第009話 デートではない
僕らは一度荷物を宿に置いて、ギルド横の食堂で昼食を食べていた。昼時なので人がごった返して活気がある。
「さて、次は何をするか」
「魔道具を見てみない?」
「あー、いいね。色々面白そうな物がありそうだ」
「その後、ギルドで本が借りれるみたいだから、歴史書や地図を借りてみましょう。知らないことが多すぎるわ」
「確かになぁ。まだスキルブックも読みきれてないし」
「スキルブックについては自分のを読み切ったら交換しましょうか」
「うん、それがいいな」
食事を終え、裏通りにある魔道具屋を訪ねてみた。見慣れない色々な品が並んでおり、説明を受けなければ何なのか分からない物が大半だった。
その中でカヨが熱烈に欲したものがあった。
「ねえジン、私はコレが欲しいわ」
魔道具のお湯がでるシャワー、帝国式と書いてあり値段は15万ルーブもする。
「宿でシャワーなら浴びれるだろ……」
「私はお風呂に入りたいの」
「じゃあ何故シャワー?」
「前に川でお風呂作ったじゃない。 あれにこのシャワーがあれば完璧でしょ?」
「なるほど……分からんでもない」
分からんでも無いけど、その風呂は誰が作るんだろうか。
「当面の目標はこのシャワーを買うことにしましょう」
「えぇぇ? 」
カヨは僕を睨み、いつもの言葉を言った。
「返事は?」
「ああ、ちょっとまって」
「何よ?」
「僕もその……欲しい装備が20万ルーブであったんだ。だから二人の財布は別々にしてそれぞれで貯めないか?」
「確かにそうね……お金で揉めても嫌だし、そうするわ」
僕は借金を隠すことに成功した。
…………
魔道具屋を出た後にギルドの受付にて書物を借り受けようとしていた。
「書物?魔物の図鑑ですか?」
「いいえ、この国に来て日が浅いので歴史書とか地図とか借りれますか?」
「かしこまりました。 少々お待ちください」
受付の女性は裏手に回り本を探してきた。手には薄い二冊の本と少し古い地図を持ってきた。
持ってきたのはリオネス王国記という歴史書とフィールドマップ、古い地図は世界地図だろうか。
「去年発行されたこちらの書籍はお貸しすること出来ませんが、ギルド内でしたら閲覧が出来ます」
「ありがとうございます」
僕はフィールドマップと世界地図、カヨは歴史書を担当してギルドのロビーで数時間読みふけった。
僕らは得た情報をメモ紙にまとめていく。
もちろん受験には出ない歴史と地理の勉強だ。
「ここはリオネス王国のヴェルマ要塞跡地に建てられた、ヴェルマの街。王都リオネスから南西に位置して帝国との国境が比較的近いみたいだ」
「ヴェルマ要塞……歴史書にも少し出てきたわね」
「どんな風に?」
「まずは、かいつまんで本に書いてある事は
ー2000年前 古王国という大きい国が出来た。
ー約1000年前 内乱で古王国が分裂。小国同士の争いに発展した。
ー490年前 統廃合の末にリオネス王国が制定される。
ー50年前 ザビル帝国が建国される。ザビル帝国が周辺国に宣戦布告。リオネス王国の間でも戦争が起こる。
ー40年前 ザビル帝国とは講和を行い終戦。リオネス王国とアルバ共和国以外の周辺国は帝国の傘下になる。
ー現在、リオネス王国とザビル帝国、それとアルバ共和国がこの大陸の三大国家として君臨している。
……て感じだったわ。あとは何代国王が誰で何をしたとかそんな感じ。帝国と国交が回復したのは先王の功績と書いてるわ」
「じゃあ50年前の戦争でヴェルマ要塞が出てきたって事か」
「そういうこと」
「その50年前の戦争は、三大国家の国境付近に遺跡が発見され、それを取り合ったのが原因らしいわね」
カヨが開いたページの挿絵には塔の絵が描かれている。
「これが神の塔?」
「分からない。遺跡としか書いてないけれど……この遺跡にあった技術で帝国の魔道具が発展した可能性があると書かれている」
「じゃあ王国側には戦争の原因になった遺跡の情報があまりないって事か」
「そのようね」
僕は世界地図を広げて指を指す。
「ヴェルマの街がここ、北東に進んだ王都がここ、三国の国境が重なるのは王都から更に北になるな」
「……縮尺が無いから遠いのか近いのか分からないわ……」
「さっき受付に聞いたら王都までは馬車で2週間程度らしい」
地図上では三国の国境ー王都間とヴェルマー王都間は倍に程度あった。
「移動だけで一ヶ月はかかりそうね……」
「あの神様、なんで塔のすぐ横に転移しなかったんだよ」
「はあ、まったくよね」
カヨは本を閉じて窓外を見た。外は薄くオレンジかかり、夕刻に差し掛かってる。
「そろそろ工房で剣を取りに行きましょう」
「ああ、いい時間だ」
……
工房では店主がカウンターの脇に剣を置いて立っていた。
「ようジン、実は少し不安があってな」
「何ですか?」
「片側の刃を削って軽くしたんだが、強度があまりよろしくない」
「まあそれは仕方ないですね。重い剣を振る……自信はないですから」
「途中でポッキリ折れて、お前がポックリ逝くと俺も困るからな。念のためにこいつも持っとけ」
そう言って店主は短剣を渡してきた。
「安モンだが有ると何かと便利だ。オマケにしといてやる」
「ありがとうございます」
僕は短剣を袋に入れ、オーダーした長剣を抜いた。
刃の片側は削られており、持ち手が長くなっている。要望通りの品になっていた。
中段で構えて軽く素振りをする。
「ほう、生意気に注文つけるだけあって中々様になってるじゃないか」
「分かるんですか?」
「まあな、折れたら言ってくれ。今度は削らずに叩いて鍛えておく」
「その時はお願いします」
…………・
僕らは工房を後にして早めに夕食を取った。
「やっぱり夕食は高いわね。どの世界も同じなのかしら?」
「ははは、そうかもね」
「でも高いだけあって美味しい。調味料をあまり使ってない分素朴な味だけどしっかり下拵えしてある」
「へえ、そんな事よく分かるな。美味しい以上の感想がでないや」
「じゃあジンは川の焼き魚で十分ね」
「えー? 酷くない?」
彼女は微笑みながら、ため息をついた。
「……ふぅ……」
「どうした?」
「森で彷徨ってる時は内心どうなるか不安だったけど、少し落ち着いて……何だろう、分からないことが多いけどちょっと楽しくなってきちゃった」
「あー分かる。僕も自分の剣を作るって時はワクワクしたよ」
「へぇ、男の子ねぇ。そういえばあなた、自分の竹刀に名前付けてたわね」
「ぐ……」
彼女は突然、中学時代の黒歴史に触れてきた。
古傷を抉るのはやめてほしい。
「今回はどういう名前にするの?」
「あ、いや。何も考えてないから……そうだな刀剣1号にしよう」
「何それ」
カヨは呆れながらクスッと笑い、コップの水を飲み、話題を変える。
「ねえジン。何で高校で剣道を辞めたの?」
「それは……そう、勉強が忙しかったから」
「嘘ばーっかり、勉強なんて全然やってなかったじゃない」
「うっ……」
僕は言葉に詰まった。
剣道を辞めた理由は……まあ、あまり思い出したくない。
「まあいいわ、明日、剣の訓練があるみたいだからそこであなたを鍛え直してあげるわ」
「うえぇ!?魔法少女さん!?」
「可愛い魔法少女に負けるようじゃ冒険なんて出られないでしょ?」
「自分で可愛い言うな」
「あ?」
「なんでもないです」
そんな談笑をしながら出てきた料理をすべて平らげた。
会計を済ませて宿へ向かう。
「明日も支度したらココに集合でいいか?」
「ええ、そうしましょう」
「じゃあ、お疲れさん」
「その前に」
「ん?」
カヨはビシっと指をさした。
「今日は一日一緒にいたけど、コレはデートじゃないから」
「お、おぅ?」
「生きるためにやってる事だから、勘違いしないように」
「……朝とえらい違いだな」
刹那、僕は加護の力で危険を察知した。脇腹に何かが来る!
しかし油断しきった体勢と満腹の腹。動きの鈍い体は無情にも反応できなかった。
グリッ!
彼女の一本指貫手が腹にめり込む。
これは単純にして殺傷能力の高い、非常に危険な技だ。
「あの話題、次出したら殺す」
凄くドスの効いた声で脅される。
「はひ」
返事を聞いたカヨは、部屋に引き上げていった。
僕は吐き気と戦いながら満腹時に食う貫手のヤバさを堪能した。
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