睡魔と名星


 ボウ星、そこは宇宙で最も名の知れ渡った星である。どこの星の教科書にものっており、彼らは一見過酷と思える自然状態の中、それと完全に調和した生活を送っている。

「すごいなあ、ボウ族にあえるなんて、最高だよ」

「ねえ、やっぱり君は海の歳月に生まれたのかい?」

「ナダムってすごい祭りなんだろう?」質問がいろんなところから飛び出した。


「まあまあ待てよ、このボウ・ジャック(ボウ族はほとんどボウ星から出ないので、宇宙に出ると、敬意を込めてボウ、と前につけられる)は、久々の里帰りの後ここに来てる。かなり疲れているんだ。俺とは訓練学校が一緒で、ボウ族の話はたいがい聞いてるから、俺が代わりに答えてやるよ」

「いいよ、お前の話は。本人がいるのに」

「俺昆虫が好きなんだ、ボウの虫を本当に見た人間から聞きたい」時間はそうなかった。ボウジャックは


「ボウのことを話すのは僕も大好きだよ、ただ明日は大切な日だから、簡単に説明するよ」宇宙に出て以来、誰からもボウのことを聞かれるので、かれは年齢や職業に合わせたボウの紹介文、のようなものを持つようになっていた。小学校、中学校、高校大学、研究者用。

「訓練して、食べて、寝てる以外はずっとボウのことを話すか書いてるかだよ」

と二週間前ボウに帰った時話すと、みんな大笑いしながらも、とてもうれしそうだった。ここに集まった人間はボウのだいたいのことは知っていたので、ボウジャックは自分が海の歳月に生まれ、その頃の海はひどく荒れていたことをまず話した。

特殊空間航路とボウの海はつながっているのではないかといわれるほど、ボウの海が荒れれば特殊空間航路も荒れる。ただ普通は数年後特殊空間航路がそうなるのに、この時は全く同時期になってしまった。しかし驚くべきことにボウでは船が沈むことはなかった。


 ナダムとは競馬、レスリング、弓矢、水泳、楽器の演奏までを一人の人間がこなし(十種競技のようなもの)その総合力で優勝者を決めるボウ最大の祭りで、自分は2位だったのにシャーマン達がみな自分を指名して、一人、パイロットの養成学校に入ったこと。そしてなによりもこの年代にもってこいなものが、女の子の話である。


「海の歳月(水上生活)に生まれた女性は美しく、農の歳月(農耕生活)に生まれたものは働き者で、回の歳月(遊牧生活)に生まれたものは心豊かだっていわれているけど、本当に当たっているんだ、ただ、女の子のいるまえじゃ話さないようにしているけど」

とボウジャックが言うとみんな大笑いした。特殊空間航路を飛ぶパイロットに女性はいない。女性の生殖器に異常をきたす率が高いからである。


「あたしだって女だよ! 」と食堂の年配の女性がいうと、


そのタイミングのよさに部屋中がどっと音をたて、笑い声がしばらく続いた。その賑やかな雰囲気の中、ボウジャックはふと一人の若者に目がいった。みんなボウジャックの周りで立っているのに、彼は座ったまま落ち着いた感じでこちらを見ていた。ボウジャックが彼に向いふっと笑いかけると、彼も微笑んで返してくれたが、ちょっと疲れた様子で目をパチパチとさせていた。その行動から、彼も最終候補に残ったことを遠く離れた故郷の星に報告して、そのままここに来た自分と同じなのだろうと思った。

「それにさ、こいつは自分でいわないが、3Aクラスの航海術を持ってるんだぜ」とボウジャックの友達は自慢げにいった。

「3A?すごいな」

「へへー、おれは持ってるぜ、とったばかりだけど。確かもう一人持ってるやつが、そうそう、タイゼンジ、持ってるんだよな」と彼は振り返り、さっきボウジャックが見た方向をみた。

「ん?」といった顔で座っている彼はこちらを見た。かなり眠たそうで、みんなの話ももう聞こえていないようだった。

「関係ないよ、本当に宇宙に出たらそういうじゃないか」とボウジャックが言うと、話の内容が分かったのか、こくりとうなずいた。みんなそろそろ部屋に戻る時間だ、と世話係から言われ、タイゼンジは真っ先に部屋に向かった。

 誰かがこう言った

「確かあいつもジャックだったろう? ジャック・タイゼンジだよ」

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