第24話 罪と罰

 マオが解体場からフロアに戻ると、遠巻きに冒険者たちが壁際まで避けており、開けたフロアのその中には、クリスとマール、朝方のSランク冒険者がいた。


「おいおい、これはなんの騒ぎだ?」


「シパンナさん、これは明確な破壊行為ですよ。ギルドとして処罰対象です」


 2人の登場に、その場にいたギャラリーたちは、道を開けていく。


 その中を進んで行き、当事者たちに近づくことで、新たな事実を目の当たりにした。


「マール、その腕はどうした?」


「あ、あの椅子の破片が刺さりまして」


「少し我慢しろ。抜いてやる」


「――っ!」


 マオは、勢いよく木片を腕から抜くと、傷跡に回復魔法をかける。


 みるみるうちに傷は塞がっていき、元の綺麗な腕へと戻っていった。


「それで、これはなんの騒ぎだ?」


 淡々と質問をするマオに、マールは少しおどおどしながら、事のあらましを話した。


「実は、マオさんが解体場に行ってから、2人でお茶をしてたんですが、そこの冒険者がまた絡んで来まして、クリスさんが煽って、ターゲットにされたんですけど、攻撃を避けて椅子に座り直していたので、周りの椅子が全て壊されてしまって、最後の1つが壊れた時に、破片が飛んできて腕に刺さっちゃいました。不意のこととはいえ、私もまだまだですね。いつもなら避けれたはずなんですけど」


「そうか……」


 マールは、自分の不甲斐なさのせいだと証言するも、マオはそう捉えていなかった。


 マオを覆っていた雰囲気がガラリと変わる。その変わりように周りも気付き、足を震わせる者や、額から冷汗を流す者と様々だった。


「クリス!」


 いきなり呼ばれたクリスはビクッとなり、すぐさま返事を返した。


「はい!」


「お前がいながら、何だこのザマは?」


「……えっ?」


「何故マールが怪我を負っている? お前は何をしていたんだ?」


「いや、あの……その男の攻撃した椅子の破片が飛んで――」


「お前は何をしていたのかと聞いている!」


「――っ!」


 マオのあまりの剣幕に、言葉を失うクリス。今までこんなことはなく、初めての体験でどうしたらいいか、わからなくなり混乱するばかりだった。


「マオさん、私は平気ですから、クリスさんを許してあげてください」


「マールは少し黙っていてくれ。これは、力ある者の果たすべき責務を蔑ろにした、クリスへの罰なんだよ」


「それでも……」


「マール?」


「はい。わかりました」


 マオがクリスに視線を戻すと、事の大きさに気付いたのか、顔を青ざめていた。


「クリス、お前の力なら、こいつは楽に倒せたはずだ。違うか?」


「間違いありません。ご主人様のおっしゃる通りです」


 クリスは、マオの雰囲気に飲まれたのと、マールに傷を負わせた罪悪感から、出会った当初の召喚時のときの口調に戻り、その場で跪き、受け答えした。


「お前、遊んでただろ? 相手を馬鹿にしながら」


「……はい」


「別にそれが悪い事とは言わない。周りに迷惑をかけなければな。だが、今回は怪我人を出した。当事者同士以外のだ。マールは好戦的な性格じゃないから、傍観者に徹していたはずだ。お前はそんなマールを巻き込んだんだ。戦闘力もお前と違い、一般的に見ても低い。後衛職なのも相まって」


「おっしゃる通りです」


「それなのに、お前は過ちを犯した」


「この償いは、私の命を持ってして――」


「責任から逃げるな! 命を差し出せば、責任を果たしたと言えるのか? それはただ単に逃げただけで、なんの償いにもなっていない」


「返す言葉もありません」


「お前は今後、同じ過ちを犯さないと誓えるか?」


「誓います。我が体に流れる血に誓って、2度と同じ過ちを犯しません」


「わかった。その誓いの言葉を忘れるな。誓いを破れば、お前はお前でいられなくなる」


 マオは右手をクリスに向けると、魔法陣がクリスを包み込んだ。


「これで、誓いを破った時に魔法が発動する。ゆめゆめ忘れるなよ」


「はっ!」


 クリスは頭をたれ、服従の証を示す。


「次はお前だ」


 マオはシパンナへと向く。シパンナはいつもの覇気はなく、周りの冒険者同様、マオの雰囲気に飲まれていた。


「今回は俺が当事者ではないので、直接手を下すことはないが、次はないと覚えておけ」


「お、お前には関係ねえだろ」


 必死に声を振り絞ったが、震える声で反発するのがせいぜいだった。


「今度俺の仲間に手を出したら、お前の命はそこまでだ」


 そう言って、威圧するとシパンナも言い返せず、ただ黙るだけだった。これで、今後はもう手を出してこないだろう。


「クリス、マール帰るぞ」


「はい、ご主人様」「はい」


 3人がギルドから立ち去ると、残された人たちはなんとも言えない雰囲気になった。


(あ、クエスト達成報酬渡しそびれた……)


 受付嬢は、呑気にもそんな事を考えていたのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 後日、ギルドを騒がせていたSランク冒険者のシパンナは、ギルド内の破壊行為と今までの強引な手口が、被害者の届出によって露見したことにより、冒険者ランクが降格する処罰を受けた。


 これは、資格剥奪の次に重い処分だった。


 ちなみにランクは、SからBへとダウンし、これからの行動如何によって、昇格試験の資格を得られることになる。


 今回の件で、通常の昇格試験よりも厳しい判定内容となるため、昇格は難しいだろうと、冒険者の間では言われていた。


 シパンナ本人は、周りに自分の処罰が知れ渡ったことにより、居心地が悪くなり冒険者の街から、人知れず去っていったのだった。

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