1-3
3日後、神さまとやらは俺たちを呼び出した。
「ネイピアにファイだったな。ご苦労。要件はクエメから聞いているな?返事を聞こうか。まあ俺が気にいらん返事ならすぐさまそこの崖から突き落とすが」
「何故ファイを欲しがる?」
「真の神代からの生き残り、不死の寄せ集め、他に何か言う必要あるか?俺たち風に言えば無限の魔力源ってとこだが」
「魔力源ってどういうことだ、殺して血でも搾り取る気か?」
「物騒な事を言うなよ。こいつが横に立ってるだけで我々の魔法の出力が上がる、って言ってもわからないだろう。要は居るだけで良いんだ。俺が唸ってる横で突っ立ってりゃいい。それだけでファイは飯が食えて寝床が手に入る。ネイピア、お前は投石器に慣れているんだったな。軍の投石部隊に入れ」
「勝手な話を」
「実際、お前らあの村に戻ってどうするつもりだ」
「どういう意味だよ、そのまま二人で適当にやるさ」
「お前たちがここに来た事などすぐに広まる。 お前たちの村は我が領地の一つではあるが、そこまでイングの馬鹿やラーグの使いが来ないとも限らん。いままで通り適当にとはいかんぞ」
どうやらここに来た時点で運命は決まってしまっていたらしい。イングもラーグも誰かは知らんが。
「あの村では厄介者ふたり、ここでは神官とその保護者だ。それなりに飯が食えるし、給金も出す。断る理由が見当たらんぞ」
ファイが不安そうな顔でこっちを見ている。お前はどうしたい、俺は正直村に戻るより適当にここで暮らしたくなってきた。
「ファイはどうしたい?」
声にすると同時、天井が崩落し俺の頭にーー
目が覚めると戦場だった。
周りには怪我を負ったものたちとそれを治す神官、そのうちの一人にファイがいた。
俺が目を覚ましたことに気づくと、ファイは側に寄ってきて話しはじめた。
「もう気分は平気?ごめんね、ここに残ることになっちゃった。ネイピアは投石部隊だけど、まだ傷で動けないだろうから動けるようになったらあの人に話しかけてね。ごめんなさい、怪我してる人がいっぱいいるからもう行くね」
急に随分喋るようになったな、と思いながら痛む身体を引きずり起きようとしてみる、がうまくいかない。味方の怒鳴り声を聴きながら、俺の意識はまた夢の中にひきずられていった。
また、これだ。
燃えども燃え尽きぬ木、白い服の女。
だが今度ばかりは木は燃え尽き、女は灰を眺めて呟いた。
次に目覚めた時、俺は与えられた部屋にいた。ファイと巫女もいる。
「どうなってる?」
「起きたね。じゃあ部隊長のところに行こうか」
体に痛む箇所は一切なく、全身にさりげなく触れてみても傷跡らしきものは無かった。これが魔法で癒した結果ということか。
歩きながら、ファイは俺に俺が寝ていた間のことを説明した。
俺らが神さまと話をしている最中に近くの別の神さま、こいつの名がイングらしい、の軍が襲ってきて、そいつの魔法で城の壁が崩れ俺の頭に直撃したこと、それを癒すために癒しの魔法について学んだこと、学ぶ代わりにここで働く約束をしたこと。そして、イングはまだ近くに軍を置き、いつでもここに攻め込む用意があること。そのせいで俺は投石部隊に配属されることになったこと。加えて、俺の処遇を勝手に決めたことについて謝罪された。
「死んだらそれまでなんだから、むしろよくやったよ、ファイ」
「勝手に決めちゃった、ごめんね」
「おう、ネイピアっていったか。傷はもういいのか?」
「ああ、ファイ神官様のお陰でだいぶいいよ。お前が部隊長?」
「そうだ。お前はこれから私の部下となってもらう。早速他の人員と顔合わせをしろ。お前が働く日はまだ決まってないが、明日中には相談して決める。神官は詰所に戻れ」
投石部隊の詰所はごった返していた。曰く、投石器を使うものだけでなく、弓を使うものや岩を落とすものたちも同じ部署らしい。弓とは糸を張った棒切れを使って小さい槍を飛ばす武器だそうだ。今度真似して作ってみよう。
「投石器が扱えるんだったな?」
「ああ、というか投石器しか扱えない。ずっとこれで狩りをしてきたから」
「よし、じゃああれに当ててみせろ」
指差した方を見ると、昼間から酒に酔った酔っ払い共が割れた酒入れを片手に喧嘩をはじめようとしている。
「頭に当てて良いのか?」
「手持ちの武器が無くなれば酷い怪我はしないだろう。これで当てられたらお前の給金を良くするよう進言してやる」
投石器を借り、軽く回して紐を離す。
握りこぶしより小さいくらいの石は人々の間を抜け、酒入れの持ち手近くに命中し、粉砕した。
「で、給金とやらで何が出来るんだ?」
言ったと同時、二人はこちらへ掴みかかろうと走ってきた。
結果から言えば、結局喧嘩騒ぎを起こした岩落としの二人は脛を折り使い物にならなくなった。そのせいで俺は給金を減らされ、しかし部隊長の進言で給金は増えたらしいことを後で知った。減ったのか増えたのか?
翌日、部隊の詰所に行くと神様が部隊長と話していた。
「ですからイオロー様、総攻撃に備え城壁上に警戒で配置する人員の数を増やそうと」
「不要だ。そうせずとも次の総攻撃の失敗でイングのやつは退却する。なんなら今すぐこちらから叩いてやってもいいが、こちらが鳳凰を手に入れたことは悟られたくない。今はこのままで様子を見る」
「忍び込まれて内から攻撃される可能性は」
「今は俺が認めた人間しか城の内に入れない。ラーグが来るまでには片付くだろうから問題ない」
「で、俺はいつ働けば良いんだ?」
「おおネイピア。そうだお前の事を色々と決めねばならんな。部隊長、あとは任せたぞ」
「あ、おいお待ちください……!」
視線を一度外す間にもう神様の姿は見えなくなっていた。
「お邪魔したか?」
「いや、いい。後で押しかけてやるさ。それよりこっちだ」
同じ投石器を扱う連中と一言二言挨拶をして、いつ入るかを決めた。2日に1回、たまに夜中、壁の上で寄ってきた人や獣に撃ち込めばいいらしい。とりあえず明日、先輩と入ってやることを覚えよう、ということだ。
その日の夜中、二度目の攻撃があったらしい。今度は完璧に防ぎ、またイングの軍にイオロー、こいつはうちの神様だ、の魔法が直撃し、大きく戦力を削がれたイングは自分の城に退却したそうだ。
それから数日して、海の方から行商がやってきた。
ラーグと名乗ったその神は、取引の場にてイングの軍勢に対する共闘を申し出たらしい。曰く、ラーグはかねてより海沿いの土地を行商の拠点とすべく広げたがっていたが、イングの妨害によりままならなかった。今共闘しイングの力を削いでおけば商業にも有利、かつイオローにも恩を売れると考えた。イオローはこれを快諾。ラーグの軍勢が挙兵しイングの軍勢をある程度引きつける間にイングの城に対し魔法による攻撃を仕掛け、一気にこれを殲滅する計画だ。
行商の内容は単純で、海の塩と魚、真珠なんかを売りに来ている。何度か食堂で食べたが俺達が普段食べてる獲物の干し肉とは違う味で新鮮だった。塩も岩からつくるものとは味が違う。
「どう、美味しい?ネイピア」
「ああ、美味いけどファイは食べないのか?」
「最近あんまり動いてないからお腹が空かないんだ、今日も僕はいいや」
ファイは最近俺の前でものを食べない。多分見ていないところで食べているってことでもないと思う。加えて、最近羽根が生えている範囲が広がっている気がする。背中の方まで生えていたっけ?
「神官はどうだ」
「怪我してる人を治すのは楽しいよ、感謝もされるし。神様が魔法を使うときは横で寝てるだけ。だから村よりこっちの方が楽しいな。来てよかったかも」
「そうか。俺もだよ」
実際、食べ物は安定して手に入り、周りの連中に媚びたり何かを分け与えたりする必要がないのはすごく楽だ。毎回それなりに働けばそれなりに食える。たまに許可なしに城壁に近づいてくるイングの連中を脅したり、壁の近くでうろついてる獲物を撃ったりしているだけだ。本格的な戦争がはじまればまた違うかもしれないが、まだこの暮らしが続いていけばいいと思う。
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