第011話 訓練の続きとこれから
魔法の訓練は黒板の前に10人程座り、講座を受けるような形になっている。
魔法の訓練を受けない者は、剣の訓練を続けていた。
フィーナはメガネをかけて本を片手に黒板前に立った。
「さて魔法の訓練を始める前に……ジンさんはどの程度、魔法の事をわかっていますか?」
「触りぐらいしか……」
実際、僕のスキルブックには下級魔法しか書かれてなく、他の魔法は触り程度だった。
「では皆さんにはおさらいになってしまいますが、少し基礎から簡単に説明をしましょうか」
「お願いします」
「まず魔法とは別の世界の事象を呼び出す事、だと言われています」
……いきなり難しいじゃねぇか。
「ふふ、ジンさん。そんなに難しい顔ををしないでください」
フィーナは黒板に絵を描く。
「これはどういう事かと言うと、例えば水の魔法であれば、水の世界から水を呼び出す、火の魔法であれば、火の世界から火を呼び出す事です」
なるほど、今の説明で何となくわかった。
魔法を出す時に歪んで見えるのは、別の世界から呼び出してるって事だろう。
火や水を、無から生み出してる訳じゃないって事か。
ただ、フィーナが黒板に書いた絵は致命的に下手くそで、何を伝えたいのかわからない。丸い何かからグシャグシャっと何かが飛び出てきて、形容しがたい。
僕の顔はさらに難しくなった。
「そして魔力と呼ばれるものは、呼び出す時に穴を開ける強さ。魔力があるとグイグイ!っと大きく穴を開けることができます。広げた穴に魔気を注ぎこむと、その分、火や水が出てきます」
黒板にはさらに星印や人の人相のような物が描き足されていた。今の説明とは何のつながりも無いように見える。
「ここまではいいですね?」
「はい」
僕は理解に努める為、黒板を見ないようにした。
「そして取り出して水や火に、自分の魔気を絡めて形を整えます。この形の整え方で上中下と等級が別れます。攻撃魔法の場合は簡単なのですが、補助魔法や結界魔法、治癒魔法は少し概念が異なります」
フィーナは黒板に大きくバツ印をする。その後に謎の大きな丸印をした。
正直、僕はチョークの無駄だと思い始めている。
「これらの魔法は神の世界からの恩寵を引き出しているものだと言われています。しかし、それらも1つの学説でしかありません」
黒板には大きく「神」と書かれた。おそらく意味はない。
「他の魔法といえば、通常の魔法よりも強力ですが魔気効率の悪い古代魔法や古級魔法と近年に開発された新生魔法がありますが、どちらも用途が限られてあまり一般的ではありません」
ついにスペースが無くなり、端っこに何かチョロチョロと書き出した。小さくてよく見えない。黒板の使い方が下手なのだ。
「まず最初は習得が安易で使用頻度の高い魔法を覚えましょう。特に下級の攻撃魔法と治癒魔法、解毒魔法を覚えて行くのをお勧めします」
「(黒板以外のことは)よく分かりました!」
僕は元気よく返事をした。
……・・
フィーナはカエルを5匹ほどカゴにいれて持ってきた。
「このカエルを使って解毒魔法の訓練をやりましょう」
彼女はカエルを一匹つかみ、針を刺した。刺されたカエルはみるみる動きが鈍くなり、痙攣している。
これはおそらく麻痺毒という奴だろう。
「コツとしては、正常に動いているカエルを思い浮かべて魔法を唱えます。では見本を見せますね……癒し浄化せよ!アンチトード!」
魔法を唱えられたカエルは2~3秒後、何事もなかったかのように動き出した。
なるほど見事なもんだ。
「ではジンさん。やってみてください」
「わかりました」
僕はカエルと毒針を受け取り、カエルに刺そうとした。
「このカエル、結構ヌメヌメするな」
平たく言って気持ち悪い。その為か持ってる手にも変に力が入っている。
だが、覚悟を決めて針を突き立てた。
「……あっ!? イテッ!」
針は無情にもぬるっと滑り、誤って自分の手に毒針を深々と刺してしまった。
「ちょ、これ! ういいぃぃ!? 痺れるぅ!?」
「ジンさん、そんなに強くない毒です。 せっかくなので自分で解毒してみてください」
フィーナの後ろでカヨや他のメンバーは指をさして大笑いしていた。
「ち、ちくしょう! 癒し浄化せよ!アンチトード!」
……何も起こらなかった。
「失敗ですね。集中力が足りないようです。もう一度やってみてください」
「癒し浄化せよ!アンチトード! 癒し浄化せよ!アンチトード!」
僕は焦って何度も何度も魔法を唱えるが、やはり何も起こらない。
「落ち着てください。正常に動くときの事を思い出しましょう」
「ふぅ、ふぅ、ふぅー……正常に動くとき正常に動くとき……癒し浄化せよ!アンチトード!」
呪文を唱えた瞬間、僕はフラついて膝をついてしまった。
「ふふふ、今度は魔気が不足して魔法が発動しなかったようですね」
「いや、フィーナさん。笑ってなくて、そろそろ助けてください」
「では……癒し浄化せよ!アンチトード!」
フィーナが魔法を唱えると針を刺した箇所の腫れが引いていった。しかし魔気切れの気だるさは残っている。
僕はゆっくりと立ち上がった。
「毒の怖さ、解毒魔法の大切さ、魔気切れの恐ろしさ、わかりましたか?」
「はい……身に沁みました」
カヨは笑いながら僕に近づいてきた。
「この程度の解毒魔法は子供でもできるそうよ?」
「お前はできるのかよ!」
「私は上級の解毒魔法もできるわ」
フィーナが会話に入ってきた。
「上級の解毒が使える魔法使いの方は珍しいですね」
「そうなんですか?」
「上級や古級の治癒、解毒は習得が大変なので使える方は神官志望者ばかりですね」
「すいません、そもそも、神官と魔法使いって違うんですか?」
「基本的にはみんな魔法を使ってるので魔法使いといえば魔法使いですが、得意な分野によって呼び方を分けているのが現状です」
カヨは僕に指をさして言った。
「つまり私は魔法少女なのよ」
「……何がつまりなんだよ」
…………
魔気が切れた僕は体操座りで訓練を眺めている。
各々が攻撃魔法を木人形に向けて撃っていた。この木人形は火の魔法を食らっても燃えていない。
おそらく特殊な素材なのだろう。
ただカヨが唱えた火の下級魔法直径1mほどの火球が飛んで行ったが、ここの連中が出すものは10cm程度の大きさだった。
純粋に火力が低いだけなのかもしれない。
そんな中、フィーナがカヨに話しかけている。
「カヨさん、火の上級魔法は使えますか?」
「はい、使えますよ」
「ではあの人形に向けて撃ってみてください」
僕は慌てて立ち上がりカヨに耳打ちをした。
「カヨ……ちゃんと威力絞って撃てよ」
「分かってるわよ。全力だとさすがに目立つから程々にするわ」
彼女は先日買った魔力を制御する杖、制魔の杖をかざして魔法を唱えた。
「フレイムエクスプロージョン!」
キンッ!
甲高い音が響く。
木人形に向けて、光りの線が走る。
通常であれば命中したら爆発する火の上位魔法。
しかし、カヨの魔法は木人形を破砕、貫通して後方の木に命中、爆発した。
フィーナも他の訓練者も目を開いて驚いている。
カヨは「あ、やりすぎた!」って顔をしていた。
やっぱコイツは魔法でも手加減できない子なのかな……色々と嫌だな……
「これは凄いですね……魔法が圧縮されて火球の強度が上がってるのでしょうか……?」
フィーナは感嘆の声を出していた。
「すごいー! 初めて見たー!」
「ねえ、どうやったの? 私にも教えて!」
「ええっと、それは……あはは……」
カヨを囲んで訓練者の(主に女子連中)がキャピキャピし始めた。
僕は体操座りで顔かくし、何も見ていないアピールをした。
…………
一通り教官による訓練が終わり、ここからは自主訓練という流れになっている。
ちなみにダリルは未だに気絶していた。水魔法を食らったので全身びしょ濡れで放置されている状況だ。
さすがに哀れに思った僕は、ダリルをおこすことにした。
「ダリルさん、大丈夫ですか?」
「おう……いいの貰ったぜ」
「記憶あるんですか?」
「当たり前だろ、気絶したフリだよ」
「え?どうして?」
「起き上がったら追撃が来るからな」
僕は思った「この親父は普段からロクでもねーことやってんだな」と
「よっこいせっと……おいフリッツ!」
ダリルは立ち上がり、フリッツを呼んだ。
訓練をしていたフリッツは剣を置いてダリルの元に走ってきた。
その後ろにもう二人ついてきている。
「どうだフリッツ。ジンとカヨの二人は?」
「強いなんてもんじゃないですね」
「じゃあお前らは問題ないな」
「はい」
何の話だろうか?
「ジン、こいつらは5人で迷宮探索を行うパーティーを組んでるんだけど、最近二人ほど抜けちまってな。そこで新しいメンバーを探していた訳なんだよ」
「ああ、なるほど」
「ジンとカヨが問題ないならパーティーを組んでやってくれないか? 個人の強さはともかく、こいつらは経験が豊富だから勉強になると思うぞ」
「わかりました、カヨと相談してみます」
僕はキャピキャピしている女性陣の中に入り、カヨを呼んだ。
「ちょっと相談があってさ」
「どうしたの?」
「そこにいる……」
フリッツの後ろにいる二人が前に出てきた。
「ニールだ。斥候を担当している」
ニールは細目で細い顔立ちに茶色い髪、細身の身軽そうな青年で、弓と短めの片手剣を携えている。
「セイナです。治癒や補助を担当しています」
セイナは優しそうな顔立ちで長い赤毛の小柄な女性。杖と短剣を携えていた。
「さっきボコボコにされたフリッツだ。前衛とパーティーリーダーを担当している」
フリッツは苦笑いしながら話を続けた。
「俺達は元々五人で迷宮探索をやっていたのだけど、二人ほどパーティーから抜けてしまったんだ。それでメンバーを探していたら、君たちがギルドに入ってきた。丁度抜けた二人も攻撃担当の剣士と魔法使いだったから声をかけさせてもらったんだ」
「なるほど」
「ぜひパーティーに入ってくれないか? 俺たちの稼ぎは良いと方だと思う」
カヨは即答で返事をした。
「私はOKよ」
「えぇ?決断速すぎない?」
「だってシャワーを早く買いたいし」
「あ、そういえば……」
僕は借金があることを思い出した。
そして即座にフリッツの手を強く握った。
「ぜひ、お願いします!」
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