第082話 奥へ
彼らの戦い方はギアによる詠唱無しの攻撃魔法と防御魔法。
いくら攻撃魔法が速くても僕は予知の加護で避け、防御魔法も首切丸が打ち砕く。
その事を今あったばかりの彼らは知らない。結果、敵はあっさりと血溜まりに沈んだ。
太刀を納めて周りを見ると火ダルマになった者が呻き、転げ回っていた。
カヨが放った火の上級魔法に生身で巻き込まれた連中だ。
ギアを装備していた者はあまりダメージを受けていなかった。
僕の外套も火の魔法軽減することができる。
ギアにも魔法もある程度防ぐ細工がしてあるのだろう。
「セイナ、コイツらを助けて事情を聞くのもいいと思うのですが」
「そうしたい所ですが、時間がありません。山頂側の出口を固められる前に動かないと」
「そうですね……」
後ろには助けた女性が怯え、うずくまっていた。見捨てる訳にもいかず、彼女らを連れての迷宮踏破となる。
セイナの言う通り、時間をかけると別の敵が山頂側に回り込んでくるかもしれない。
ーーガラガラッ!!
崩落した入口の岩が動いた。
ロボットに乗った奴は生き埋めになっているがまだ動けるようだ。ますます時間が足りない。
「しつこいわね! ーーフレイムエクスプロージョン!!」
ーーキン!!!
カヨはもう一撃、天井に火の上級魔法を撃ち込んだ。
爆音が響き、更に通路を崩落させている。とてもじゃ無いが、この出口は使い物にならない。
「さあ急ぎましょう。ジンも急いで準備を……あなた達も逃げたいなら立って下さい」
助け出した女性3人は泣きながらもしっかりと立ち上がる。
動く事は問題無いようだ。
「セイナ、さっきの牢にに囚われた人がいました。ここに置いていくわけには行かないから、動けるように治療して下さい。僕は食べ物を漁ってきます」
匂いがする方へ向かうと、厨房と食卓があった。そこでパンと干し肉、毛布を数枚を大袋に詰める。
僕ら3人に加えて助けた人は4名。手持の食糧では心許なかったが、迷宮を抜けるならこれだけあれば十分だろう。
あと助け出した人らの衣類も少し必要だった。
帝国の物であろう黒い外套やブーツも人数分拝借して、大広間に持っていった。
奥からはヨロヨロと覚束ない足取りの男性がセイナの肩を借りている。
錯乱して飛び出していった男とは違い、少し落ち着いた雰囲気のある人だった。
傷は癒えているが、体力は戻っていない様子だ。
「水を……」
彼は一言だけ絞り出し、ドカッと椅子に座って僕の腰にある水筒を指さす。
僕が水筒を差し出すと、目を見開いてゴクゴクと飲み干した。
水に関しては魔法でいくらでも出せるから問題無い。
「ハァハァ……た、助かった……ありがとう」
男性は特徴的な耳をしていた。
人間……ここではヒト族以上のエルフ族未満の耳。
ハーフエルフ、デミヒュームというらしい。
前もってバンケッタから聞いていた特徴と一致する。
「……もしかしてケディさんですか?」
「ああ、そうだ。お前さん……確か最近ニールの奴にくっ付いてるジンだな」
……ケディはニールと同じパーティーでこの村を捜索していた。
何故彼だけ捕まっていて、ニールの姿が無いんだ。
ゾワりと嫌な予感がよぎる。
…………
「師匠、師匠は!?」
「お、落ち着け! セイナと同じ反応をするな!」
無意識のうちに彼の肩を掴んでグラグラと揺すっていた。
「あいつらに襲われてはぐれてしまったんだ。パーティーで捕まったのは俺とジャヤの二人だけだ」
「じゃあ師匠は無事なんですね!?」
「ああ、恐らくだがな」
ニールはまだ連中に捕まっていなかった。
希望が見えなかった状況に、一縷の望みが見えた。
「所でジャヤはどこに行った? 俺の隣で捕まってて、お前が助けた時に飛び出て行った奴だ」
「……すぐ追いかけたんですが……出口で殺されました…………僕がもう少し慎重にしていれば…………」
それを聞いたケディはとても悲しい表情を見せた。
だが、首を横に振って否定する。
「いや、お前さんは悪くない。あれはジャヤが冷静になれずバカやっただけだ……それより何をすべきか考えよう」
「ええ、これからタイタの迷宮を抜けます。大丈夫ですか?」
「大丈夫とは言い難いが……歩くだけなら何とか、問題無いだろう」
ーーガラガラ……
「コイツら、まだ動いてるわ! 急いで!」
崩落した入口を見張っているカヨが急かしてくる。
できればロボットを完全に無力化したいが、そうも行かないようだ。
あれだけの瓦礫に埋もれてもなお、動ける馬力と防御力。まともに相手をしなくて正解だった。
「僕が先頭を歩きます。少し距離を開けてついてきてください!」
僕はこの部屋の奥、フィラカス達が出てきた扉を開く。
そこには10mほどの上り階段が続いていた。
地図と照らし合わせた通り、ここから再び迷宮らしい構造となっていた。改築されていたのは入口付近だけだ。
「ジン!この広間に他の生存者は?」
「一応全部の部屋を見たけどいなかった」
「よし、じゃあ先に行ってて」
そう言ってカヨは振り返って大広間に向かって両手をかざす。
何をやる気かは見なくても分かる。
「ーーウォータースプラッシュ!!」
歪んだ空間から飛び出た水球。それが天井にぶつかり轟音を立てる。
ーーゴゴッ!!
壁が崩れる音と水が流れる音。
先程の大広間は一瞬で水に沈んだのだろう、すぐに階段まで水が競り上がってきた。
「疾風よなぎ払え! ウインドボルト!!」
さらに天井を崩し、完璧に出口を塞いでいる。
魔法少女による、なかなかの容赦のない破壊工作だった。
カヨは大きくふぅっと大きく息をついた。
上級魔法を恐らく全力で使っている。
いくら魔気量の多い彼女でも疲労があるはずだ。
「ほら、アンタが先頭でしょ。さっさと行くわよ」
「カヨ、大丈夫か?」
「……はぁ……」
ため息と同時にボクっ、と少し強めに腹を叩かれた。
彼女は明らかに機嫌が悪い。
「な、何だよ」
「アンタの方が心配よ!! このバカ! 何が時間を稼ぐから先に逃げろよ。まともなことが考えられないなら、もうちょっと私達を頼りなさいよ!」
もう一度腹を殴ってくる。
先程より強く。
「帰ったら絶対!! 絶対ぶん殴る!!」
「……もう殴ってるだろ」
「顔面よ顔面! こんなの殴ったうちに入らないわ」
僕らの様子を見て、後ろではセイナがクスクスと笑っている。
これはいつもの“よくない顔のセイナ”だ。
「でもカヨ、いざとなったら『ジンを盾にする』って自分で言ってたじゃないですか」
「あッ!……そ、それは……」
そうですね。言ってましたね、確かに。
「ま、まだ、いざという時じゃ無かったから……だからジンを怒ったのよ!」
「へぇ、そうですか……じゃあ、そういう事にしておきますね」
セイナは引き下がりながら「ああ、あんなセリフ、私も言われてみたいな」とブツブツ呟いていた。
完全にからかっている時の悪い子の顔だった。
「もう!!」
カヨは地団駄を踏んで悔しがっている。
「アンタも何笑ってんのよ!」
つい、口元が緩んでしまっていたようだ。
何故か分からないが、セイナに揶揄われてるカヨはとても可愛く見えてしまう。
「いや、ごめん。……次から頼りにします、魔法少女様」
「あーもう! うるさい! ほら急ぐんでしょ!」
いつものように蹴りが飛んでくるが、僕はひょいっと避けて列の先頭に出た。
僕は独りよがりで判断を誤ってた……もっとカヨやセイナを頼ってもいいだろう。
そしてはやく、みんなで無事に帰りたい。
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