歴を見たときに、是非そばにいて欲しい、と思ったため、半ば強引に側近として赤城の乗組員とした。やはり、私の目には狂いがなく、伊藤少尉はとてもよく働いてくれる素晴らしい尉官だ。


「内火艇ないかていを手配してくれ。」

「分かりました。少々、お時間を頂きます。」


 伊藤少尉はそう言うと、綺麗に踵きびすを返し、港へと向かった。


「では、鈴木大佐。自分は、そろそろ戻ります。」

「ああ。手紙、確かに受け取った。」


 私は、そう言いながら封筒を内側の胸ポケットにしまった。

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