第26話 クラン結成

 マオたちは、あれからサクサクとダンジョン攻略を進めていった。


 20階層のボスモンスターは、エビルトレントでドロップアイテムは、またしても枝だった。


 当然、武器加工して杖に変えている。


 30階層のボスモンスターは、トレントロードでドロップアイテムは、言わずもがな察して欲しい……


 当然、その後の処理も――


 40階層目に到着すると、マオたちは、既にボスモンスターへの興味が無くなっていた。


「なぁ、ダンジョンってこういうものなのか?」


「ここはちょっと特殊な例ですね。私も、うんざりしているところです」


 目の前に現れたのは、ボスモンスターであるエルダートレントだ。


 敵はやる気満々なのが窺えるが、マオたちはうんざりとした気持ちが滲み出るのを通り越して、あからさまにやる気がない。


 マオが右手をかざし前へ突き出すと、エルダートレントは燃え尽きた。


 エルダートレントが消えた後に現れた宝箱の中身は、言わずもがな――


 とうとうやる気がなくなったまま、マオたちは、50階層へと到着してしまった。


「マール、とうとうここまで来たぞ」


「そうですね。長い道のりでした」


「ご主人様の苦労も、とうとう報われる時が来たのですね」


 セリフだけ聞けば、なんともカッコイイ流れではあるのだが、中身は全然違うものだった。


「(階層ボスが、トレントだけのダンジョンなんか、さっさと終わらせたい)」


「(長かった道のりを考えると……やっと終われるんですね。トレントスパイラルが)」


「(ご主人様の落胆ぶり……もっと色んなモンスターが出ると思っていたのでしょう。トレント地獄もここまでで、あとはクリアするだけです)」


 と、いった感じだ。いかにトレントだけが出てきたか、想像に難くない。


 マオたちの目の前で魔法陣が輝く。


「確実に、トレントだろうな」


「確実に、トレントですね」


「確実に、トレントでしょう」


 魔法陣の輝きが終わると、そこにいたのは紛うことなきであった。


 ボスモンスターの名はトレントキング。トレント界の王様である。


「よくぞここま――」


 トレントキングは灰となった……


 前口上の途中で倒してしまったことに関しては、誰も責めることは出来ないだろう。


「……終わったな」


「……終わりましたね」


「……終わりました」


 トレントキングのドロップアイテムは、ひときわ豪華そうな枝だった……


 枝なのに豪華……すでに意味不明である。杖に加工すると、豪華な杖となった。


 これで少しは買取価格も良くなるだろう。そこぐらいしかメリットがない。


 それから街に戻ったマオたちは、ギルドへダンジョン踏破の報告へと向かった。


「ちょっといいか?」


「はい、なんでしょう?」


 カウンターで受付嬢が対応するが、以前の街みたいに、マールのような担当受付嬢がいないので、未だに名前すら知らないし、ころころ代わるのでどうにも慣れずにいた。


「ダンジョンを踏破したから報告に来た」


「ダンジョン踏破ですね。何処のダンジョンですか?」


「《大森林》だ」


「……は?」


 受付嬢は、既に踏破されたダンジョンの報告と思っていたので、上手く対応できずにいた。


「だから、《大森林》のダンジョンを踏破した」


「えぇと、何階層の構成でしたか?」


「50階層だ」


「階層ボスは?」


「10階層はトレント、20階層はエビルトレント、30階層はトレントロード、40階層はエルダートレント、最終階層はトレントキングだ」


「……」


「おい、呆けるな。処理してくれ」


「す、少しお待ちいただけますか?」


 そのまま受付嬢は、奥へと引っ込んで行くと、その先で、先輩らしき受付嬢に質問をしているようだ。


(先輩、ちょっといいですか?)


(あなた、今の時間帯はカウンター勤務でしょ? 持ち場を離れて何しているのよ)


(その持ち場で、問題が起きたんですよ)


(また冒険者が、報酬にケチでもつけてきたの?)


(いえ、ダンジョンを踏破したって、報告にこられた方がいまして)


(それなら、手続きしなさいよ。マニュアル通りにすれば問題ないわ)


(いえ、それがいつもの様に、踏破されたダンジョンじゃなくて、未踏破のダンジョンなんですよ。マニュアルには、その対応は載ってなかったですよ?)


(未踏破ってどこの?)


(《大森林》だそうです)


(えっ? あの森だらけで、階下へ行く道が中々見つからず迷宮って言われてた、あのダンジョン!?)


(そうなんですよぉ。私じゃ無理なんで、先輩が対応してくださいよぉ)


(わかったわ。その冒険者は、まだカウンターにいるのね?)


(はい。少し待っていただくように、伝えましたから)


 カウンターで待っていたマオには、丸聞こえだったのだが、どうやら先輩と呼ばれている人が、対応をしてくれるみたいで、ひとまずそのまま待つことにした。


 奥から1人の受付嬢がやってくると、見たことある顔であることに、マオは気づいた。


「あら? 貴方だったのね」


 その受付嬢は、以前、ワイバーンの買取の時に、世話になった受付嬢である。


「あの時以来だな。お前が担当してくれるのか?」


「そうですね。今回は、未踏破のダンジョンを攻略されたとかで……新人には、その対応は難しいですから」


「奥に引っ込んだ方は新人だったのか。そうとは知らず、きつい言い方をしてしまった」


「貴方にしては珍しいですね。何かあったのですか?」


「《大森林》でちょっとな……」


「お聞きしても?」


「別に構わないぞ。ただ単に、階層ボスが全部トレント種だったから、つまらなかった上に、飽き飽きしただけだ。ドロップアイテムもしょぼかったしな。いっそ《大森林》ではなく《トレント》に、名前を変えればいいんじゃないか?」


「それは可能ですよ。初回踏破ボーナスとして、命名権がありますから。《大森林》と呼ばれていたのは、ギルドが一時的に命名しただけですから。その方が事務処理が楽なんですよ。何処のダンジョンか区別できますから」


「じゃあ、《トレント》に変えてくれ。未踏破でうきうきしながら行ったら、結果にガッカリしたしな。ダンジョンに対する当てつけだ」


「わかりました。そのように処理しておきます。次に、ギルドカードの提示をお願いします。踏破ダンジョンを登録しますので」


「他の2人の分も必要か?」


 そう言ってマオは、ギルドカードを受付嬢に手渡す。


「いえ、パーティーで挑まれているので、代表者のカードだけで十分です」


「他のやつのも、自動的に登録されるってことか?」


「いえ、そこはパーティーとして登録されますので、個人にではありません。ソロで攻略されると、個人で登録できます。そしてパーティーを解散されると、その実績も必然的に消滅します。パーティーがなくなるわけですから。逆に、ソロはずっと残ります。パーティー用の救済措置もあるのですが……そういえば、クランをまだ作っていないようですね」


「クランって何だ?」


「パーティー用の救済措置みたいなものです。いくつものパーティーや冒険者が集まると、団体になってしまうので、それらを統合したパーティーの上位互換だと思ってください。クランから脱退しても、クランの実績は残るので、再入団すればクランの持つ実績に、あやかれるというものです」


「それでもクランを解散したら、実績はなくなるのだろ?」


「そうですね。でも、解散するとしたらクランメンバーが全ていなくなって、ソロプレイか、もしくは、元のパーティー人数になるってことですからね。一度クランを立ち上げた冒険者は、解散することは中々ないですね」


「で、それは作った方がいいのか?」


「功績を残していくという面では、作った方が無難ですね。全ての功績を覚えられるなら、別に構いませんが。作った場合は、ギルドに記録が残るので、どんな功績を積んだのかも一目瞭然ってわけです」


「ふむ。試しに作ってみるか。ダンジョン踏破の記録は残したいからな」


「では、クラン名はどうしますか?」


「うーん……《マオと愉快な仲間たち》ってのはどうだ?」


 マオのネーミングセンスのなさが、遺憾なく発揮されると、受付嬢は、涼しい顔をしたまま沈黙していた。


「……(だっさ!)」


「……お前、今ダサいと思っただろ?」


「いえ、そのような事は……」


「嘘つけ。顔に書いてある。嘘つくなら《ギルドの受付嬢は嘘つきだ》ってクラン名にするぞ」


「……思いました」


 《マオと愉快な仲間たち》と命名するくらいの人ならば、実際にやりかねないと思い、受付嬢は早々に白状するのであった。


「何かいい案はないのか?」


「そうですねぇ……《アンノウン》とかどうですか?」


「何だそれは?」


「未知ってことですよ。貴方たちパーティは、突如やってきて、数々の功績を打ち立ててきました。ですが、その素性は一切わかりません。ですから、傍からしてみれば“未知”なんですよ」


「そういうことか。それなら、《アンノウン》で登録しておいてくれ」


「では、新たに新規クラン、《アンノウン》の設立をここに認めます。ダンジョン踏破の功績は、クランに登録することとします。ダンジョン《大森林》は、ダンジョン《トレント》へと改め、持ち帰った情報とともに、公開させていただきますので、ご了承ください」


「わかった。それじゃあ、用事も済んだことだし、帰ることにする。それと、暫くは未踏破ダンジョンの攻略を続けていくから、情報を集めておいてくれ」


「未踏破ですか? 踏破済みではなく?」


「踏破されたダンジョンは、面白みに欠けるだろ。だから、未踏破ダンジョンなんだ」


「わかりました。準備しておきます」


「じゃあな。また来る」


 マオは、ギルドでの用事が終わると、紅茶を飲んでいた2人を引き連れ、宿屋へと戻るのだった。

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