第31話 フラグ回収

 お昼ご飯が終わって少しくつろいだ後、ボス戦へと挑むために、マオたちは部屋の中へと入っていった。


 今までのボス部屋よりも大きく、広々した中に、1匹のドラゴンが体を丸めて休んでいた。


「やっぱりドラゴンではないか。これもフラグを立てたクリスのおかげだな」


「ぐ……」


 下手に反論しても、言い負かされるのがわかっているので、クリスは甘んじて、マオからのからかいに耐えた。


「マオさん、先制攻撃してもいいですか? 今ならまだこちらを意識していないようですし」


「あぁ、やってくれ」


「フレビューさん、槍じゃなくて弓ですけど、一番槍を取りに行きましょう!」


『おう!』


 弓を構えて精神統一をしながら、ドラゴンに向けて狙いを定めると、マールから放たれた殺気を感じ取り、ドラゴンが戦闘モードへと移行し雄叫びをあげる。


「Gyaooooo!」


 ドラゴンの咆哮に空気は振動し、ビリビリと肌で感じとれるほどのプレッシャーが放たれていた。


「バレちゃいましたか。先制攻撃できない以上、牽制にしかなりそうにありませんね」


 そう独りごちると番えていた矢を解き放つ。


 無音で放たれた矢は、真っ直ぐドラゴンへと飛んでいくが、ブレス攻撃によって相殺されてしまう。気づかれた以上、攻撃が当たるとは思ってなかったマールは、次の矢をどんどん放っていた。


 ドラゴンも応戦とばかりに、飛んでくる矢を撃ち漏らさないよう、ブレスを吐いたり前足を使ったり、尻尾でうち払ったりして消しているのだが、スピードの差が致命的となり、とうとう身体に矢が刺さってしまった。


「Gyaaaaa!!」


 普通ならば撃ち漏らしたところで、ドラゴンの皮膚を傷つけることはないのだが、今回はドラゴンにとって相手が悪かった。


 マオ謹製の魔弓を装備している、マールが相手なのだ。そんじょそこらの武器とは、格が違うのだ。


 ドラゴンが怯んで隙ができると、今度はクリスが攻撃に参加する。


「行きなさい!」


 召喚魔法陣から次々と配下の魔物を呼び出し、ドラゴンに向けて嗾けていた。


 その中には、オルトロスももれなく召喚しており、出番とばかりに勇ましく向かっていく。


 ダークウルフのちまちまとした連携攻撃に、オルトロスの隙をついた一撃が決まっていく。


 ドラゴンも負けじと、ブレスを吐きながら応戦しているが、数の暴力に対して今ひとつ決定打に欠けていた。


 更には遠巻きから、マールの矢が的確に放たれて、ドラゴンは防戦一方となりつつあり、未だかつてない苦戦に焦りを感じているが、そこは腐ってもドラゴン。並外れた戦闘力で不利ながらも戦いを続けていた。


 しばらく互いに決め手に欠ける膠着状態が続くと、流石のドラゴンにも疲れが見え始めた。


「……そろそろですかねぇ」


 ドラゴンの様子を観察していたマールは、ようやく均衡が崩れそうになる決め手を見つけ出す。


「クリスさん、ドラゴンに疲労が見え始めているので、このまま使い魔による、連携攻撃を続けてください」


「わかったわ。疲れたところを狙い撃ちするのね?」


「はい、普通なら躱されるか防がれるかのどっちかですが、疲れているならその判断も鈍るはずですですから。そこをつきます」


 クリスは作戦を聞くと、使い魔による波状攻撃を更に加速させていった。


 使い魔によっては傷を負うものもいるが、後方で控えているマオが、回復魔法でフォローをしてくれていた。


 それにより、クリスも安心して、使い魔を攻撃に参加させれているのだ。


 しばらく波状攻撃が続くと、目に見えてドラゴンの動きが悪くなり、傷を受ける頻度が増えていた。


 かたや最強種と言われているが、体力に限界のあるドラゴン、かたや回復魔法にて瞬時に戦線復帰し、限界がない使い魔たち。


 時間が経つにつれて、限界のあるドラゴンが不利になっていくのは明白であった。


 それでも、最強種としてのプライドから、意地でも倒れるわけにはいかず、粘り強く戦いを維持していたのだが、目に見えない疲労が溜まっていき、集中力が途切れていた。


 そんな中、粛々と機会を窺っていたマールが、おもむろに矢を番え、機は熟したと言わんばりに放つ。


『今!』


 音のない矢が弓から離れると、吸い込まれるようにしてドラゴンの頭部へと突き刺さる。


「Gya……」


 断末魔も満足に発することも出来ずに、とうとうドラゴンが地に伏した。


「……終わったわね」


「……終わりましたね」


「お疲れさま。2人ともよく頑張ったな。今回は決定打に欠けて、ジリ貧になるかと思ったぞ」


「今回はさすがに、マオの手を借りないと倒せないと思ったけど、マールが上手いことやってくれたわ」


「そんなことないですよ。クリスさんの使い魔あってこそですよ。私だけではどうにもならなかったですし」


 お互いに健闘したことを褒め合い讃えていると、マオが2人に飲み物を渡す。


「これでも飲んで少し休むといい」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


 2人は飲み物を受け取ると、渇いた喉を潤していた。


「さて、いよいよ残すところ、ボス戦もあと1回だな。気合いを入れて攻略するとしよう」


「そうね。ここまで来たんだから制覇したいわね」


「次のボスはいったい何でしょうね? ドラゴンより強いモンスターなんて、想像がつかないんですけど」


「それは着いてからのお楽しみだな。まずは階層を下りていこう」


 マオたちはダンジョン制覇に向けて、41階層へと攻略を進めるのであった。

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