1-5

”それ”の前兆はあった。

敵や味方の攻撃による傷がどんどん浅くなっていた。

怪我をして後方に戻った連中が前線に戻ってくるのが遅くなっていた。

物資が届くのが遅くなっていた。


そしてその日がきた。


何度目かの神の魔法による攻撃の日だった。

何も起こらないのだ。

これまで同様に文様の上で呪文を唱えても、血を加えても、何をしても。

何も起こらない。


そして防壁が決壊した。


ただの石の壁にこの死物狂いの軍勢を押し止める力はなく、補給の遅れによって矢も石もない俺らはすぐに背を向け逃げ出した。

ファイを連れてここから出なければ。

ファイを連れてここから出て、また二人で狩りでもしながら暮らすんだ。神の目の届かないところで、こんな大勢死ぬようなところじゃなくて――


こんな、こんな怪我をした人たちを癒す場所に火をつけるクソどもから離れたところで。

ファイと巫女は立ち尽くしていた。巫女は何を考えているのかわからない顔で、ファイは今にも泣きそうな顔で。

こんな顔をさせてはいけない。ここから離れるんだ、と、かけようとした声は届かなかった。


矢はファイの胸の真ん中を貫き、石は足の骨を折り、そしてそれらの傷口すべてからは炎が吹き出した。


現れたのは地獄だ。炎は速やかにこの世の海の上と陸の上をなめ尽くし、触れたものを灰に変えた。

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