第20話 マオのありふれた非常識

 掲示板の前に立つと、冒険者の街と言われるだけあって、多種多様なクエストが貼り出されていた。


「結構な量だ……これならしばらくは飽きそうにないな」


「飽きそうになったら、ダンジョンとかで気晴らしも出来ますよ」


「それもそうだな」


「ねぇ、マオ。今日はクエストを受けるの?」


「そうだなぁ……マールは前衛職と後衛職のどっちだ?」


「私は後衛職ですね。回復魔法が得意なんですけど、お二人には関係なさそうだから、今のところ役立たずですね」


「そうでもないぞ。武器は扱えるんだろ?」


「一応、弓を得意としてます」


「俺はオールラウンダーで、クリスは後衛の魔獣使い。で、マールも後衛の回復師ってところか。まぁ、何とかなるだろ」


「基本的に、貴方1人で何とかしてしまいそうだわ」


「それもそうだが、それでは面白味に欠けるだろ? すぐに飽きてしまう。マールのオススメクエストはどれだ?」


「私のオススメだと……このワイバーン討伐ですね。竜種の下位種族ですが、害獣として認識されていますので、討伐したところで、誰も困らないどころか感謝されると思います」


「でもこれって空を飛んでるんだし、マオ以外、攻撃が当たらないと思うわよ? マオがやって終わりになってしまうわ」


「それはつまらなくなるな。3人でやれそうなのはないのか?」


「3人でとなると……リザードマンの討伐にしてみますか? 陸にいる魔物なので、問題ないと思います。ゴブリンやオークの爬虫類版って感じの魔物です。強さは桁違いですが」


「3人で受ける最初のクエストだし、これでやってみよう」


「それじゃあ、行きましょう。街から出て、西の沼地に住んでるみたいですよ」


 3人が和気あいあいとギルドを去った後、ギルド内は騒然とした。


「おい、あいつら、あの冒険者たち放置して行ったぞ!?」


「犯罪奴隷に落とすとか言ってなかったか?」


「というか、どうやったらあんな切り方が出来るんだよ?」


「それよりもむしろ、仮にもAランクの冒険者をあそこまで追いつめたんだ。切ったのが見えなかったし、只者じゃねえよ」


「もしかしてSランクなのか?」


「それはねえよ。Sランクは公表されるから、誰がなったかわかるだろ?」


「とりあえず、パーティーメンバーに手を出したら、ああなるってことだけはわかった。それがわかっただけでも、儲けものだ」


「そうだな。手を出したら最後、死ぬか奴隷かのどちらかだしな」


「もうひとつある。あいつらみたいに、やられるだけやられて、忘れ去られるって事もあるかもしれない……」


 マオたちが去った後、放置されていた冒険者たちは、邪魔に思ったギルド職員から、無事に(?)奴隷へと落とされるのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



――西の沼地


「ねぇ、何も用意せずに来たけど、大丈夫なの?」


「大丈夫だ、問題ない」


「その自信はどこから来るのよ?」


「わからない。が、何とかなるだろう」


「私は回復に専念したらいいですか? あまり意味がないような気もしますが」


「マールには、これをやるから使ってくれ」


 マオが【無限収納】から取り出したのは、一張りの弓だった。全体的に漆黒に染まる部位に、弓柄の部分は金糸で彩られ、弦は銀色に輝く。


 見た目は至ってシンプルだというのに、放つ存在感は半端ない。


「これ何ですか? 見た目はただの弓なのに、そう見えない何かがあるんですけど?」


「それか? それは魔弓フレビューだ」


「ま、魔弓!? あなた何でそんな物を、軽々しくやってんのよ!」


「そんなに驚くことか?」


「驚くわよ! 魔弓って言ったら国宝ものじゃない!」


「えっ? そんなに凄いものだったんですか。さすがにそれは頂けません」


「いくらでも作れるから、気にするな。単なる在庫処分の一環と思ってくれ」


「ちょ、ちょっと! いくらでも作れるって……そんなに凄い鍛冶師を抱えているの!?」


「鍛冶師に頼んだことはないぞ。俺が作った」


「はっ?」


 クリスは、予想の斜め上を行く回答に、間抜け面をつい晒してしまう。


「ぷっ! クリス、面白い顔になっているぞ。中々に見れない光景だな」


「~~!」


 クリスが、今度は顔を真っ赤にして恥じらっていると、マオが追い打ちをかける。


「どうした? 変顔はもう止めるのか?」


「そ、そんなことよりも! マオは武器が作れるってこと? 国宝になるような物を」


「あぁ、作れるぞ。城にいた頃は、暇つぶしの一環で色々と作っては、放置しているからな。在庫でいっぱいだ」


「はぁ~マオさんって素敵ですね。武器も作れちゃうなんて」


 マールがマオの才能に惚れ惚れしていると、更なる事実がマオから告げられる。


「武器だけじゃないぞ。装備品は一通り作れる。本当に有り余ってるから、マールは気にせず貰ってくれ」


「装備品全部ですか!?」


「それで、その弓の効果は? 魔弓なんだから何かしら効果がついてるんでしょ?」


「そんなものがあるんですか?」


「あるな。確かそれは、無音で矢が放てるから奇襲にもってこいだな。あとは、普通の矢も使えるが、魔力で矢を作ることもできる。慣れたら属性矢が放てるようになるぞ」


「なんてものを作ってるのよ! 絶対それ、伝説級の武器でしょ!」


「それってどのくらい凄いんですか? 冒険者やっていた頃は、あっても希少級とか特異級でしたし。それ以上になると国宝になっちゃうので、あまり現実感がないんですよね」


「どれくらいかってなると、お目にかかれること自体ほぼないの。例えて言うなら、勇者の扱う聖剣と同じよ。そんなもの勇者と知り合ってから、見せてくれって言わないと、お目にかかれることないでしょ? それぐらいよ。性能は基本的にぶっ壊れてるわ」


「勇者と同じですか……まさに伝説って感じですね。でも、国王様とかだったら、普通に見てそうですよね。偉い人だし」


「確かにね。一般人からしたらと付け加えるわ」


「あとは防具だが……マールは弓を使うから、軽装備がいいだろうな。これとこれとこれぐらいか?」


 【無限収納】から出てきたのは、最低限の身を守る意味合いで、胸当てとバングル、すね当てだった。


「篭手でもいいかと思ったが、矢を射るときに邪魔になってはなんだしな。これらもマールにやるから使ってくれ」


「マオ、まさかとは思うけど、これってもしかして付与効果ついてるの?」


「簡単なものならついてるぞ。魔弓ほどではないが」


「はぁ……もう何もかもが非常識なのね。ツッコミを入れるのにも疲れたわ。それで、効果は何?」


「胸当ては体力回復+で、バングルは魔力上昇、すね当ては敏捷上昇だ。簡単なものしかついてないだろ?」


「ちょっと、聞き捨てならないのが混じってたわよ。体力回復+って何よ? 嫌な予感しかしないんだけど」


「その名の通りだ。体力が回復する」


「もしかして、ありえないことだけど、任意でヒールが発動するわけ?」


「そんな面倒な仕組みのものを付けるわけない。常に発動している」


「常に発動していたら、装備者の魔力がすっからかんになるじゃない!」


「するわけないだろ。俺の作品は、魔力を空気中から補っている。装備者がデメリットを負っては、呪いの装備になるだろ?」


「普通はそうなのよ! 何よ空気中から補うって! 意味がわからないわよ! 装備者にメリットしかないじゃない!」


「だからいい装備をみんな探すんだろ。デメリットがあるようなものを選んでどうする?」


「ちょっと、マールからも何か言ってやってよ!」


「いえ、私はマオさんの凄さを、改めて知ることができて満足です」


「このパーティー色々とダメだわ。私1人じゃ対処できない」


 クリスは疲れきって、諦めの境地に入るのだった。マールはマオからのプレゼントで終始ご満悦。マオは何が悪いのかと首を傾げるばかりだった。


「そこまで言うなら、クリスはいらないのか? クリス用にと一応見繕っていたのだが。まぁ、お前は今のままでも強いしな。必要ないか」


 マオは、クリス用に見繕っていた装備は不要と、勝手に結論づけた。


「ちょっと待ちなさい! 誰がいらないって言ったのよ!」


「クリスだ」「クリスさんですね」


 2人から名指しされて、涙目になるクリス。もう真祖の威厳はそこにはない。


「私だけ仲間外れにしないでよ……いらないって言ってないもん」


「いや、あそこまで、人の装備を非常識と罵れば、嫌いなんだろうと俺でもわかったぞ」


「そうですねぇ。ちょっと言い過ぎなところがありましたからねぇ。マオさんは凄いんだから、それぐらいで動じてたら、この先ずっと一緒にいられないですよ」


「グスッ……」


「ほらほら、泣き止んでください。ちゃんとマオさんに、欲しいって言いましょうね」


 マールがハンカチでクリスの顔を拭いてあげると、マオの前へと立たせる。


 これでは、どちらが年上なのかわかったものではない。


「マオ……ゴメンね。私もマオの作った物が欲しい……」


 本人は意識してないにしろ、美少女からうるうるした瞳で上目遣いをされて、世の中に拒否できる男性は果たして何人いるだろうか?


「俺も意地悪が過ぎたな。悪かった」


 マオが頭を撫でてそう答えると、クリスは嬉しそうに、はにかむのだった。


「クリスにはこれをやる」


 マオが【無限収納】から取り出したのは、杖とペンダントだった。


「これはな、使い魔をメインにするクリスにはうってつけの、魔力を高めてくれる杖だ。それと、こっちは無防備になりがちな、クリスの守りを固めてくれるペンダントだ。物理と魔法の軽減効果と、マールと同じ体力回復+がついている」


「……ありがとう。大事にするわ」


 ペンダントが余程嬉しかったのか、指でいじりながら、クリスは顔を赤らめていた。


「よし! クエストに向けて、リザードマンを狩りに行くぞ」


「うん」「はい」


 3人は沼地の奥へと足を踏み入れて、ひたすら進んで行くのであった。

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