百年と新人

 

 オーロラ鋼調査団はその発見を記念して、地球周期100年毎に行われる、ある種のお祭りのようなものである。しかしオーロラ鋼の特性上、存在している星は厳重に管理され、そこへゆく特殊空間航路は基本的に封鎖されている。またどちらかというと、死期に近い星から産出されることが多いので、必然的に危険もはらんでくる。特殊空間航路もその影響から封鎖されていることも多い。

特殊空間航路のパイロットの中で技術的にも人間的にも信頼されていることの証として

「封鎖、及び一時的封鎖、特殊空間航路特別通行許可証」が与えられ、それを持つ者がオーロラ鋼調査団には、必ず一人はいなくてはならない。ジャックも総司令も勿論持っている。この許可証を持つことがパイロットの目標となっており、それには優れた航行技術、経験、自制心など様々なものがなければならない。普通3人から4人選ばれる調査団のクルーのうち、二人は持っている。しかし、新人パイロットではまずなにより経験不足のため持つことはできない。教えながらの大変な航海になるのではという大方の意見であるが、若いパイロットには最高のチャンスであった。


「キャプテンジャックがオーロラ鋼調査団に新人二人を選ぶ」


という声明を一年前に出すと、明らかに訓練校生全員の目の色は変わった。あのキャプテンジャックと一緒に一年近く航海ができる、ヴェルガはいないけれど、どれだけの事が学べるか。皆選ばれたいと素行を自ら改めて訓練した。

「すごいな、もっと頻繁にやってくれると助かるな」と宇宙中の教官は思った。最終的に十数人がキャプテンジャックと面会し、そのあと調査隊の数名を決定することとなった。5日ほど前から、総司令部内の宿泊施設に、その最終選考に選ばれたパイロット達が、宇宙中から集まり始めた。

  

「へえ、君の教官あのキャプテンポウなんだ、じゃあキャプテンジャックの話とか聞いているだろう?」


「聞いてる、聞いてる、でも必ず、おれの方が天才だっていうんだ、さんざん自分の話しして、それもま、すざましいんだけど。で最後に言うんだよ、ジャックは盗みの天才だって、先生が、自分が気付かなくてやってる事を全部一度頭で考えてやるんだってさ、会ってすぐは、いいやつだがサマーウインドが言うほどのやつじゃないって思ってたんだって。それがしばらくすると、見たこともないような技術を使ってるから、それどうしてるんだ、って聞いたら、あなたがこうやってらしたのにちょっと手を加えただけですって、答えたんだってさ。それから先生はもう一度自分がどうしているのか考えて、そして今それを教えているだけなんだって、ジャックがいなければ、教えることなんてしなかったし、できなかったろうって」


「へえ、素直だな」


「うん、ジャックにあんなことさえなかったら、特別教官で宇宙中を回ってもらうのにって、いつもそういってる」


若い二人は黙ってしまった。この二人は早くに施設に来たので、一人はこの話を何度もして、一人は何度も聞くはめになった。候補生達は、いろいろな星から来て、さっき会ったばかりなのに、何でも話し、聞いていた。そしてキャプテンジャックに会う前日の夕食は、本当ににぎやかで楽しげだった。しかしこの夜の中心にいたのは、トラブル続きでその日の朝にやっと着いた、ボウ族の青年だった。彼は長い船旅の疲れで着て早々寝床に入り、気がついたらもう夕食だと起こされたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る