再会と美声


 彼は長い廊下の終点にやっと着いて、そういえばはじめて部屋のプレートをまじまじと見上げた。

 総司令官室 デューク=サマーウインド

  

「そうだなヴェルガ、この人はたった一人であの頃の特殊空間航路を渡って来たん だ。私は君に甘えて、ちょっと楽をしすぎたのかもしれない、もう一度やるさ、彼を越えるために」


キャプテンジャックはドアをノックした。すると、さっと開いて懐かしい声がした。

  

「ジャック、久しぶりだな」

  

「本当に、キャプテ、いえサマーウインド総司令」


「その言い方が好きだなあ、キャプテンって呼んでくれと言っているじゃないか。年々そう呼んでくれる人間が少なくなっていく」


 サマーウインドは初めて3Sの航行術を授与された優れたパイロットで、新人(訓練校を卒業したばかりの人間)の頃のジャックを指導し、その後、総司令になってもう7年目である。

「気を付けますよ」とジャックは言いつつ部屋を見渡した。


「誰もいないさ、時間までここでゆっくりしてくれ」かなり興奮したような感じだったが、その理由は既にママ・ハーナ(サマーウインドの妻、義手、義足の人々の競技エンランの優勝者)に聞いていた。


「ジャック、あの人ったらあなたに逢う日に仕事をしたくないものだから、一生懸命やってるわよ、今までできっと一番ね」多分睡眠時間を削ってまでそうしたのであろう、目の下にくまが出来ているように見えた。


「大丈夫ですか、お体の方は」


「大丈夫かだって?お前こそ調子が悪いなら何時でも言ってくれ、俺がオーロラ鋼調査団でいくよ。知ってるだろう、夢だったんだ」


「ええ、その時はお願いしますよ、そういえばキャプテン・ポウはどうしています?」

キャプテンポウも3Sを持つ、サマーウインドと同期のパイロットで、オーロラ鋼調査団に入りたがっていた。


「あいつもいい年して、自分が面倒みた若いやつをって言うんなら分かるが、まあ、あいつが生真面目にこれだけ先生をやるとはね」


「特殊空間航路でのダメージ率が極端に下がっているんでしょう?」


「お前、あいつに教わったとき、そんなに教え方が上手いと思ったか?」

キャプテンポウは航行術もそうだが、特に特殊空間航路で襲ってくる磁気弾(磁気ではあるが石のようなもの)の狙撃はまさに100発100中であった。


「うーん、彼の腕は天才的でしたからね、教わるというより見ていただけでしたよ。あんまりこうしろとかああしろとかも言われなかったですから」


「俺たちの時代は、絶対、がない時代だったからな。でもジャックのやつから全部盗まれたっていってたぞ」


「だって、そうしてこいとキャプテンが言ったんですよ」


「俺よりポウのほうが上手かったからな、グリーンにしても塩(苗字である)にしても。優れた個所がばらばらでよかったよ」


「皆、個性的で」


「なんせ神様から選ばれてるからな、宇宙中の土着の」


サマーウインドが若くまだパイロットになる前、特殊空間航路が荒れ狂い、ほとんどのパイロットがその犠牲になったため、数年に渡り完全に閉鎖されたことがある。その頃の総司令官が預言、占星術、とにかくあらゆる手を使って「生き残れるパイロット」を捜した。パイロットの養成施設に入るために教官の面接だけではなく、複数の呪術師と面会するように言われたのは後にも先にも彼らの頃だけである。それだけではない。

 宇宙船にヴェルガは乗らなかった。人間とそのヴェルガは死ぬまで行動をともにする。優れたパイロットとヴェルガを同時に失う悲劇を避けるため、このころパイロットでヴェルガを持つ者はいなかった。また、特殊空間航路の荒れ方が多量の磁気弾、強烈な磁気嵐といったものだったので、それを避けるパイロットの並はずれた腕が必要だったのだ。

  キャプテンジャックがパイロットになりたてのころから、除々に宇宙は落ち着きだしたが、サマーウインド達の下で学び、完全には静まっていない特殊空間航路を知っているため、自然と高い航行術を身につけていった。

  

「大変な時代だったが、ボルトもクリームもいたしな」


と、まだ存命中の老ヴェルガの名をいった。ボルトは機械ヴェルガと呼ばれ、ヴェルガの研究者の間では歴史上ジャックのヴェルガより重要とされている。

「ねじ山をきることのできるヴェルガ」は伝説として残ってはいたが、本当に証明されたのは、彼がはじめてだった。

クリーム、ドクターヴェルガは、死の病といわれた第四宇宙病の抗体の生成に何度となく挑み、年齢的に最後と言われたその際中、反ヴェルガ組織の起こしたクーデター(オーロラ鋼船事件ともいう、調査隊とは関係がない)が起り、にもかかわらずそれに成功した医学ヴェルガの長である。

  

「一応航路表には彼らを訪れるように組んであるが」

  

「ええ、お願いします。何度も助けてもらいましたから」

 昔の話は尽きることがなかった。

 あと少しで予定の時刻という時になって総司令はこう聞いた。


「いいのか?本当にあとの二人は新人で、もう遅いか」

  

「いいですよ、こちらも新鮮な気持ちにもどれます」

  

「まあ、行くところは、ほとんど初めてじゃない、気楽な気分でというところだな。ああ一応最新の航路の状態が入ってきているが、見るか?」


「お願いします」二人はてきぱきと航路の危険個所などを話しながら、全く意見の相違もなく仕事の話を終えた。すると外からノックする音と

  

「サマーウインド総司令、キャプテンジャック、お迎えにあがりました」


と明瞭な声がした。


「いい声だろう、よくきこえるんだ、うるさくもないしな」

微笑みながらそういって、二人は部屋を出た。ジャックは呼びにきた若い彼に

  

「いい声をしているね」

と声をかけた。


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