第28話 ボルケーノ

 マオたちは、暑さ対策をしっかりとした上で、山岳地帯にある火山へと赴いた。


 ギルドを出発する前、受付嬢に未踏破ダンジョンの攻略に向かうと言った時には、目を点にされてしまった。


 昨日、今日で未踏破ダンジョンに挑むとは、受付嬢もさすがに思っていなかったらしい。


 一般的なクランやパーティは、一つのダンジョンを攻略し終わったあとに、休息日とやらを設けて、メンバーの英気を養うそうだ。


 ちなみにそれを聞いたマオは、二人に休息日にするかと聞いたところ、特に肉体的な疲れはないから、必要ないとのことだった。


 トレント地獄で受けたのは、精神的な疲れだけだったようで、それも、休息日を使ってまで、休むほどのものじゃないらしい。


 そんな返答を受けたマオは、予定通り《ボルケーノ》の攻略に赴くことにした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 マオたちが火山の麓まで着くと、やはり当たり前のことだが、マグマの熱気をヒシヒシと感じた。


 そんな麓の一角に、洞窟らしき入口があったので、これがダンジョンの入口だろうと結論付け、3人は中へと歩みを進めていった。


 ダンジョンの中は広々としており、入口を間違えてしまったのではないかと思うほどだった。


「しかし、暑いな……2人とも水分はしっかりと取れよ」


「わかってるわ」


「私も大丈夫です」


 街で暑さ対策の道具を買い揃えたとはいえ、活火山の近くにあるダンジョンは、それでもなお暑さが厳しかった。対策無しでは、探索も長続きはしなかっただろう。


「しかし、不思議なところだな。至る所にマグマが流れていて、火山の中を探検しているみたいだ」


「そうですね。ダンジョンと言いつつ、実は火山の洞窟なだけかもしれませんね」


「こんだけ広ければ、戦闘も楽ね」


「囲まれる心配もなさそうだしな」


 マオたちが歩いていると、大きな広間に行きあたり、そこは多くのモンスターたちで、埋め尽くされていた。


「ようやく戦闘ね」


「でも、多すぎませんか?」


「ギルドで聞いたことがあるんだが、こういうのは《モンスターハウス》と言うらしい」


「それなら、私も聞いたことがあります。これがそうなんですね。初めて経験しました」


「配置はどうする? 私とマールで片付けて、マオは状況次第で参加にする?」


「そっちの方がいいだろうな。クリスをメインにして、マールはサポートで」


「それじゃあ、やるわよ。マール、サポートよろしくね。貴女の弓の腕前を信じてるわよ」


 クリスは右手を前にかざすと、使い魔の召喚を始める。


「さあ、出てきなさい。ナイトウルフたち」


 地面の魔法陣が輝くと、そこから漆黒の狼たちが姿を現す。その数は10匹で、モンスターたちの相手をするには、まだ数が足りていないように思える。


 その間に、マールはモンスターたちに、ヘッドショットを次々に決めており、着実に数を減らしていた。


「さあ、こちらも張り切って頑張りますよ。フレビューさん!」


『おう! 任せな嬢ちゃん!』


 引き続き矢を放つマールは、どんどん数を減らしていくのだが、クリスの使い魔であるナイトウルフたちは、集団による連携で確実に倒してはいるものの、マールの速度には追いつけないでいた。


「クリス、他のも呼んだらどうだ? ウルフだけじゃ時間がかかるだろ?」


「そうしたいけど、あいつを呼ぶと結構魔力の消費が激しいのよね。そう思うと、ウルフたちの連携強化の訓練でもいいのかなって思って。マールが確実にアシストしてくれているから、安心して訓練できるのよね」


「減った魔力なら、その杖が回復してくれるだろ?」


「えっ? 回復したことはないわよ? そんな効果がついてるの?」


「魔弓と一緒で隠し効果だ。俺が作ったランクの高い装備は、基本的に隠し効果がついているぞ。そういう武器を、2人に渡しているからな」


「ということは、これも幻想級で、意思があるってことよね?」


「そうなるな」


「私は、武器に認められてないのね。隠し効果が出ていないもの」


「ん? クリスはちゃんと認められているぞ」


「えっ? どういうことよ? 認められていたら隠し効果が出るんじゃないの?」


「そいつを呼んだか? 呼ばないと起きないぞ。クリスと一緒で寝ぼすけだからな」


「……は? 武器なのに寝てるの!?」


 半ば呆れ気味にクリスが問うと、平然とマオが答える。


「意思があると言っただろ? そいつは、用のない時は基本的に寝ているぞ。だから、使う前は呼んで起こさないと寝たままだ」


「そんなの最初に言ってよ!」


「言ってなかったか?」


「言ってないわよ! 聞いてもないのに、どうやって起こせって言うのよ!」


「まぁ、そんな時もあるさ」


「マオはそんな時がほとんどでしょ! 言い忘れが目立つわよ!」


「それは置いといて、起こしてみろ」


「……」


「どうした? 起こさないのか?」


「マオ……貴方、この武器の名前を、私に言っていないでしょ? 『言ってなかったか?』って言うのはなしよ。聞き飽きたから」


「言う前に釘を刺されてしまったな。その杖の名は、魔杖ベルフだ」


「そう、わかったわ。ベルフ、起きなさい。戦闘は始まってるわよ」


『……』


「ベルフったら! 起きてよ!」


『……』


「起きなさい! 起きなきゃ燃やして炭にするわよ!」


『……何だよ、人が気持ちよく寝てるっていうのに』


「戦闘中なの! 寝てる場合じゃないわよ!」


『……んあ? 戦闘……? 知らないよそんなの。勝手に戦ってればいいじゃないか』


「ちょっとマオ! この杖、ワガママなんだけどっ!」


「はは! 相変わらずだなベルフよ。寝ているところ面倒だろうが、クリスの力になってやってくれないか?」


『……ん? マスターじゃん! 久しぶり。元気にしてた?』


「あぁ、元気だぞ。今は、魔王の仕事を押し付けて、人間界で遊んでいる最中だ」


『へぇ、楽しそうだね。で、この生意気な女を手伝えばいいの?』


「そうだな。生意気だが、お前と一緒で寝るのが好きなんだぞ。朝なんか全然目を覚まさないしな」


『ふーん……寝るのが好きなんだね。じゃあ、力になってあげるよ』


「なんか、腑に落ちないけどありがとう」


「クリスよ、ベルフも目を覚ましたことだし、がんがん魔法を使っていいぞ」


「わかったわ、試してみる。いくわよ、ベルフ!」


『りょーかい』


 クリスが召喚を再度行うと、輝きが収まった魔方陣から、頭が二つある双頭の犬が現れた。


 その体躯は、ウルフの何倍もあり、見た目からして強そうな雰囲気を醸し出している。


「オルトロス、敵を蹴散らしてきなさい」


「「ガウッ!」」


 二頭が揃って返事をすると、敵モンスターの中へと突進して行く。


「凄いわね、この杖の隠し効果って。使った魔力がもうすぐ回復するわ」


「凄いだろ? ベルフはやる時はやるやつだからな。魔法がある程度は、使いたい放題になるんだ」


「ありがとう、ベルフ」


『別に大したことないよ』


 戦闘は、クリスの使い魔であるオルトロスの投入によって、大きく傾いてマールも余裕が持てるほどだった。


「クリスさーん!」


 戦線を一時離脱して、マールがクリスへと駆け寄ってきた。


「あの大きな犬はどうしたんですか?」


「あれは、この杖が力を貸してくれて、召喚したやつよ。この杖のおかげで、魔力消費を気にしなくて良くなったの」


「へぇ、凄い杖なんですねぇ。さすがはマオさんの作品ですね」


「でもこの杖、ワガママなのよ」


「どこがですか?」


「基本的に寝ているらしいの。だから、戦闘前は起こしてあげないと、ただの杖なのよ」


「クリスさんと一緒ですね」


 クリスはその言葉に愕然とする。マオから言われるのは致し方ないとして、マールまでそういう認識であったのは、なんともしがたいことであった。


「貴女もマオと同じことを言うのね……」


「そりゃあ、クリスさんのダメダメぶりを、朝方見させてもらいましたからね。本来はああなのでしょう?」


「否定できない自分が悔しい……」


「さて、話し込んでいるうちに、戦闘も終わったようだし、先へ進むとしよう」


 3人が和気あいあいと話し込んでいるうちに、クリスが召喚した使い魔たちが敵を一掃していた。


「あら、あなたたちありがとう。また必要になったら呼ぶわね」


「「ガウッ!」」


 使い魔のうち、オルトロスが代表して返事をすると、魔方陣とともに消えていった。


 広間から先へ進むと、今度は通路でも適度に敵が出るようになっていて、マオたちに襲いかかってきたが、軽くあしらって攻略を進めていくのであった。

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