第30話 女子力

 ご飯休憩が終わり、サクッとボス戦を終わらせた3人は、次の階層へと歩みを進めていった。


 ちなみに10階層のボスは、フレイムリザードだったが、さして苦労することもなく倒してしまい、『こんなものか』という感想しかでなかった。


 20階層目のボスは、フレイムバードの集合体で、1匹1匹は大したことがないのだが、数が多すぎて並の冒険者だと苦労しそうであった。


 しかし、そこは安定のマオクウォリティー。氷魔法を使って、あっさりと倒してしまったのだ。


「キリもいいし、今日はここまでにしておくか?」


「それもそうね。明日、また続きからやればいいのだし」


「帰る前に、ここで夕ご飯を食べましょう」


 それからマールが夕ご飯の支度を始めると、クリスがマオに気になっていたことを聞き出す。


「極氷剣フェルシスって、等級はどのくらいなの? 喋ってたから幻想級じゃないわよね? 神話級かしら?」


「多分そうじゃないか? 等級なんて気にしたことないから、聞かないことにはわからないな。聞いてみるか?」


「いえ、いいわ。また口論しそうだし」


 そんなやり取りの中、マールが夕ご飯の準備を終わらせて声をかけてきた。


「さあ、ご飯を食べましょう。今日は暑さが厳しかったので、冷たいものにしてみました」


「毎度のことながら、マールのご飯は美味しそうだな。いいお嫁さんになれるぞ」


「ありがとうございます。マオさんにそう言ってもらえると嬉しいですね」


 2人で和やかな雰囲気を醸し出していると、クリスはマールの女子力の高さに、焦りを感じるのだった。


『私も料理とか覚えるべきかしら?』


「クリスさん、食べてないですけど、美味しくなかったですか?」


「そんなことはないわ。ちょっと考えごとをしていただけよ」


 クリスは、女子力について考えていたことを言うわけにもいかず、ついつい言葉を濁してしまう。


 その後は、特に何かあるわけでもなく1日が終了した。転移魔法で宿屋の部屋に帰ってからは、今日の暑さの疲れが出たのかぐっすりと眠りについた。


 翌日、ダンジョン攻略を再開するために、20階層に転移すると、いきなりボス戦からの再開になってしまい、21階層に降りていればよかったと、若干、朝イチから憂鬱になってしまったのである。


 その後は、順調に攻略を進めていき30階層に到達したら、ボス部屋には、溶岩で覆われたゴーレムがいたのだった。


「ちょっとこれは、私には無理そうですね。矢が通りそうにありません」


「私も無理ね。氷系の魔法を使えるのはマオだけだから、マオが担当するしかないんじゃないかしら?」


「仕方ないな。サクッと終わらせて下へ降りるとするか」


 マオは極氷剣フェルシスを構えると、袈裟斬りに剣を振り下ろした。


 すると氷の斬撃が飛んでいき、マグマゴーレムに一太刀浴びせると、その切り口から徐々に凍り始め、そのまま氷の彫刻へと変化させていく。


 マグマゴーレムもされるがままとはいかず、なんとか足掻こうと藻掻くのだが、マオの魔力が乗った氷の方が威力が高く、結局、為す術なく氷漬けにされてしまった。


 氷漬けになったのを確認したら、3人はマグマゴーレムをその場に置き去りにし、階下へと進んで行った。


「ねぇ、マオ。今更だけど、ボスドロップの宝って取らなくていいの?」


「本当に今更だな。特に目を引くような欲しいものはないし、取ったところで後の処理に困るだろ?」


「売ればお金になるわよ?」


「クエストの達成報酬で稼いでいるからな、お金には困ってない」


 マオたちは会話しながらも、淡々と出てくるモンスターを倒していき、さほど時間を掛けずに進んで行くと、マールがおもむろに声を発した。


「このまま進むと今日中には、ダンジョンを攻略出来そうですね」


「そうだな。40階層に到達したら、一旦お昼休憩にするか」


「ボス戦の前と後のどちらにします?」


「前にしよう。下に進むにつれて暑さが酷くなっているから、冷たい料理が早く食べたい」


「わかりました。今日も頑張ってご飯を作りますね」


「期待しているぞ」


 それから、順調に攻略を進めていった3人は、予定通りボス部屋の前まで来ると、マールがお昼の準備を始めた。


「それにしても、ドラゴンが出てこないわね。他の冒険者は、そこで攻略がストップしているんでしょ?」


「クリス、それはフラグというやつだぞ。確実に次のボスはドラゴンだな」


「そんなことないわよ。もしかしたら、50階層のボスかもしれないじゃない」


「これで50階層もドラゴンに確定だな」


「ドラゴンだと、初めて見るから少し楽しみです」


 マールはそう言うと、準備の終わった食事を配っていく。


「今回は冷やし野菜の盛り合わせです。シャキシャキしてて美味しいんですよ」


「いつもありがとな」


「マオさんに美味しく食べていただけたら、私はそれで充分ですよ」


「クリスも少しは料理が作れたら、マールの負担も減るんだけどな。まぁ、お嬢様育ちだし無理だな」


「私だって、練習すれば料理くらいできるわよ!」


「料理は一朝一夕では無理だぞ。何気に奥が深いからな。それまで頑張れるならやってみるといい」


「奥が深いって言ったところで、マオだって作れないんだから同じでしょ!」


「ん? 俺は作れるぞ。魔王城ではたまに作ってたからな。どうしても食べたい物があるときは」


「なっ!?」


「だから、このパーティーで料理が出来ないのは、クリスだけになる」


 マオはそう言うと、野菜の盛り合わせを美味しそうに食べていく。


 一方でクリスは、マオから驚くべき事実を告げられ、いよいよもって女子力を高めるべく、料理を練習しようかと考えていた。


 そんな2人のやり取りを、暖かい目で見守っていたマールは、口元に微笑みがもれていたのだった。

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