第042話 現実と空想

 

 師匠との肉体関係を堪能した後、虚しい達成感と気持ち悪さが残った。

 このヌルヌルを早くどうにかしたい。


「水の魔法で洗い流して欲しいんだけど……」

「いや、流した後も襲われる可能性がある。手だけ拭いて下層を抜けるまで、そのまま我慢しろ」

「えぇ!?」


 フリッツの冷たい言葉にがっくりきた。

 確かに今洗い流しても、また襲われてベチョベチョになるかもしれない。

 そうなると、再度水で流す羽目になる。


「汚れもん同士、仲良くやろうぜ」


 ニールはベチョベチョになった髪をオールバックにして、ニヤニヤと笑顔作っていた。

 長身細身のオールバック姿が妙に決まってるが、服は残念な事になっている。

 だがなんというか、彼は割と平気そうだった。


「もう、私はそれを洗濯しませんから、自分でやってくださいね」

「えー……」


 セイナが遠くでニールに告げる。

 なるほど、ニールはこのベチョベチョ地獄を経験済みだったのか。

 通りで余裕があるわけだ。


「師匠、僕はもう前を歩きませんから」

「いやいや、いい経験になるって」

「嫌です」


 横を向いて断固拒否する。

 もうベチョベチョとは言え、あんな思いはごめんである。


「ニール、もういいだろ。そろそろ交代しろ」

「はぁ、分かったよ」


 フリッツに叱責され、ニールは引き下がった。



 ……………………




 ニールを先頭に探索が再開された。

 彼はちゃんとランタンを持って、影を照らしながら進んでいる。

 色々と言いたいことがあるが、もう復讐は果たしたのだ。 栗栖ジンは遺恨を残さない。



 ニールは手際よくヤミノテを処理して進む。

 順調にいけばそろそろ最下層の筈ーー


「ーーヒィ!?」


 突然、後ろからカヨの声が聞こえてきた。

 振り返ると小さな穴横から触手が一本だけ伸び、彼女の足首に絡まっている。

 近くにいたフリッツが剣を抜いて切り落とそうとするが……


「疾風よ吹き飛ばせ!ウインドボルト!」


 カヨは刀を抜き、触手に向けて風の下級魔法を放つ。


 空気の塊は壁に当たり、轟音と共に壁が吹き飛ぶ。大きな空洞になっていたようで、小さかった横穴は大きく開いた。

 その空洞には大量の触手が蠢いていた。

 大小様々な触手が絡み合い、カヨに迫っている。


 ……なかなか迫力のある光景だった。



「イ、イヤァァ!!!」

 

 彼女は目を瞑り、悲鳴をあげながら刀を振るう。

 刀から放たれる強力な風の塊。触手を吹き飛び薙ぎ払われてミンチになる。


 そして、その強力な風の魔法は天井の崩落を招いてしまった。

 轟音と共に、巨大な岩に押しつぶされる触手たち。


 触手の群れは日の目を見た瞬間に、再び岩の中に封印されてしまった。

 瓦礫に下からは粘液が広がり、千切れた触手がのたうちまわっている。

 僕とフリッツは走り寄って残った触手を処理した。


 一通りの処理が終わり、尻もちを付いているカヨに声をかける。


「大丈夫か?」

「……」


 返事をしなかった。彼女は先程から胸を押さえている。


「もしかして、意外と良かったとか?」

「そんなわけ無いでしょ!」


 彼女はバッと立ち上がり僕にツッコミ(右アッパー)を入れようとする。

 が、「うっ」っと呻いて思い留まっていた。

 僕はベチャベチャの粘液まみれで、触れたく無いのだろう。


「そうじゃなくて、呪いよ。呪い」


 カヨは日本語で僕に語りかけた。

 彼女の呪いは【幸運があるたび、不幸が訪れる呪い】。過去に突風で看板が飛んできたり、ラージエイプに石を投げられたりと、かなり直接的に危ない。

 先程の天井を崩落させて魔物を全滅させたのが【幸運】だったのだろうか。


「分かった、ちょっと警戒するよ。なるべく近くにいてくれ」

「……よろしく」


 そう言って彼女は少し申し訳なさそうな顔をして、すぐ後ろをついて歩く。

 盾にしてる事に引け目を感じてるのかもしれないが、僕は頼られているようで、悪い気はしない。


「あらあら、余程怖かったのですね。 ジンにべったりじゃ無いですか」


 そんな様子を煽るセイナ。


「な! 違うわよ! 」

「うご!?」


 彼女は僕を蹴り飛ばし、顔赤くして否定する。

 なかなか酷い扱いである。

 そしてその分かりやすい反応が、セイナの弄りを加速させるんだろうな。


 そんな事を思ってると、僕の加護が危険を知らせる。

 危険の方向は……足元? 地面から触手が伸びてくるのか?


 僕は地面を見て身構え警戒する。


 突如、床がひび割れて崩壊した。

 なかなか予想外の展開だった。


「え!?」

「キャ!」

「うおお!?」


 大きな穴が開き、カヨとセイナはその穴に落ちてしまった。

 身構えていた僕はギリギリで飛びのく事が出来た。


「カヨ! セイナ!大丈夫か!?」


 いったーい!と、カヨの不満声が穴から響く。

 幸い穴の深さは2mほどだった。


 今のところ、二人とも無事のようだ。今のところは……

 ただ、穴の中にはびっしりとヤミノテが……


「ヒ、ヒィ!!」


 まずはセイナがソレに絡みつかれる。

 触手はすでにスカートの中に触手が潜り込んでいた。


「セイナ……!? イヤァ! 」


 そしてカヨも別の個体に絡まれていた。

 両腕を絡められて、武器を抜けないようだ。


 待ち望んでいたムフフな展開だが、目の当たりにすると、コレジャナイ感もする。

 何かが足りないというか、リアル過ぎて気持ち悪いというか……


「ジン! 降りるぞ! ニールは援護を!」


 もうちょっとだけ続きを見たい気持ちがあったが、僕はフリッツと共に飛び降りた。




 …………




 無事(?)、ヌルヌルのベチョベチョになった彼女らを、ヌルヌルのベチョベチョになりながら助け出した。


「最悪よ最悪」


 悪態ついたカヨの体からは、糸を引く粘液が滴り落ちている。

 スリットから見える太ももがテカっていて妙にエロい。


「全くですね」


 同意するセイナも粘液塗れだった。

 ミニスカートが張り付いてお尻の形がクッキリと分かり、エロい。


「次の角を曲がれば最下層に続く広間に行ける。そこで着替えをして休むぞ」


 粘液も滴るいい男のフリッツが仕切り、僕らは下層を踏破した。

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