第032話 武器の名は⋯⋯
僕は悲しい気持ちで工房へ戻った。
「お、戻ったか」
ダリルが伝票を渡してきた。僕はその明細を確認する。
安物とは言え、色々と買い替え他ので結構根が張ったな……
「刀の方は鞘代だけでいい。アレはマスターの善意だ」
僕は工房の奥にいたマスターにお礼を言った。
「ありがとうございます」
「気にするな。 街の為に尽くしてくれた礼だ。 カヨの刀もできたから早速試しに行くぞ」
「わかりました」
工房に一度荷物を預け、街の外の訓練所に向かった。
向かう道中、シュゲムは老若男女の街行く人によく声をかけられていた。
彼は嫌がる素振りなどせず、挨拶を返す。
街の人に好かれているのがよく分かる。
そんなシュゲムに対して、僕も興味が出てきた。
「ギルドマスターはどのくらい前からここに住んでるんですか?」
「ふむ……詳しくは言えないが、少なくともリオネス王国が出来る前からここにいるぞ」
「そんな昔から!? っていうかここの街って王国よりも古いんですか?」
「街と言うより要塞だったりしたがな。そもそもわしがこの地に来た時は何もなかった。わしが住みだしてから人が集まったというべきか……」
小さな子供が走り寄ってきて、シュゲムに挨拶をする。彼は子供の頭を優しくポンポンと叩き、対応した。
「だからわしにとって、街の民は全て我が子のようなもの。お前らのように余所から来たとしても、ちゃんと仕事をして街に奉仕してくれるなら等しく扱っているつもりだ」
その暖かい言葉に僕はジーンと感動してしまった。
これが心の広さという奴だろうか。
「それでこんなに親切にしてくれたのですか」
「まあ、お前に関しては少し思う所もあった」
「思う所?」
「わしは昔、愛してる女……妻を守れなかった。それは己を見失うほどに悲しい事だ。 お前はそうならぬよう、少し力を貸してやろうと思ったのだ」
「……ありがとうございます」
シュゲムは上を向いて、少し悲しげな表情を見せた。
…………
僕らは街の外に出た。訓練所には誰もいない。貸切だった。
シュゲムは安物の剣を持って僕の前に立った。
そして魔法を詠唱する。
「我が身を守る見えざる盾よ!全てを弾き飛ばせ! リペルシールド!」
薄っすらとシュゲムの剣が光る。リペルシールドが剣に張られたようだ。
「ではジンよ、この剣に打ち込んでみろ」
「わかりました」
生まれ変わった刀を抜く。前よりも明らかに抜きやすい。鞘が新しいせいだろうか?
「凄く抜きやすくなりましたね」
「反りを浅く均一にしておいた。抜きやすく、お前が多用する突き技もやりやすいはずだ」
前の太刀は深く反っていた為、突きの力が抜けやすかった。竹刀も練習の木剣は反りが無くて突き技の勝手がだいぶ違った。
これは有難い調整だ。
新しい刀身を見ると薄っすらと青と銀で綺麗な回路が書き込まれている。切っ先は赤と青が混じった回路だった。
うん、実にカッコいい。
テンションが上がってきた。
僕は正眼で構え、振りかぶる。
「行きます」
シュゲムは頷きリペルシールドをかけた剣を掲げる。
「行け! 妖刀スペルブレイカー!」
刀と剣が交差する。
妖刀スペルブレイカーはリペルシールドを破壊し……
パーン!
なかった。
乾いた音と共に刀は弾き飛ばされ、僕は尻餅をついた。
キョトンとして刀を見る。
「妖刀スペルブレイカー……どうして……?」
「妖刀? あ、いや回路に魔気を流さないとダメだろう。 峰に手を当てて集中してみろ。発動すれば回路が光る」
「わ、わかりました」
僕は立ち上がり、峰に手を当てて集中する。
魔力が高まり、刀に力が流れるのが分かる。
頭がクラっとして脚に力が入らなくなった。魔気が減っていのだ。だがまだ回路は光らない。
さらに力を込めると、一瞬意識が飛んでしまう。
僕はうつ伏せに倒れた。
「ぐおっ!?」
「ふむ、はやりお前の魔力では無理か」
全てを注いでも僕は回路を発動させる事が出来なかった。
「そ、そんな僕には妖刀が使えないのか……」
「なんだその妖刀というのは」
「え、この刀の銘なんですが。妖刀スペルブレイカー」
「……なぜお前が決める」
シュゲムは少し呆れたようにため息を吐いた。
「とりあえず立て、そして一度刀を収めろ」
「はい」
僕はしょんぼりして立ち上がり、鞘に収めた。
「これはわしの親父殿が考えた技術なのだが、その刀は鞘と一対で魔道具になっておる」
「え?」
「鞘に魔石が仕込んであってな、素早く抜いた瞬間だけ刀の回路が発動するようになっている」
「何ですかそれ! カッケェ!」
「不便だと思うが……まあ、お前がそう思うならそうなんだろう。今一度、抜刀切りで打ち込んでみろ」
「わかりました」
シュゲムは再びリペルシールドを張り、剣を構えた。
僕は腰を落として見様見真似の不慣れな居合抜きの構えを取る。
息を吐き、素早く刀を抜いた。
視界の端で刀身が薄っすらと青く光っているのがわかった。
青い軌跡を残し、僕の刀がシュゲムの剣に当たる瞬間、少し抵抗があった。
パリッという音と共に、薄い光の板が砕け散り、刀は弾かれずに剣に触れる。
リペルシールドを抜いたのだ。
「おぉ!!」
「ふむ、ちゃんと発動したようだな」
あまりのかっこよさに興奮してしまった。
「この青い光がめっちゃカッコいいです!」
「そうか、気に入ってもらえて何よりだ。ちなみに切っ先は赤いだろ? 別の回路が仕込んである」
たしかに切っ先だけ赤い回路と青い回路が混じり合っている。
後ろからカヨが自慢げに声をかけてきた。
「私が書いたのよ!」
「……ちょっと不安になってきた」
「何よその言い方は、まずは感謝しなさいよ」
「そもそも何の回路なんだよ?」
「ふむ、ならば見てみるか」
シュゲムはそう言って自分の指先を剣で切り、血を一滴、僕の刀の先に垂らした。
血が広がり赤い回路が光る。薄っすらと刃の先に半透明な赤い膜が出来た。
膜は硬いが脆く、摘むと簡単に折れた。
「これは?」
「血に混じっている魔力を利用して、薄くて弱い刃を血で形成する回路だ」
「えっと、何の意味が?」
「例えば首筋に軽く切っ先が入った場合でも、相手の血を利用して瞬時に切っ先が伸び、動脈を切れるのだ」
「どう? 凄いでしょ?」
自慢げな刀剣少女。
凄い。確かに凄いが……
「凄い……エグいです」
「ふむ、報告書を読むとお前は首を執拗に狙っていたからな。この回路がぴったりだと思ったのだが」
ぴったり? 僕にぴったりなのか?
確かに首を優先的に狙った記憶はあるけど……
いや、ここは素直に受け止めよう。
「血を吸って刃とするとは……さすが妖刀スペルブレイカー……」
「……ちなみにこの刀の銘は“首切丸”だ。カヨがそう名付けた。わしも良い銘だと思う」
「く、首切丸ぅ!? 血生臭過ぎでしょう!」
「もうナカゴに銘を彫ったぞ。今更変えれん」
「……」
刀剣2号あらため、首切丸。
僕は心の中で語りかけた。
なあ、首切丸。
お前の名付け親、17才の女子高生なんだぜ。
ウッソみたいだろ?
でも、ほんとなんだぜ。
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