第081話 決心

 決心はついた。

 あとは考えるだけ……


 あのデカいロボットは無視だ。

 刀で金属の塊を壊せるとはとても思わない。


 懐に飛び込んで加護頼みの回避をする。

 その間に歩兵を相手にする。うまくいけば巻き込んで歩兵は倒せるかもしれない。


 少なくとも、時間は稼げるはずだ。

 いつものように、集中して、深く、深く考えをまとめてる。



「ハッ! あっそう、じゃあアンタはギブアップって訳ね」


 僕の決心を他所に、カヨは鼻で笑って冷たく言い放つ。


 何だよ、その言い方は。


「ギブアップってなんだよ、僕はお前たちだけでも……」


「うっさい黙れ、こんなの楽勝でしょ」


 ……楽勝? この状況が?


 耳を疑うセリフを吐いて、カヨは前に出て自身の刀を抜いた。

 彼女その表情は絶望や悲観ではなく、怒りだった。


 敵……ロボット達に切っ先を向ける。


「おー怖、そんな剣捨ててこっち来れば可愛がってやるぞ」


「お断りよ! 火よ集え業火のごとく!ーー」


「はいはい凄い凄い、火の上級魔法ね」


 そう言ってロボットは巨大な盾を構え、受け止める姿勢をとった。


 ーーキュイイン!!


 甲高い音、ギアが魔法を使う時と同じ音が鳴り響く。

 構えた盾が黄色く光り、模様が浮かび上がった。


 これはフリッツが使っていたディバインシールド。しかもあの巨大で厚い盾に付与されている。

 いくらカヨの魔法が強烈でも、一撃で抜けるとは思えない。

 以前、盾を持ったフィラカスにも火の上級魔法は防がれていた。


「ーーその炎は爆炎をまき散らし全てを灰と化せ! ……バーカ」


「ん?」


 カヨは詠唱を完成させる直前、かざした手をやや上に向ける。

 釣られてロボットと敵の歩兵も上を見上げた。


「フレイムエクスプロージョン!」


 ーーキン!!という甲高い音と共に、斜め上に光の線が走った。


 光の線はロボット……の頭上、天井に向けて放っていた。



 ーーガンッ!!ガラララッ!!!



 腹が震える程の爆音と共に、天井が砕け散って大量の瓦礫と土砂が彼らに降り注ぐ。


「う、うおぉぉ!!?」


 ロボットは咄嗟に盾を天井に向けていたが、防げる様な量ではない。

 彼らは一瞬で生き埋めになった。


「ボサっとするな! 次は後ろよ!」


 カヨは僕に発破をかけながら振り向き、愛刀の半月を構える。

 後ろの敵も呆気にとられていたようだ。ポカンと口を開けていた。


 彼女が半月を振ると、同じように光の線が走る。


「なっ!?」


 詠唱もなく振った刀から放たれる火の上級魔法。

 彼女の魔刀半月は攻撃魔法を刀身に半分吸収させて、もう一度放てる魔道具の刀。


 大部屋に展開していた敵の装備はまばら、ギアを装備していた敵は少なかった。

 そこにカヨの強烈な火の上級魔法が炸裂する。


 ーードン!!


「ギャアアァァ!」


 直撃した者は吹き飛ばされ、生身の者は火ダルマになっている。

 無事なのは、たまたまギアを装備していた数名。



 前後挟まれていた状況から一変、残った敵は僅か三、四人だけとなった。

 カヨが作った好機。

 逃すわけにはいかない。


 僕は浮き足立ってる敵に真っ直ぐ詰め、刀に手をかけた。


「クソっ!」


 一番手前の男は焦りながらも、手を突き出し魔法を構えている。



 ーーーキュイン!!



 オートキャストギア独特の不快な音と共に、詠唱もなく突然発生する火球。

 初見では面食らうだろう。


 だが僕は散々見させてもらった。

 さらに危険を予知できる加護も持っている。

 抜刀しながら火球を難なくかわし、すれ違いざまに刀を当てた。


 魔法を破壊するスペルブレイクの効果を持った太刀。

 斬られた火球は纏まりを失い、即座に霧散する。

 後ろへの被害を考えて、避けた魔法を処理する余裕すらある。


 勢いのまま、浮き足立った敵を斬りつけた。


 僕の振りかぶった唐竹割りに対して、片腕の手甲で受けようとしている。

 ギアの防御魔法に頼り切った行動だと思う。


 パリン!という音と共に薄いガラスのように防御魔法は砕け散り、唐竹割りが直撃する。

 太刀の振り下ろしを片腕で防げる訳もなく、切っ先は深く顔面から下半身まで斬り裂いた。


「な、ん……ゴッ!?」


 次の標的へ向け、ふらつく男を蹴り飛ばして盾にする。

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