第22話 自重って何? 美味しいの?
あれから月日が経ち、マオたち3人は、仲良くAランク冒険者になった。
主に討伐系のクエストをこなして、護衛は一切やらずに難易度の高い採取クエストとかを、気晴らしに受けていたくらいである。
指名依頼もあったが、内容が護衛とかだったら受けずに、ひたすら討伐か採取のどちらかだけを受けていた。
そんなある日、ギルドへ向かうといつも以上に、人だかりができていた。
「何かあったのか?」
「さぁ? 興味ないわ」
「誰か有名人を囲っているようですよ」
誰がいようとマオたちには関係のないことなので、いつも通りに掲示板へと向かった。
「今日は、どのクエストを受けようか?」
「そろそろ、ワイバーンに挑戦してみませんか? 空の魔物との戦闘経験がないですから」
「それもそうね。マールも弓の練度が上がってきたし、問題ないんじゃない? 少なくともマオ1人に任せるってことにはならないでしょうし」
「そうだな。それなら、このワイバーン討伐を受けてみるか」
3人はクエスト受注のため、受付へと足を運ぶ。
「すまんが、このクエストを受理してくれ」
「ワイバーン討伐ですね。かしこまりました。ギルドカードの提示をお願いします」
「これでいいか?」
マオは、サッと懐からギルドカードを出すと、受付嬢へ見せる。
「はい。Aランクであることを確認しました。クエストの受注を認めます。頑張ってください」
「よし、手続きは終わったし、さっさと狩りに行くか」
「そうね。今回は、山岳地帯まで行かなきゃならないしね」
「しっかり準備して出発しましょう」
「よし、まずは道具屋だな」
マオたちがギルドから出ようとすると、不意に後ろから声をかけられた。
「やぁ、お嬢さん達。僕と一緒に冒険に行かないかい?」
3人が振り返ると、そこには見慣れない男が立っていた。それなりの装備を着こなしており、高ランクであることが窺える。
「どうかな? そんな優男よりも僕の方が何倍も強いよ。僕は、なんと言っても選ばれしSランク冒険者なのだからね」
「結構よ」「結構です」
「つれないこと言うなよ。なんならずっと一緒にいてもいいんだよ? Sランクである僕の稼ぎは、そこらの冒険者とは違うからね」
「マオ、行きましょ。こんなやつ相手にしてるだけ、時間の無駄だわ」
「そうですね。マオさん、早く行きましょう」
「そういうことだ。じゃあな、Sランク冒険者君」
マオたちが再びギルドから出ようとすると、Sランク冒険者はマールの肩を掴む。
「何サラッと流してんだ。この俺が誘ってやってんだから、大人しくついてこい」
マールの肩を掴んでいた、Sランク冒険者の手首を、マオが握り締める。
「っ!」
握られた手首のあまりの痛さに、つい肩から手を離し引っ込めて、掴まれていた部分を逆の手でさすると、苦々しい顔でマオを睨みつける。
「お前、本当にSランク冒険者か? とてもじゃないが品がないぞ。一人称は“僕”から“俺”に変わったし、化けの皮が剥がれたな。言ってる台詞が、そこら辺のチンピラと変わらないじゃないか」
「この僕をチンピラ扱いだと……Sランク冒険者であるこの僕を――」
その場で立ち尽くし、ワナワナと震えるSランク冒険者を他所に、マオたちは、クエストへと出かけるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後、山岳地帯へ到着した一行は、さっそくワイバーンを討伐するため捜索を開始した。
捜索を始めて数十分で、目的のワイバーンを見つけると、先制でマールが矢を射った。
「――」
ワイバーンは気づく間もなく、頭部を射抜かれ絶命する。
「ほんと、その弓は凶悪よね。敵でなくて助かるわ」
「いえ、お2人がいてこそですから。私1人では、戦闘は無理ですよ。近距離戦闘も攻撃魔法も使えませんから」
「とはいえ、クエスト達成だ。呆気ないな」
「そうね。もう何匹か討伐しておく? なんかマール1人いたら事足りそうなんだけど」
「そうだな。このまま帰ってもいいが、呆気なさすぎて達成感がないしな」
「……すみません」
「マールのせいじゃないさ。その弓との相性が良すぎた結果だ。誇っていいぞ」
「それなら次は、マールの先制を無しにしたらいいんじゃない? そうすれば、普通に戦闘出来るでしょ?」
「そうしよう。次は、クリスが先制してくれ」
「それでは、私はサポートに回りますね」
それからまた数十分掛けてワイバーンを見つけ出すと、クリスが先制の魔法を放つ。
「《ダークネスアロー》」
無数の矢がワイバーンに向かって放たれると、ワイバーンはそれを迎え撃つため、ブレスを放った。
今回はサイレントキラーにはならず、ワイバーンも飛来する魔力を感じ取り対応できたが、ブレスが長時間も持つわけではないので、打ち漏らした魔法の矢に体を貫かれた。
「グギャアァァァァッ!」
ワイバーンの悲鳴がそこかしこに響きわたると、それを聞きつけた、他のワイバーンが飛来してくる。
「おぉ、集まってきたな」
「壮観ですね。マオさんと一緒にいなかったら、逃げ出していたところです」
多数のワイバーンが飛来してくる中、マオとマールは、呑気にその光景を眺めつつ感想を漏らすのであった。
「ちょっと! 呑気に感想を述べてないで、少しはこっちを手伝いなさいよ!」
「手伝ったらすぐ終わるだろうが。討伐を堪能するためにも、1人で頑張れ。倒せない敵ではないから、楽勝だろう?」
「倒せない敵ではなくても、1人で相手にしていると面倒くさいのよ!」
「やれやれ」
マオは片手間で風の刃を放ち、ワイバーンの首を切断する。
「……」
「これでいいのだろう?」
「ちょっとは自重しなさいよ、この、バカァァァァっ!」
辺りにクリスの怒号が響きわたると、ワイバーンたちがいよいよ持って敵認定したのか、一斉に飛んできた。
「ほら、クリスが騒ぐから、一斉に飛んできたではないか」
「ぐっ――!」
「マール、届きそうな距離になったら、弓で射抜いていいぞ」
「わかりました」
「クリスは魔法で牽制。こんだけ一斉に襲ってくるんだ。お前の望んだ普通の戦闘が楽しめるぞ」
「ワイバーンを、何体もいっぺんに相手にするのは、普通の戦闘とは言わないわよ!」
「今日はやけに注文が多いな。反抗期か?」
「そんなわけないでしょ! あなたの非常識さに呆れてるのよ!」
「俺のどこが非常識なんだ? 普通だろ」
マオは、自分が非常識であることを、露ほども思っておらず、否定するのだった。
「あのぉ~……」
「どうしたマール?」
「終わりましたよ」
その言葉を聞き、空を見上げるとワイバーンが1匹もいなかった。
「全部撃ち落としたのか?」
「いえ、何体か撃ち落としていたら、残りのワイバーンが逃げてしまいまして」
「そうか。残念だったなクリス。もう戦闘は終わったようだ。ワイバーンを回収して帰るとしよう」
今回の収穫は5体だった。1匹だけ討伐すればよかったのだが、マールの頑張りにより、多くのワイバーンを仕留めることができた。
「はぁ……マオ以外にも非常識なのがもう1人いたわね。私だけは、ああはならない様に気をつけないと」
2人の非常識をパーティーに抱えるクリスは、1人だけ常識人であり続けようと心に決めるのであった。
やがて、山岳地帯からギルドへ到着した一行は、受付で達成報告をする。
「ワイバーンの討伐が終わったぞ」
「討伐部位の提出をお願いします」
「丸ごとここに出すのか?」
「丸ごと?」
「あぁ、ワイバーンの死体丸ごとだ」
「……っ! 解体場へお願いします。確認のため私も同行しますので」
「わかった。クリスとマールは待っててくれ。ちょっと解体場まで行ってくる」
「わかったわ」「わかりました」
それからクリスとマールを残し、ギルド嬢と解体場へ行ってワイバーンを取り出すマオだが、2人の傍を離れている間に、思いもよらぬ出来事が起こっていようなどとは、全く思いもしなかったのである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
解体場に着いたマオは、【無限収納】からワイバーンを外に出した。
「……」
丸ごと1匹出されたワイバーンに、ギルド嬢は呆然とする。まさか本当に、丸ごと1匹出てくるとは思わなかった。
「こいつぁ、また大層なもんを持ち込んだな」
そう言ったのは、解体場の責任者であるガオンだった。度々、マオが魔物を持ち込むので、既に顔なじみとなっている。
「マオ、お前のことだ。まだあるんだろ?」
「……えっ?」
ギルド嬢はガオンの言葉を疑った。ただでさえワイバーンを倒すのは至難であるのに、ガオンは、まだ目の前の冒険者が持っていることを示唆したのだ。
「確かにあるが、出していいのか?」
「何匹だ?」
「あと4匹だな。今日は5匹狩って、あとは逃げられた」
「!!」
またも、ギルド嬢は驚愕した。ワイバーンを5匹狩った上に、あとのワイバーンは逃げ出したと言うのだ。あの邪悪で、人をゴミのように食い殺すワイバーンが。
「そのぐらいだったら大丈夫だな。全部出してくれ」
マオは残りのワイバーンを、その場に積み上げていく。その数、5体。
「こっちの4匹は綺麗に討伐しているな。こっちは魔法でズタズタになってるが」
「綺麗な方がマールで、ズタズタの方がクリスだ。クリスが手こずったので、トドメは俺だな」
「こりゃあ、矢で頭部への一発だな。相変わらずいい腕をしてやがる。こっちは珍しく魔法でズタズタにしたんだな。まぁ、普通の冒険者が持ち込めば、これよりも状態は酷いが」
「1匹目が呆気なく終わったんでな、今回は趣向を凝らして、戦闘になるようにしたんだが、クリスは1人で戦闘するのには向いていないようだ。クリスの相手をしているうちに、結局マールが残りを仕留めた感じになってしまった」
「普通はワイバーン相手に、1人で戦闘なんかしないんだがな。お前たちのパーティーに言っても、それは無駄か……買取報酬はいつも通り、数日待ってくれ」
「別に構わないぞ。金には困ってないからな」
用は終わったとばかりに、解体場を後にしようとしたが、ギルド嬢が再起動せずに、固まったままだった。
「おい、確認は終わったから戻るぞ」
「……えっ?」
「確認は終わっただろ? 戻るぞ」
「あ、はい。確かに確認しました。報酬はカウンターにてお渡しします。(この冒険者は一体何者なの? こんな強い冒険者なら、知名度は高いはずなのに、この私が知らないなんて……)」
受付嬢が再起動したことにより、2人で解体場を後にした。受付嬢は何やら考えごとをしているようだったが、マオは特に気にしていなかった。
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