第25話 初ダンジョン

 シパンナの件から数日が経った頃、未だにクリスは己の失敗を許せないのか、頑なに態度が変わらなかった。


 以前のような気安い感じではなく、従者然とした態度で、マオだけでなくマールにまで、その態度のまま接している。


 マオからは反省したのだから、以前のように接していいと言われてるものの、中々元の関係には戻れないでいた。


 そんなある日、しばらくはクエストを受けるのではなく、気晴らしにダンジョン攻略へ、乗り出してみようということになった。


「マール、この辺りのダンジョンで、手頃なやつはあるか?」


「そうですねぇ、手始めに行くのであれば、初心者向けのダンジョンがあります。初心者向けなので、ダンジョン内のモンスターは弱く、階層も少ないです。よっぽどの無茶をしない限り、初心者でも踏破できるダンジョンですね」


「ちなみに、今の俺たちが行けばどうなる?」


「数時間で踏破できると思いますよ。20階層までしかないので、すぐ終わります。ダンジョン内の宝も、それほど高価なものはないので、本当に初心者向けですね」


「それなら、中級者用はあるか?」


「あります。中級者向けは50階層からなっており、お宝もそこそこいい物があったりしますね。ちなみに上級者向けは、未だに踏破されていませんので、何階層あるかも不明となっております。中級者向けも踏破されていないダンジョンが残っています」


「それなら、踏破されていない中級者向けダンジョンを、手始めに攻略するとしよう。クリスもそれでいいか?」


「私は何であろうと、その決定に従うまでです」


「はぁぁ……クリスさんは相変わらず、態度が硬いままですねぇ。マオさんも何とかして下さいよ」


「本人が未だそれを望んでるんだ。強制するわけにもいくまい。ただ、いつまでもそれを貫き通すのであれば、行動に移すがな」


「本来の主従関係に戻っただけで、今までが異常だったのです。状況に甘えて、失態を犯してしまった以上、自身で律するほかありません」


「まぁ、今はいいさ。そのうち元には戻ってもらうがな」


「しかし、それでは――」


「お前の主人は誰だ?」


「……マオ様でございます」


「ちゃんと理解しているじゃないか。その主人が望まない関係を、お前はいつまでも続けるつもりなのか?」


「……いえ、そのようなことは――」


「それなら、どうしたらいいかはわかるな? 今すぐとは言わないが、ずっとそのままでいるなら、こっちにも考えがあるぞ」


「マオさん、脅すのは良くないですよ。クリスさんも、あの時のことは、私は気にしていませんから、今までのように接してください。他人行儀にされると、悲しくなってきます」


「だ、そうだぞ。マールの気持ちも考えてやれ。お前がそんな態度だから、自分のせいだと落ち込んでいるのだぞ。理解できたなら善処しろよ?」


「……仰せのままに」


 相変わらず態度は硬いままだったが、これから少しずつでも、自分の罪を軽くしていければいいと思う、マオであった。


「よし、ダンジョンに向かおう。マール、踏破されていないダンジョンはどこにある?」


「これから向かおうとするダンジョンは、別名大森林と呼ばれているダンジョンで、街を出て東の森に入口となる大きな木があります。名前の通りダンジョン内に、何ヶ所も規模の大きい森林があり、踏破は未だに成されていません」


「それは楽しみだな。早速出発しよう」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 マオたちが街を出て東の森へと向かうと、森の中にはとても大きな木があり、人が入れるような大きさぐらいで大木が削れており、まさに入口といった感じだった。


「不思議な光景だな。そこまでの大きさではないのに、奥が全く見えないぞ」


「不思議ですね」


「とりあえず中に入ってみよう」


 マオが先陣を切って中へ進むと、2人も後を追う。中に入ったと思ったら、眼前に広がるのは無骨な洞窟だった。


「転移系の魔法か? しかし、魔法が発動した兆候は見られなかったし、空間を直接繋げているのか?」


 振り返ると森の風景は見えず、真っ暗な闇が広がっているだけだった。


「考えても仕方ないし、先へ進むか。2人ともはぐれるなよ」


「「はい」」


 洞窟内は1本道でひたすら奥へと続いていた。モンスターもまだ出てこず、ダンジョンというのに、ただの洞窟探検と化していた。


 しばらく歩くと、これ以上進めないようで行き止まりとなり、眼前には闇が広がっていた。


「これは入口と同じやつか? ここに足を踏み入れると、先に進めるようになるのか?」


「多分、そうだと思いますよ。他に道もありませんでしたから」


「仕方ない。進むとしよう」


 マオが闇の中に消えると、2人も追いかけるように進んで行った。


 進んだ先は眩しくて、つい目を瞑ってしまったが、その違和感を不思議に思い、少しずつ目を開けると、視界の先には、見渡すばかりの森林が広がっていて、何故か光が差し込んでいた。


「何だ……これは?」


「洞窟にいたはずなのに、光がありますね。外に出たのでしょうか?」


「それはない。周りを探知したが、範囲はここだけで、その先が見えなかったからな」


「ご主人様、危険がないか、少し探索してきましょうか?」


「いや、それをしたら楽しくなくなる。安全の中、ダンジョンを進んでも面白くない」


「配慮が足りませんでした」


「この際、不思議現象のことは考えないで、攻略をどんどん進めていこう」


「そうですね。元々、ダンジョンは意味不明ですからね。攻略に関係のないことは、考えるだけ損ですよ。景色を楽しむだけに留めましょう」


 3人はそのまま、森へと足を踏み入れた。途中、出てきた敵は難なく倒し、階下へのルートを探す。


「もしかして、あれじゃないですか?」


 マールが指さす先には、ダンジョンの入口と同じように、大穴の空いた木が立っていた。


「もしかして、このダンジョンは、森の中から1本の木を探せっていうことか?」


「この先もずっとこれが続くなら、そうなんでしょう」


「“木を隠すなら森の中”とはよく言ったもんだな。先が思いやられそうだ」


「でも、簡単に攻略できるより、やりがいはありますよ?」


「そうだな。先に進むか」


 マオたちは、入口同様の木に躊躇い無く入っていった。出た先は、何の変哲もないただの洞窟だった。


「また洞窟か……もしかして、この洞窟で休憩を取りながら、先へ進む感じになるのか?」


「敵が出てこないなら、そうかもしれません。案外、冒険者に優しい設計になっていますね」


「でもそれなら、攻略出来ていないのはおかしいだろ? 安全な休憩ありきなら、攻略者が出てもおかしくないはずだ」


「それもそうですね。もしかしたら、広すぎて途中で断念したんじゃないですか? そんな中、奥まで進むと食糧とかは、現地調達になりそうですし」


「まぁ、言ってても始まらないな。実際に潜ってみて、自分の目で確かめてみるとしよう」


 再び進みだすマオ一行。こんな調子でどんどん攻略を進めて行った。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――地下10階


 特に困ることなく10階へ到着すると、拓けた森林地帯ではなく、洞窟の中だった。


「景色が今までと違いますね。多分、ボス部屋だと思います」


「そうか。ボス部屋は普通に洞窟なんだな。森林地帯を想像していたんだが」


「そうですね。なんか拍子抜けした気分です」


 2人が喋っていると、洞窟の中央に魔法陣が浮かんだ。


 魔法陣がひときわ輝くと、その中から現れたのは2、3メートルはありそうな木のモンスターだった。


「トレントですね……」


「トレントだな……」


「トレントです……」


 3人とも現れたボスモンスターに、落胆が隠しきれないでいた。


「どうします? 私だけでも倒せそうなのですが。というか、負ける気がしません」


「ちょっと楽しみにしていたのだが、現れたのがではなぁ……マール、任せた」


「了解です。サクッと倒しちゃいます」


 言うが早いか行うが早いかといった感じで、言い終わる頃には、もう、トレントは死んでいた。


「お、何かドロップしたようだぞ」


 トレントがいた場所には、宝箱があった。早速、意気揚々と宝箱を開けるマオであったが、開けた瞬間に愕然とした。


「枝だな……」


「枝ですね……」


「枝です……」


 宝箱の中には、枝が1本入っていただけだった。


「とりあえず薪にでもするか? 1本だけじゃ、どうしようもないが」


「マオさんがそれを加工して、魔法の杖にしたらどうですか? お店に売ってお金にしましょう。売る時のために、ランクが低めの杖に、加工すればいいですよ」


「それもそうだな」


 マオが右手に魔力を込めると、枝が光を放ち、みるみるうちに形が変化しだした。


 光が納まったあとは、もう枝ではなく、見た目だけは立派な杖となっていた。


「ふむ、《トレントの魔法杖》というものに変化したぞ。ランクは希少級だな。これなら店で売れるだろう」


「そうですね。何か付属効果は着いているのですか?」


「魔法威力アップ(微)だな」


「無難なところですね」


「よし、攻略を進めていこう」


 マオたちは再び歩きだし、ダンジョン攻略を進めていくのだった。

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