2-1


「お前、奴隷買わないのかよ」

同期のカイチに問われて答えに詰まる。

俺、ネイピアはブリテンの下級騎士。

昨年の入試でやっと合格できた1年目の見習いだが、この国のためにすべてを捧げるつもりだ。

魔法は全く出来ないが、それでも剣技には自信がある。

しかし……奴隷か。

「いや買わないってことは無いけど」

「じゃあ何で買わないんだよ」

「奴隷資産税とか面倒で……」

「一回やっちまえば楽勝よ、教えてやるから今度買いに行こうぜ」

「いや、自分の世話くらい自分で」

「いいって、照れんなよ。一緒に行ってやるから行くぞ」


奴隷市場は非常に賑やかだった。

……慣れていないものが硬直し、怖気づく程度に。


「よし、お前の好みはどんなのだ。性処理もできるやつか?それともただ身の回りの世話だけするやつか?」

「身の回りの世話だけでいいよ。相手は適当に見つける」

「立ちんぼより安いぜ?」

「毎日顔合わせるのに……」

「それがいいんだろ。お、あれなんかどうだ?」

同期は勝手に幼い女の子の方へ行った。勝手にしてくれ。俺はただ身の回りの世話だけしてくれて、適当に面目が立てばそれでいいんだ。とふと横を見る。

通り一つ向こうの少年と、目が合う。


――情景。


その少年が眼の前の燃え尽きた木から出てきてにっこり笑う。

「やあ」


――目が覚める。

「おい、騎士さま!」

声をかけられて気付く。


「大丈夫か?」

奴隷商に生返事を返し、少年の頬に触れる


「君は……」

「僕を買って。そしたらわかる。説明できるから」


必死な目で見てくるが、それはそれで面倒そうな


「騎士さま知り合いかい?こいつ誰にも買われたがらなくて困ってるんだよ。良かったら値引いとくから引き取ってくれないか?こんなもんでどうだい?」


算盤に出された金額は、他と比べて圧倒的に安いものだった。


「その金額なら」

「よし、決まりだ」


少年、青年に入っていない年頃の少年の奴隷はファイと名乗った。その名前には覚えがある、ような気がする。よく聞くブリテンの市民のような名前ではないが、何故か。


「ね、僕の名前に覚えがあるんでしょう、ネイピアさん」

「何故俺の名前を」

「触れればわかるよ」

手をのばしたファイの手に恐る恐る触れる。


情景が流れ込んでくる。

――そこは楽園であった。

人々は終わらぬ春にて、桃を食べつつ無限の生を謳歌していた。


そこに一人だけ悲しげな目で遠くを見る巫女が――


目を覚ます。


「何だ、今のは」

「記憶、記録、そのどれでもいい。そのどれかの一つで、僕らの運命だ」

鼻で笑い飛ばす。

運命なんて。そんな戯曲や物語でもあるまいし。


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