第046話 望まぬ再開
リゲルの死体が無くなっている報告はあった。
だが、なんでこんな迷宮の奥深くで……!?
ーーキュイーン!
考える間もなく、女性の魔法使いが手をかざして魔法を放つ。
再び大きな火柱が上がり、僕に向かってきた。
「くっ!」
焦りと混乱で反応が遅れて、転げならの回避になる。足先が巻き込まれ、ブーツが焦げた臭いがした。
ーーキュイン!
倒れた所に火球……ファイアーボルトが間髪入れずに飛んできた。
詠唱も集中も存在しない魔法による、連続攻撃。
ーーダメだ! 避けれない!
咄嗟に外套と左の手甲で火球を受けた。
「ぐぁッ!?」
視界に火の粉が散り、熱と衝撃で左腕に痛みが走る。
「ジン! こっちは何とかなる! 前に集中しろ!!」
見かねたニールが僕に発破をかけながら、援護で矢を放ってくれた。
その矢は魔法使いのフィラカスの頭部を正確に狙っていたが、
届く前にパンっと乾いた音がして、弾かれた。
だが追撃が止まり、僕は体勢を整えることができた。
外套のお陰で軽い火傷で済んでいる。
多少の痛みはあるが、動きに支障はない。
“何とかなる”
仲間の言葉を信じるならば、目の前の敵を倒さなくてもいい。
僕がやられずに時間を稼げば、数的優位になれる。
今はリゲルや帝国の事は二の次。
この状況の勝ち筋を考えろ。
大きく深呼吸して、敵に集中する。
やはり、あれは帝国の“ギア”だ。
ニールの矢もインチキバリアで防がれていた。
僕が攻撃を入れるなら、抜刀してスペルブレイクを発動させて斬りつけるしかない。
なら、動きにくい抜身で構えるのは愚策だ。
太刀を鞘に戻し、弓使いが落とした短剣を拾う。
動く邪魔にならず、投げ捨てて使うには丁度いい大きさだった。
――キュイン!!
後方の魔法使いから火球が放たれる。
しっかりと避け、勢いをそのままに走り抜ける。魔法使いに向けて一直線に距離を詰めた。
盾を持ち金属の鎧を着たフィラカスが、僕の進路に立ちふさがり、邪魔をする。
魔法使いに近づけないが、狙い通りだ。
コイツが射線に入っている限り、魔法を撃たれない。
鎧と盾で僕はまともな攻撃を入れれない。だが当然、その分動きが鈍重だった。
捕まらないように付かず離れずの距離をキープして、射線に被せる事ができる。
一方で軽装のフィラカスは素早く動き、両手の短剣で攻撃を出しながら、僕の死角に回ろうとしてる。
一対一ならともかく、今の状況で正攻法での対処は無理だった。
足を止めて向き合えば、鎧を着たフィラカスに背を斬られる。
かと言って大きく振り切れば、射線が通って魔法の餌食になる。
だから視界の端で捉えながら“誘導”する。
「もらった!!」
すぐに、背後からしわがれた声が聞こえる。
僕は軽装のラフィカスは死角を取られた。視野外からの攻撃を繰り出していると思う。
だけど、ここが僕の仕掛けた誘い。
まず左後方から脇腹への突きが一回、二回。体を左右に揺らし、最小の動きで避ける。
そして右肩への袈裟斬りを屈んで躱す。ほんの少し、刃が肩先に当たっただけだった。
加護による、予知頼みでの背面回避。
背中に目が付いていても、こんな綺麗には避けれないだろう。
「なんッ……!?」
驚きの声に目掛け、僕は背後にいる敵に短剣を”緩く”投げる。
この緩く投げた短剣は、別に刺さらなくてもいい。
僕は屈んだ状態でクルッと振り返りながら、太刀の柄に手をかける。
狙いを定め、鯉口を切った。
軽装のフィラカスは緩く投げた短剣を、右手の武器でうち払っている。
ガキンという金属音がこだまする。
「ハァッ!」
気合いを入れ、がら空きの右胴に革鎧の上から横薙ぎを決める。硬い革の感触はあったが、切っ先は確実に腹に食い込んだ。
刀を振り抜いて、顔を歪ませるフィラカスの横を抜ける。すれ違いざまに壊れた革鎧の隙間に一線。ほぼ同じ場所に深く深く切り込む。
ビチャビチャっという不快な水音の後に、軽装のフィラカスは倒れた。
今度は掴まれないよう、倒した敵から少し距離をあけて、鎧を着たフィラカスに向き直る。
青く光る首切丸の切っ先から、赤黒い雪が散っていた。
軽く血払いをして、太刀を再び鞘に納める。
僕は背後からの攻撃を完璧に避け、即座に反撃を決めた。
鎧を着たフィラカスは驚愕の表情で身を固めている。
こちらとしては都合がいい。時間を稼ぐことが第一目的だ。
魔法を避けながら、フルプレートの鎧の隙間を縫うのは骨が折れると思っている。
「ドケェ!!」
右方向から聞こえるリゲルの怒号。目の前のフィラカスはそれを合図に僕から離れた。
キュイーン!!
左方向から女性の魔法使いが火柱を放つ。
女性の魔法使いとリゲルは左右に別れて展開していた。
単発なら問題無いが……。
キュイン!
リゲルは火球を放つ。
左から火柱、右から火球が時間差で迫る。火柱を避けた所に火球が飛んでくる。
魔法による十字砲火。 最悪、ファイアーボルトならば外套で受けれる。
火力が高いファイアーピラーを確実に避け、鎧を着たフィラカスを射線に入れるように動けばいいはずだ。
……集中が切れなければ大丈夫だ。
キュインキュインと僕にとって耳障りな音が響く。鎧のフィラカスに射線を被せ、三度、四度と回避に専念して確実に避ける。
ただ、炎が通り過ぎる度、視界が歪んで頭がフラつく。
自分が思っていたよりも、ダメージを受けていたのだろうか?
何度目かの火柱を避けたあと、炎の影が不自然に揺らめく。
加護の力が“炎の影から”攻撃が来ると知らせていた。
普段ならば軽く避けれる攻撃だと思う。だけど、足が動かなかった。
「オオオォォォォッ!!」
その影から雄叫びが聞こえる。鎧を着たフィラカスが、焼かれながらも突進をしてくる。
「うッ!」
咄嗟に太刀を引き抜こうにも、右腕に全く力が入らなかった。それどころか動かすと痛みさえ感じる。
今の不調は疲労でもダメージでもない。
これは毒? まさかさっきの短剣で……!
ーーガン!!!
「ッガハァ!?」
思考の途中、全身に衝撃が走る。
僕は盾で打ちつけられ、吹き飛んでいた。景色が飛び、天井を見上げた。口の中に鉄の味が広がる。
ヤバい。すぐに立ち上がって……
ボヤける視界と意識の中、火柱が迫るのが見えた。
起き上がろうにも、やはり力が入らない。
「な、あ…………」
今のダメージか、それとも毒のせいか。声もまともに出せない。
焦る心とは裏腹に、僕の動きは驚くほど鈍かった。
どう足掻いても直撃する。
一瞬で炎が眼前まで迫った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます