第033話 幼馴染のお願い

 次は刀剣少女が自ら作ったという刀を試す。

 僕の太刀よりも短く、よく見る日本刀の長さだった。打刀って言うんだっけか。


「ではカヨよ、刀を横にして適当な攻撃魔法を使ってみろ」


 カヨは頷き刀を抜いて構える。

 刀を横にし刃を上に向け、魔法を詠唱した。


「火炎よ焼き払え!ファイアーボルト!」


 歪んだ空間から下級が出現する。普段の彼女の火球は直径1m程度、今出した火球は80cm程度だろうか。ふた回り程小さい火球だった。


「む? 失敗か?」

「いいえ、成功よ」


 失敗を疑うシュゲムを否定するカヨ。

 彼女は刀を持ち直し、素早く横に一閃する。


 一閃された空間が歪み、もう一度先程の火球が発生した。


「おお、あの馬鹿げた大きさの火球ですら半減されていたのか」

「ふふん」


 カヨは刀を収め、胸を張って偉そうだ。


 何がどうなっているのだろうか。僕は完全に置いていかれていた。

 シュゲムに説明を求める。


「これ、カヨの刀はどういう回路になっているんですか?」

「ふむ、この刀を構えて攻撃魔法を使うと刀身に吸収されて威力が半減する。吸収した魔法は次に刀を振った時に解放されるようになっている。こんな物を作った事が無くて不安だったが上手く行ったようだ」

「……つまり攻撃魔法が小分けで出せるという事ですか」

「簡単に言うとそうだな。普通は攻撃魔法の威力を下げるなど意味がない。カヨのように魔力が高い者専用の魔道具だな」


 刀を使った。連続魔法。

 何という玄人向けの効果だろうか。

 ヤバい、首切丸よりもカッコいいかもしれない。


「ちなみに銘は?」

「魔刀“半月”という銘にした」

「え?」

「半月だ」

「……」


 なんか普通にシンプルでかっこいいんだけど。

 何で僕の刀は首切丸とかいう物騒な名前にしたんだ……

 僕は物欲しそうに彼女の刀を眺めた。


「ジンはロクに魔法使えないから持っても意味がないでしょう」

「う、確かに……」

「それに、この刀はあなたの為に作ったの……」


 彼女は頬を少し赤め、そっぽを向いた。


「前に魔法の威力を抑えないと、巻き込まれた時に死んじゃうって言ったじゃない。だから制魔の杖よりも、もっともっと抑える武器が欲しかったのよ」

「カヨ……」


 彼女は僕の身を案じて武器を作ってくれたんだ。

 その献身的な……


「ゴホン」


 唐突にシュゲムは咳払いをした。


「いい雰囲気の所悪いが、カヨの攻撃魔法は半減させた程度じゃダメだな。当たれば大抵は即死だろう。むしろ2発飛んでくる事を考えれば悪化かもしれん」

「……」


 僕はカヨを見た。

 彼女は小声で「やっぱり?」と呟いていた。


「魔道具に頼らずとも、ちゃんと魔力を絞れば問題なかろう」

「でもでも! 咄嗟に撃つ時とか全然絞れないの!」

「咄嗟に撃ってあの威力なのか。なおさら恐ろしいな」


 カヨは肩を落としてがっかりする。


「……何か良い案が無いかしら?」


 シュゲムは少し考え、空を見る。

 そしてポツリと呟いた。


「ジンよ、食らう前提で防具を整えろ。それ以外無いぞ」

「……」



 ………………




 一通りの確認が終わり、ギルドの前に戻ってきた。

 空が茜色になっていた。もうすぐ日が沈む。


「マスター、今日は色々とありがとうございました。丸一日も付き合ってもらって……」

「よい。どうせ午後はお前らの為に空けていたからな」

「?」

「お前らが共謀して帝国とグルという可能性も考え、もしもの場合は午後に尋問を行うつもりだった。わしは街を荒らす者に容赦するつもりは無い」


 ーーこっわ!


 シュゲムは無表情だが、確かな意識が伝わってくる。

 間違いなく本気だった。


「だが話してみて安心した。お前らは思いやりのある優しい若者だったよ」


 そしてシュゲムはカヨの方を見る。


「そして筋も良い。教えていて楽しかった」

「私も楽しかったわ」

「ふむ、では今日はこれで終いだ。何かあればフィーナかダリルに伝えてくれ」

「ありがとうございました」


 もう一度お礼を言うと、シュゲムはギルドに帰って行った。



 …………



 二人で食事をした後、工房へ荷物を取りに行く。

 カヨはやたら嵩張る荷物を持っていた。


「やけに多いな」

「うん、ちょっと待って」


 彼女はその荷物から新品の外套を取り出し、僕に渡してくる。

 少し暗いベージュの外套だった。


「はいこれ。前のは焼かれちゃったんでしょ?」

「あー、そうなんだよ」

「それ、火炎に強い耐性がある魔道具だから、今度は簡単に焼かれないと思う」

「え、魔道具?いいのか? 高いんじゃ……」

「いいの。私も同じの買ったから返されても困るし……それが助けてくれたお礼ね」

「そっか。じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ」


 僕は貰った外套を羽織る。

 彼女も同じ外套を羽織り、並んで歩く。

 空は暗く、人は疎らだった。


 カヨはこちらを見てポツリと呟いた。


「……二つお願いがあるの」

「お願い?」

「もしも、私があなたの呪いで狂ってしまって……その時に私が迫っても……キスとか、変な事とかしないで欲しい」


 彼女は俯きモジモジとしている。


「だってその、不本意じゃない? ジンだってそうでしょ?」

「……確かに……呪いなら僕のせいなんだし、それで……その、至ってしまうのは、違う……と、思う」


 お互い、うまく言葉で表現できないけど、言いたい事は分かる。

 呪いに狂わされて男女の仲になるのはダメだ。

 酒に酔ってヤっちゃうようなもんだろう。よくわからないけど。


「うん、それと、もし狂ってしまっても、普通に戻った時はほっといて欲しい。だって、死ぬ程恥ずかしいから……」

「わかったよ」

「……ありがと」

「僕の呪いが原因なんだから、僕が謝るべきだよ……その、ごめん」


 誰が原因かと言われれば、間違いなく僕だろう。

 少し申し訳なくなり、謝りながら目を伏せてしまった。


 彼女はいたずらっぽい仕草で覗き込み、ふふっと笑った。


「普段は減らず口を叩いたり、パンツ覗こうとするのに、何でこう言う話の時は急に真面目になって謝りだすの?」

「い、いいだろ別に。 悪いと思ってるんだから」

「ふーん?」


 何でだろう。彼女の言う通りなんだけど、自分でもよくわからない。

 自分の中で何か線引きがあるんだろうけど、言葉にはできない。 でもそういう態度を取ってしまう。


「そうだ。 スキルブックの交換、まだ途中だったでしょ」

「あ、そう言えばそうだ」

「じゃあシャワー浴びたらロビーに集合ね」


 カヨは上機嫌で宿に入っていった。


 その日、夜遅くまでホテルのロビーでまったりと読書をして就寝した。

 ここ数日色々とあってバタバタしていたが、少し落ち着いた気がする。




 …………




 と、思ったのは束の間だった。

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