第050話 面倒ごと


 街に帰った翌日、僕らがフィラカスについての報告を上げると、ギルドマスターのシュゲムに呼ばれた。


 シュゲムの部屋に入るとディアス、スウェン、シェラの3人が話をしていた。

 彼らは向かい合って座っているが、どうも様子がおかしい。


 シュゲムは来たか、と一言言って険しい表情で話を進める。


「フリッツ、帝国のギアを回収したのは二人分で間違いないな?」


「ええ、そうですね」


 ギアはリゲルともう一人の女性が身につけていた。それらは全て回収して馬車に積み、ギルドでディアスに渡したはずだ。


「わしの手元には一人分だけ……スウェン、お前がくすねたのか?」


「くすねたとは人聞きが悪い。私はちゃんとディアスに説明して受け取っている」


「っち! ではギルドマスターとして命令する。受け取ったギアをこちらに返してもらう」


「断る」


「なんだと?」


 見ているだけでチビりそうになるシュゲムの威圧。

 だがスウェンは昨日のように、不敵な笑みを崩さなかった。


「はぁ、全く……スウェン様、もう少し言い方があるでしょう?」


 横にいたシェラがため息をついて口を開いた。


「ギルドマスターシュゲム、私達は国王の勅命で調査をしています。そちらにも一組ある以上、こちらはこちらで調査させて頂きたいのですが」


「ならば直接、王都のギルド宛に送ってやる。お前らには渡せない」


「それは何故ですか? 王都に送るならいずれにせよ同じ事でしょう?」


 ダン!とシュゲムがテーブルを強く叩き、立ち上がる。


「わしが何も知らないとでも思ってるのか!? 共和国の勇者供よ!」


 その言葉を聞いてスウェンとシェラはピクリと反応した。

 スウェンはほんの少しだけ表情を崩したが、また不敵な笑みを作る。


 共和国は確かこの大陸でリオネス王国、帝国に並ぶ大きな国だったか……


「ククッ、よく調べてるじゃないか。いかにも私とシェラは共和国の勇者だ。そこまで知っているならかえって話が早い」


「共和国に協力を要請したのはそちらの国王です。私達共和国は王国と争いを起こすつもりはありません。だから調査に協力しているのです」


 そう言ってスウェンとシェラが立ち上がった。


「争う気は無い。が、そちらから仕掛けてくれば、話は別だ」


 シュゲムとスウェン、両者が睨み合う。


 ……僕らはどうして部屋に呼ばれたのだろう。

 雰囲気最悪だし、巻き込まれる前に早く帰りたい。



 シュゲムは深く息を吐いて、ドカっと椅子に座る。


「クソ! 好きにしろ!」


「そうさせてもらおう」


「ただこの街で暴れるなよ。お前らの首を共和国に送りつける事になる」


「ああ、約束しよう。この街に被害を出すことは我々の望みでは無い」


「フン、話は以上だ!帰れ!」


 スウェンは肩をすくめ、シェラと共に部屋から出ようと僕らの横を抜ける。


 そこで何故かカヨが彼らを呼び止めた。


「スウェンと言ったかしら」


「ん?お前は昨日の……確かカヨだったか」


「あなたは自分で共和国の勇者とか言ってるけど……恥ずかしくないの?」


 確かに、自分で勇者を名乗るのは恥ずかしい。

 少なくとも僕にはできない。


「……慣れればそうでも無いぞ」


 あ、やっぱ最初は恥ずかしいんだ。


「私は今でも恥ずかしいです」


 まあ普通はそうですよね、シェラさん。





 ………………




「聞いての通り、あいつらは共和国の人間だ。裏で帝国と繋がっているかもしれない。用心しておけ」


 彼らが出て行ったあと、シュゲムが僕らに忠告をした。


「特にカヨさんは前回狙われていました。彼らもそう長く滞在する予定では無いので、いなくなるまで遠出は控えた方がいいでしょうね」


「わかった、しばらくはまた診療所で手伝いをやるわ」


 ディアスの提案にカヨも納得した様子だ。

 僕も頷き賛成する。


「ふむ、あとフィラカスの件だが、十中八九は帝国絡みだな。ギアもそうだし、そんなに集団でフィラカスとなるのは稀だ」


「じゃあリリーは」


「恐らく帝国の連中にやられたのだろう……他の連中も調査をかけるが、遺品が多いからそんなに難しくはない」


 セイナの顔は酷く暗い。

 悲しみとも怒りとも取れる表情をしている。


「それにしてもディアスよ、何故奴らにギアを渡した。お前なら連中の素性を知っていただろう」


「マスター、無理ですよ。私一人では彼らを止めることはできません。それに裏がなんであれ、国王勅命です。一応は言い分に筋が通ってます」


「ふうむ、それもそうか……」


 シュゲムは深いため息をはいて目頭を抑えた。

 重い話がひと段落したので、僕はシュゲムに質問した。


「あのギルドマスター、勇者って何ですか?」


「……聖剣と呼ばれる武器の力を引き出せる、共和国の切り札という話だ。何人かいるらしいが、詳しい情報は秘匿になっている」


 聖剣を持った勇者。なんという恥ずかしい響きだ。

 それが許されるのは中学二年生までだろう。

 ただ何にせよスウェンの背中にある大剣が、聖剣と言われるもののようだ。

 あ、シェラも勇者らしいが、剣らしい装備は無かったような……。


「ジン、お前は彼奴らが戦っているところを見ていたどころか、剣を交えたそうだな。どう思った?」


「凄く強かったですね……本当に人間なのか疑うレベルでした」


「ええ、単純な力、速さがとんでもなかったですね。聖剣の力という奴かもしれません」


 僕の感想にディアスが同調する。


「そうか……全く、こんな時に面倒ごとが増える……」



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