第3話特殊空間航路について
話は元に戻るが、なぜ「協調と調和の一千年」がそれほど重要だったか、ということを語る時、その最後に訪れた最大の発見を導きだしたから、ということになるのかもしれない。
この一千年の間、大規模な宇宙建造物は、全く作られなかった。きっとそれは昔の人が思い描いていたのとは真逆であったろう。もちろん計画は何度もあったが、それにかかる莫大な費用と宇宙飛行士の危険を考えたとき、ゴーサインはだせなかった。
かといって宇宙開発をしなかったわけではない。人間が乗ることの可能な、かなり光速に近い乗り物が開発され、精度の高い望遠鏡が世界中に配置された。そして無人の探査船が宇宙のあらゆる方向へ飛んでゆき、基本的に地球に帰って来るようプログラムされていた。大気圏に入る前に、それを回収し宇宙ステーションで分析することが、宇宙飛行士の役目になっていた。
だいたい探査船は百年から二百年という長い長い旅をしてくる。採取したものや探査船に付着したもの等、調べなければならないことは山ほどあったが、これと言って特筆すべきものもなかなか見つからなかった。長旅を終えて帰還した探査船を、初めは皆賞賛したが、それが20、30、40、となるともう当たり前のこととなってしまった。設計者も作った人も誰もいない星へ、溜息を聞くために戻ってきたわけではないと、きっとこの頃の探査船は思っていただろう。しかし映像は貴重で美しいものがたくさんあり、人々の心をとらえた。こと宇宙飛行士は
「いいなあ、おまえたちは旅が出来て」と話しかけていた。
それは別に特別な探査船ではなかった。いつものように採取したものを研究室で探査船のボックスから取り出していると、あるはずのないものが入っている。スパナである、しかも名前をマジックで書いてある。たぶん誰かがなくしたものを、
「自然界ではありえない形のもの」と探査船が認識し採取したのだろう。発見場所は太陽系を遠く離れたところである。
宇宙飛行士は全ての物の管理をしなければならない。スパナ一本でも失くせばそれを記録しなければならない、いつ、何の作業中に、どんな理由で、どの方向に飛んで行ったのかを。記録は勿論すぐにでてきたが、どう考えてもこの探査船のボックスからでてくるのはおかしかった。帰り道に拾ったにせよ方向が違う。持ち主の宇宙飛行士はよほどこのスパナに思い入れがあったのか、ステーションを離れるとき、スパナが今木星の近くで、将来的にどの引力圏にも入らないことを確認したデータまで残っていた。今から100年以上前昔の話であるし、そのころ探査船は太陽系を離れている、出会うはずはない。
「どう思う?」宇宙飛行士達は話した。
「どうってとりあえず詳しく調べてみよう」
解析の結果はこうだ。確かにスパナは20年ほど太陽系にいた、しかしなぜか全く違う場所に移動していた。採取の模様は探査船が記録しているから、その場所で間違いはない。
「抜け道みたいなものがあるのか・・」
彼らはもう一度調べその詳細を報告した。学者、研究者は、この結果をある種疑いながらも、試してみることにした。
スパナがきえた空域をくまなく探査、僅かに磁場の乱れがあり、しかも光を吸収する処を発見し、そこにものを入れた。すると、物も発信機の反応も消えてしまった。その結果が分かるのには数十年を要したが、今まで探査船が採取した鉱石を調べ直すと、放射線などの値から、全く違った二つの場所へどこも通過せず行ったとしか考えられないものが2個あった。
そして、その後、発信機付きの物体を回収することに成功した。
特殊空間航路の発見である。
これにより人類は本格的に宇宙に飛び立つこととなる。たった一本の名前つきのスパナがその発見を導いた。スパナに名前をかいた彼は、自分の持ち物全部にそうしていたらしいので、特殊空間航路のことをパイロット達が「通学路」と時折呼ぶのはそのためである。
人類が宇宙に飛び立つために必要だったもの。
「特殊空間航路、オーロラ鋼、そしてヴェルガ」
ヴェルガについては説明よりも以下の話で詳しく理解できるだろう。ただ一言だけ言えるのは、「人類はいつかヴェルガに追いつくことを願っている」ということだけだ。
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