第067話 星空の告白
……
ふと、夜空を見上げる。
元の世界の夜空とは違い街灯りが無い。光害のない夜空には満天の星空が広がっている。
都会では見られなかった天の川がハッキリを見える。
彼女も同じように夜空を見上げた。
僕は少しだけ気になっていた事を思い出した。
「なあ、カヨは星座をどの位知ってる?」
「え? 星座? そうね……名前くらいしか……」
「僕も有名なカシオペアや北斗七星みたいなのしか知らないよ。 ただ、その星座が一つも見当たらないんだ」
星が見えすぎて埋まってしまい、見つけられないのかもしれない。経度が違ってるから、知ってる星座が見えないという可能性もある。
それとも……
「それって……ここが“私たちの知ってる地球”とは別の星って意味?」
「ああ、そうなのかもしれない。でも、あそこに見える月は“僕らの知ってる月”だと思う」
「なんでそう思うの?」
「ほら、月の模様。僕らの知ってる月だろ? 白い部分にはティコって言う大きなクレーターがあるんだ」
僕は地面に小枝で月の絵を描き、クレーターの位置を説明した。丁度、影に差し掛かる部分にクレーターがあった。
そしてティコは目が良ければ肉眼でも分かる。
「あー確かにクレーターっぽいのが見えるわ……確かに言われてみれば、月ってこんな模様だった気がする」
「満月の時には月の海にあるコペルニクスってクレーターも見えたよ。だから多分、僕らの知ってる月だと思う」
「へぇ……意外ね、ジンって星に興味あるんだ。 ロマンチストなの?」
「ロマンチストって何だよ……小さい頃にちょっと興味があって良く図鑑を見てただけだよ」
彼女はふーん?と言いながら、夜空の星々を指差して色々聞いてきた。
赤い星は温度が低く恒星の終わり、赤色巨星かもしれない。青い星は温度が高い若い星が多い。天の川は太陽系が所属している銀河を横から見た星の集まり。
話してるうちに色々思い出し、うろ覚えだがそれなりに知識を披露できた。
「……だから、肉眼で見える天体は銀河系の中にある天体しかない。でも例外としてアンドロメダ銀河だけは近くて大きいから見ることができる」
「関心したわ、あなたがチャンバラとスケベな事以外に興味があるなんて」
「あのなぁ……」
相変わらず酷い言われようだ。
まあそれらにも興味はあるのが事実なだけに、強く言い返せないのが悲しい。
その時、一条の光が夜空に大きな線を引いた。
「あ! 流れ星!」
その流れ星は最後に強い緑色の光を放ち、夜空に消えた。
「確か流星は隕石の成分で光る色が変わる筈だよ。今のは緑だからマグネシウムだったか窒素だったか……」
「ちょっと黙って」
そう言ってカヨは目を瞑り、手を合わせてお祈りをしていた。
流れ星に願いをって奴だろう。
それが終わると少しうっとりとした表情で寄りかかってきた。
頭を僕の肩に乗せて、長い髪の毛先をクルクルと指で弄っている。
これじゃまるで……
「ねぇ……この夜空、恋人と二人で見れれば素敵だと思わない?」
「え? カヨさん?」
甘く囁く声に心臓がドキっと反応する。
呪い……ではないようだ。あの強烈な違和感は無い。
じゃあ素でこんな事をやってきてるのか?
ツンツンして突き放したと思えば、なんか甘えるような仕草をしたり、一体何がしたいんだ。
僕は返事に困り、硬直している。
見かねたカヨはまた大きくため息をはいた。
「……はぁ……ほんと、残念ね」
……何が残念だよ。
お前の方が余程ロマンチストじゃないか。
…………
他愛もない雑談を続け、気が付けば空が薄っすらと青くなっていた。
夜明けが近いらしい。
「カヨ、そろそろ戻ろうか」
「ええ、そうね……その、心配してくれて、ありがと」
カヨはそっぽを向いて、ポツリと照れるように呟いた。
……いつもそうやって慎ましくしてれば可愛くしてればいいのに、と心の中で強く思う。
「いえいえ、これも下僕の務め、どういたし……」
立ち上がろうとしたその時、後ろで小枝が擦れる音がした。
僕の中でスイッチが入る。
素早く振り返り、反射的に刀に手をかけた。
カヨは気付いていないようで、僕の様子に驚いていた。
「ど、どうしたの急に?」
「いや……あっちに何かいるかもしれない」
僕が凝視している方向は完全な闇だった。
だが、直感は何かがいると警告している。
「暗くて何も見えないわね……」
「魔法で照らせるか?」
「いいわ……光子の槍よ!暗がりを切り裂き光照らせ!!ライティングスピア!」
カヨは光の中級魔法を闇の中に放った。
強烈な光の槍はまっすぐに暗い森を照らしながら飛んでいく。が、途中で何かに斬られて霧散してしまった。
再び森は闇に包まれる。
「え!? どうして……?」
「やっぱり何かいる……それに囲まれているかもしれない」
まずいな……僕らは何の防具も身につけていない。
カヨに至っては武器も持っていない。
「カヨ、まず光の上級魔法で視界が欲しい。そのあと魔剣創造を唱えてくれ、僕が時間を稼ぐから……」
焦りつつ指示を出していると、聞き慣れた声が暗がりから響いてきた。
「安心して下さい、私一人ですよ」
木陰から出てきたのは、野営地から消えていたディアスだった。
彼は軽装の装飾された鎧に、背嚢を背負っていた。
先程魔法を切り裂いた剣は薄っすらと光を帯びている。
敵意は無いのか、その剣をすぐに鞘に納めた。
「ディアスさん、そこで何をしていたんですか?」
「言うなれば盗み聞きをしていました。もっとも、何を話しているか分かりませんでしたが……これでも大抵の国の言葉は分かるのですけどね……」
何百年も生きている年齢詐欺のイケメンは、多国語を話せるのか。
ただ僕とカヨは終始この世界にはない言語、日本語で話をしていた。だからディアスには聞き取れなかったようだ。
「どうしてそんな事を?」
僕は警戒を解かず、刀に手を置いたまま質問を続ける。
「カヨさんが一人で出歩いてるのが見えたので、興味本位でついていっただけです」
「……? 見守っていたと?」
「いいえ、何に襲われようとも、私は助けるつもりなんてありませんでしたよ」
「それは……」
ディアスはギルドメンバーで僕らパーティーを組んでいる。
カヨが勝手に出歩いたとしても、助けるつもりが無いとはどういう……
「潮目ですのでね、私はギルドを抜けます。あなた方が帝国と呼んでいる連中も、本格的に動くようですしね」
「……まさか、逃げるという事ですか?」
ディアスは少し小馬鹿にした様子で手を挙げ、首を振った。
「逃げるというよりも、戻ると言った方が正しいですね。私は諜報員として帝国に雇われているわけですし」
「……な!?」
彼は何の悪びれも無く淡々と、そして堂々と裏切りを告白した。
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