1-4

「ラーグが挙兵し、イングと海沿いにて戦争を始めた。俺達もつづく」

イオロー様が俺たちにそう告げたのは、俺がここに来てちょうど1月ほど経った頃のことだった。

「続くと言っても、何も俺達も兵を挙げて攻め込むわけじゃない。俺が一人であらかた、かたをつける。ここに来た残りを皆殺しにしてくれればいい」

要するに、イオロー様がまず完膚なきまでに相手の城を魔法で破壊する。そこに居られなくなったイングの軍を斥候で逐一監視しながら魔法で叩き、なるべく少なくしてからここで迎え撃つ。完璧な作戦だ。確かに無限に魔法が使えるならそれでなるべく人数を減らして、俺らはゆっくり的に当てればいい。これが終わったらまたファイとゆっくりできる。


 第一回目の攻撃は大成功だった。のちの斥候の報告によると、少なくとも城は半壊、準備中の軍の半分は使い物にならなくなっていたらしい。

 第二回目、第三回目の攻撃も第一回目ほど大きな損害は出せなかったが、城やその土地を使わせないようにする、という意味では成功だった。狙い通り、この頃イングは残りすべての兵を連れてこちらに向かってきていた。

 第四回目、第五回目の攻撃は進軍中の兵を狙ったものだったが、これは移動している目標を正確に捉えることができず、大した損害を出せずに終わった。この頃にはイングの斥候が城の周りを調査し始め、少し離れた場所に陣を築き始めた。俺は遠くに見える斥候を毎日数人殺した。ファイは敵の投石や矢で負傷した味方を何人も癒やした。


 第六回目の攻撃は完全に失敗に終わった。城壁から見える場所に築いていた陣は囮だったのだ。そこから死角となる位置に、奴らは時間差で陣を築いていた。そしてこちらの攻撃直後、イオロー様が疲労したタイミングで魔法による攻撃と人員による一点集中の猛攻を仕掛けてきた。この攻撃により、俺達城壁上の投石部隊はボロボロ、陸で戦っている連中も多くが撤退した。

「ネイピア、お前は後ろで指示を出していそうなやつを殺せ。他の雑兵は後回しでいい。そろそろアレが来るはずだ」

「アレって?」

問うた瞬間だった。山の上の城、その壁から勢いよく、ものすごい量の水が流れ出し、俺達の兵には何の影響も与えず、イングの兵を流していった。

「いや、間に合ってよかった。なかなか魔法が起動しなくてね。イオローはどうしてる?」


 ラーグの援護により、イングの兵はある程度の撤退を余儀なくされていた。しかしまだ城の目と鼻の先、もしくは喉元にいることに変わりはない。

イオローは度重なる大規模の攻撃に疲れ、ほとんど人前に顔を出さなくなっていた。またファイも顔を赤い布で隠すようになっていた。怪我をしていないものの方が少ないような状況で、弓も石も不足し始め、兵の士気も下がっていった。


 やがて、二度目の総攻撃が始まった。

これはイングらの兵の最後の攻撃であり、本当に死力を尽くしこちらに向かってきていた。俺は相変わらず指揮官を数人殺し、そしてイオローの魔法攻撃を待った。それで終わるはずだったからだ。


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