2-2

奴隷、ファイを買ってから数日。


「おい、ネイピア。お前ようやく奴隷買ったのか」

「余計なお世話だ。ほっといてくれ」

「いや、よくやったぞ。これでお前も一人前だ」

「ほっとけ」


皆が奴隷を買う理由はよくわかった。ファイはよく教育されており、俺が一人でこなしていた家事のほとんどをファイ一人でこなす。有能なんだが、夢の話をしてもだいたいはぐらかされるのがな。


「お前、何で俺に買われたんだ?」

「そういうきまりになってるから」

「何の決まりだよ」

「それはわからない。けどそうするのが正しい気がする。」

「よくわからん奴だ」

「それよりネイピア様、今日は学科の日では?」

……すっかり忘れていた。


学科、正確には「魔法技能検定試験学科課程」。俺たち下級騎士は学科課程が必修とされており、その後の実技課程で、実際に魔法を使う人間が選ばれる。


「どんなことをするんです?」

「手続きの話ばっかりだよ。あの書類をどこに出すとか、この書類はこう書くとか」

「火の出し方とかは?」

「実技の方でやる。というかほとんどのちゃんとした魔法の使い方は実際に免許取ってから配属先で教えてもらうんだよ。だから実技も本当に基本的なことだけ」

「それでも面白そうです。ついていってもいいですか?あと、僕にも免許って取れるんですかね?」


――同刻、首都王宮にて

「姫様、また占いですか?」

「いや、ただ水晶に手をかざして居眠りしていただけ」

「姫様、休まれるなら寝室にお越しくださいませ」

「夢を見ていたのよ。これからの夢を」

ひとつ、焼き菓子を齧る。


 結局要項を隅から隅まで読んで理解できなかった挙げ句、教官に聞いた。「魔法技能検定試験」のシステム上、通称魔技試験に身分は関係なかった。どうやら破産から奴隷身分へ落ちた連中の一発逆転が狙えるとかで、奴隷出身の魔法技能士の学科のみ合格がちらほらいるらしい。……学科のみ合格ってのがまたややこしい。こいつは正規の教育をうけた人間はまず受かるように出来ており、士官や将校になった際に魔技士の書類を処理するために必要だそうだ。技能試験の方は実際に術者として運用する際に必要になるらしい。

「取れたらいいなあ」

「てきとーにやってりゃ取れるだろ。それより今日の飯どうする?」

「お魚を買いに行きます!」

「夕市行くか」


夕市のどこかにて。

「というのが今回の報告です」

「ご苦労。引き続き技能士となれるよう励め。士官となって情報を得た暁には国の保護のもとで一生不自由ない生活だ」

「頼みますよ、本当に」

「他に懸案事項等はないな?」

「一点だけ」

「同期のネイピアですが、ファイと名乗る奴隷を購入しました」

「……アタリを引いたか?」

「わかりません。ですが夢の話をしていたので可能性は高そうです」

「引き続き監視せよ」

「わかりました。報告は今度こそ以上になります」

「了解した。頑張れよ」

答えようとした先に、もう黒髪の上官はいなかった。

「カイチじゃん、何してんの?ってか黒髪二人は目立つな、親戚?」

ついさっきまで噂をしていた金髪の同僚に大声で話しかけられる。

「なんでもねえよ。頑張れって発破かけられただけさ。あとお前によろしくって」

気の抜けた返事。何だお前奴隷この間までめちゃめちゃ嫌がってたくせにそんな可愛がりやがって。というか魚なんて買ってどこで調理する気だ。

「捌いて中庭のとこで網で焼いて食うんだよ」

「匂いと煙が迷惑だ馬鹿、やめろ」

「お前も来るなら魚買ってこい。銀色のやつだぞ」

銀色のやつだな。あと酒と暇そうな連中に連絡だ。

ファイに目をやる。

「あ、全然だいじょうぶです、頑張りますよ!」

そういえば歓迎会、してなかったな。


――同刻、首都王宮にて

「ああ……お魚食べたいですね……」

「姫様、今日の献立は牛です」

「仕方ありませんね。行きますよ」

「駄目です」

「いやファイは私の」

「駄目です」

「だめ……?」

「駄目です」

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