第19話 冒険者の街へ……
翌日、目覚めのいい朝を迎えると、次はどの街に行くかを3人で話し合った。
「やはり、レベルの高いクエストを受けるのであれば、王都に向かうのが1番だと思います。もしくは、危険地帯が近隣にある街ですね」
「そうか。王都だとバレた時が面倒だから、危険地帯近隣がいいのだが、オススメはあるか?」
「うーん……ここからだと遠いですよ? 馬車で何十日もかかりますし」
「距離は心配しなくていいぞ。転移するから」
「転移って何ですか?」
「思い描いた場所に、瞬時に行く魔法だ」
「それって、1度行かないといけない制限がなかったかしら?」
「そうなのか? 俺はどこにでも行けるぞ。さすがに、転移先の情報は必要だが」
「……質問した私が馬鹿だったわ」
クリスは昨日の件に懲りて、早々と白旗を上げるのだった。
「距離を気にしなくていいのなら、打って付けの場所があります」
「どんな所なんだ?」
「そこは【冒険者の街】と言われ、街の周りには大森林や山岳地帯、多数のダンジョンまでもある、まさに冒険者のための街なんです。ここならSランククエストが普通にありますし、息抜きにダンジョンへ潜るということも出来ます。冒険者にとってはパラダイスですね」
「少なくとも、ダンジョンには行ってみたいな。楽しめそうだ。クリスはどこがいい?」
「私は、マオの傍にいられたらいいって言ったでしょ? 次の場所は、どこでも構わないわ。マオの行きたいところに行きましょ」
「そうか。それなら冒険者の街に行こう」
「そこなら、マオさんもいっぱい遊べそうですね」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――冒険者の街
行き先が決まって、早速、街の近くに転移したマオたちは無事に街へと到着した。
「やっとつきましたね」
「そうだな。街の周りに冒険者がウロウロしていたから、転移先は少し離れた所だったしな。二人とも疲れてないか?」
「私は大丈夫よ」
「私もです」
「よし、それなら宿屋をまずは押さえよう。宿が決まったら、とりあえずクエストでも見るために、ギルドへ向かおうか」
「そうしましょう」
そこから、マオたちの宿屋探しが始まった。
「宿屋って結構あるんだな」
「ここは冒険者の街ですから、幅広く対応するために、それぞれグレードが違うんですよ。安い宿屋もあれば、高い宿屋もあるって感じで、その人の稼ぎに合わせて宿屋を選べるんです」
「へぇ、2人はどんな宿屋に泊まりたい?」
「私は広い部屋がいいわ。部屋の中では、のんびりしたいから」
「私は、マオさんと一緒ならどこでもいいです」
「そうなると、俺たちが部屋にいても、広さを感じる宿屋になるな。必然的にグレードは高くなりそうだ」
グレードが高くなるという言葉に、クリスが反応した。
「私の希望を無理に通さなくてもいいわよ。多少、手狭でもボロくなければ安い宿屋でもいいわ」
「金のことなら心配するな。指名依頼で結構稼がして貰ったからな」
色々と宿屋を見て回ると、和風然とした建物が見えてきた。
「変わった宿屋だな。他のと比べたら、全然建物の外観が違うぞ」
「あれは異国の建築様式ですね。ここら辺の建て方ではありませんね」
「異国か……高そうだな」
「多分、Sグレードだと思います」
「グレードにランクなんてついてるの?」
「はい。冒険者ランクに合わせて、SからFまであり、宿屋を決める時の目安にもなるんです。冒険者ランクの稼ぎに合わせて、料金が決まっていますので。まぁ、ランクが低くても稼いでいる人はいますので、一概にそうとは言えませんが」
「そうか。それなら俺たちは、Bグレードの宿屋を探せばいいわけだな」
「そうですね。冒険者ランクに合わせて、宿を変えていけばいいと思いますよ。ゆくゆくは、あのSグレードの異国の宿に泊まれるように」
「それを考えると楽しくなってくるな。マール、いい街を教えてくれてありがとう」
「そんな……マオさんが、楽しく過ごせると感じてくれたなら、それだけで充分ですよ」
「私からも感謝するわ。マールがいてくれるおかげで、旅が楽になりそうだもの」
それから3人は、Aグレードの宿屋に部屋を取った。Bでない理由は、マオならすぐにAランクに昇格するだろうという見込みの計算だ。
部屋をとる時は、クリスの要望を叶えるために、料金は普通の部屋より高かったが、広めの部屋を借りてゆっくり出来るように配慮した。
そんなマオの行動にクリスは感謝して、満面の笑みを浮かべた。これを見れただけでも、マオは奮発した甲斐があったなと思うのだった。
料金が高いことなど、この笑顔の前では気にするに値しない瑣末なことであった。
部屋も決まったことで、3人は予定通りギルドへと向かうために、宿屋を後にする。
ギルドの建物も以前の街に比べると大きくて、規模の大きさを感じた。
建物の中も、当然のことながら普通に広かった。受付嬢も7名体制で、比較的スムーズに手続きが行えそうだ。
「圧巻だな。さすがは、冒険者の街と言ったところか」
「そうですね。私も初めて来ましたが、圧倒されてしまいます」
「中々に広いわね。これならクエストも、いっぱいあるんじゃない?」
三者三様の感想を漏らしていると、後ろから声をかけられた。
「おのぼりさんよぉ、ちょいと俺たちと遊ばないか? もちろん、男はいらねぇ」
いわゆるテンプレというものである。
「どこに行ってもいるもんだな。ああいう輩は」
「そうね。反吐が出るわ」
「昔からああいうのは、後を絶たないんです」
それぞれの感想が出ると、絡んできた冒険者たちは、こめかみをピクピクとさせて青筋をたてた。
「あぁ? 大した装備もしていない、駆け出し風情が調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「俺たちに敵うとでも思ってんのか? こちとらAランク冒険者だぞ?」
「女どもは大人しくついてきて、その体で奉仕すればいいんだよ」
三下感丸出しの冒険者たちは、自分たちのランクを笠に着ると、勢いを増して罵倒してきた。
「せっかくのAランクなのにもったいないな。こんな奴でもAランクになれるのか?」
「恐らくAランクになった後に、腐ったんでしょうね。Aランククエストは、実力がものを言いますから。Aランクに上がった途端、クエストで挫折でもしたのでしょう。嘆かわしいですね」
事実、冒険者3人はパーティなのだが、Aランククエストの難易度の高さに、自分たちの実力不足を感じさせられ、やさぐれていったのだった。
「そんなもんなの?」
「はい。BランクとAランクの間には、超えられるけれども超えられない壁みたいなのがあるんです。たとえラッキーでAランクに昇格しても、クエストの難易度の高さについていけず、お酒に逃げたり、弱者をいたぶるような人間に成り下がったのでしょう」
元ギルド嬢の情報は的を得ていた。自身もBランクである故に、Аランクの壁というものを知っているからかもしれない。
「何無視してくれちゃってんだ? ああ?」
「完全に三下のチンピラね。こんなのがAランクだなんて、思いたくもないわ」
その言葉をきっかけに、冒険者に腕を掴まれ引き寄せられたクリス。
「へへっ、間近で見るとさらに極上の女だな。今晩はヒィヒィ言わせて可愛がってやるぜ」
「それなら、俺はこっちの嬢ちゃんだな」
さらにマールを引き寄せて、下卑た視線を向ける冒険者。
「うっほー! でっかい胸だな。それ使って奉仕でもしてもらおうかな。いっぱい可愛がってやるぜ!」
「どっちみち、俺たち全員で可愛がるから、どっちの女も楽しめる俺らはラッキーだな。壊れるまで使ってやろーぜ」
冒険者たちが、早くも今後の予定に欲を全開にしていると、クリスからマオへ注意がなされた。
「マオ、私はともかくマールは普通に弱いんだから、守りなさいよ。何やってんのよ! 他の男どもに触られて貴方は落ち着いていられるの?」
「いや、少し考えごとをしていてな。対応が遅れたんだ。すまないな。ちなみにクリスのことも守るぞ。それは、男の役目だ」
「それなら早くしなさい! いい加減、臭い連中の傍にいるだけで吐き気がするわ!」
「な~に、言ってくれちゃってんのかな? もしかして、お前が俺たちに敵うとでも思ってんのか? 女の前だからって格好つけても、恥かくだけだよ~」
「そうそう。ボクちゃんは大人しく待ってな。壊れたら返してあげるからさ」
「それにこの女は口が悪いようだから、徹底的に調教しないとな」
マオたちと冒険者たちがこんだけ騒いでいても、周りの冒険者やギルド職員は動こうとしなかった。
「なぁ、マール。誰も止めに来ないんだが、こんなもんなのか?」
「そうですね。基本的に冒険者は自己責任です」
「わかった。当然、正当防衛だよな?」
「はい。マオさんは好きに動いて構いません。悪いのはここの三下たちだけです」
「お嬢ちゃん、口の利き方を知らないようだな。お前も調教決定だ。手始めに、そのけしからん胸を調教してやろう」
マールを拘束している冒険者が、胸に手を伸ばそうとした時、突然、肩から先の感覚がなくなった。
確かに動かしたはずなのに、動いていない事実。頭では動かす命令が下っていても、身体が動いていない、そんな矛盾。
(ゴトッ)
不自然にした音の先に目を向けると、そこには確かに血が流れている自分の腕があった。動かそうと思っていた自分の腕が。
「え……」
そこで急速に理解する。落ちているのは自分の腕。肩から先には何もない。血すらも出ていない。意味がわからない。
一瞬の静寂の後に、時が動きだす。
「お、俺の腕がぁぁああ!」
「て、てめぇ! 何しやがった!」
「おい、大丈夫かっ!」
「……あれ? 痛くない……?」
冒険者たちは、事態が飲み込めず混乱するだけだった。それもそのはず、たった今、腕を切り落とされた仲間が、痛みを感じておらず平然としていたからだ。
「なに、痛みを感じないように軽く切っただけだ。俺の女に手を出そうとしたのでな」
「ふ、ふざけるなぁ! 剣なんか持ってねえじゃねぇか!」
「腕を切るのにわざわざ剣を使うのか? 不便な奴だな。真底同情するぞ」
腕を切り落とされた仲間の冒険者が剣を抜き放つ。
「仲間をこんなにしやがって、殺してやるよ」
「マール、相手が剣を抜いて殺す宣言したぞ。殺してもいいのか?」
「構いません。むしろ生きてても害なので、全員殺してください。もしくは犯罪奴隷に」
「そうか。ところでマール、結構怒ってないか?」
「私に触れていいのは、マオさんと私の認めた人だけです。それ以外に触れられた時点で、その人は死刑確定です。この身体は全てマオさんのものですから」
「嬉しいことを言ってくれるな。ならば俺は、それに応えよう。不快な思いをさせてしまってすまないな」
次の瞬間には、剣を抜き放った冒険者の両腕が床に落ちた。
(ゴトゴトッ!)
相変わらず切り落とされた腕からは、ドクドクと血は流れているのに、肩からは一滴も血が流れていなかった。
「お、俺の腕がぁぁああ!」
「お前らは、それ以外に感想はないのか? 同じことを口走っているぞ」
「ゆ、ゆ、許してくれ! ほんの出来心だったんだ。女なら返すから。なっ? お前も、その女を早く離せ!」
突然、何も被害を受けていない冒険者が、命乞いを始めた。クリスとマールは拘束が解かれたので、マオの隣へと移動する。
「女は返した。だから見逃してくれ!」
「あぁ、いいぞ。命だけは見逃してやろう」
「た、助か……」
その言葉を発した時には、残っていた腕三本が床に落ちた。結局、冒険者たちの腕は、両方とも切り落とされていた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
「これで2度と、不用意に人様の女性に手が出せなくなっただろ? 感謝しろ、同じ過ちを踏まなくて済むぞ」
「腕が……腕が……」
冒険者たちはその場で跪き、目の前の自分の腕をただ呆然と眺めるだけだった。
「マール、怖くなかったか?」
「大丈夫です。マオさんが助けてくれるって、信じてましたから」
「マオ、私への心配は?」
「お前はその気になったら、あんな奴らすぐに殺せるだろ?」
「それでも、心配して欲しいのよ!」
「わかったよ。無事で良かった」
そう言って、クリスを抱き寄せて安心させる。その光景を物欲しそうに眺めるマール。
それに気づいて、マオはマールも抱き寄せる。
「さて、あいつらを奴隷にするんだったな。どうしたら出来るんだ?」
「ギルドの受付で手続きできますよ。動かない証人ですからね」
「それならあいつらの後始末は、ギルドに任せることにしよう。それじゃあ、当初の予定通りにクエストでも見に行くか」
クエスト掲示板へ向かうマオの左右の腕は、クリスとマールが腕をからませて占領した。
マオとしては、多少歩きにくさはあったが、さっきのことを鑑みて、甘えさせておくことにしたのであった。
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