第12話 クリスティーナの転機
~ クリスside ~
今日もいつもと変わらない日常。城の中で私は独り言ちる。
「波乱万丈な楽しい人生を歩んでみたいわ……」
ここはあらゆる魔族が住むと言われる魔大陸。その中でも、私は真祖として吸血鬼族の頂点を担っている。
そんな私の日常は、真祖の血と地位を欲しがる塵芥な奴等とのお見合い話。無論、結婚したくないわけじゃない。
私だっていつかは、誰かのお嫁さんになるのが夢なのだ。ちゃんと私のことを見てくれる、そんな人と……
もう何人目だろうか? 今日とて相も変わらず馬鹿で無知蒙昧な奴等が、ヘラヘラと語りかけてくる。
口から出る言葉は、やれ美しいだの、やれ至高だのと心にも思ってないことばかり。
お前らが欲しいのは、私の血と地位だけだということは、わかっているというのに。
そんな日常を繰り返していると、ある日、玉座の足元から魔法陣の光が差した。
『これは……』
そう、これは私も知っているし、使ってもいる《召喚》の魔法陣だ。
……ありえない。この私を、召喚しようとしているやつがいるなんて……
私は仮にも真祖よ。吸血鬼の頂点よ。私と肩を並べる存在なんていないのよ。
その真祖を召喚出来るわけがない。そんな存在がいるとしたら、それこそ魔王だけだわ。でも、魔王は勇者に討伐されて、今は空位のはず。
魔法陣がひときわその輝きを放つと、私の視界は謁見の間から切り替わるのだった。
私は召喚されたことに伴い跪いていた。誰であろうとこの私を召喚したのだ。一応の礼儀はとっておこう。
もし、私より弱いやつなら構わず殺してしまおう。ラッキーで召喚されたとあっては、私の沽券に関わる。
「ふむ、誰だお前は?」
それが、召喚者の発した最初の言葉だった。内に秘める魔力の底が見えない……何者なの? 少なくともラッキー召喚じゃないようね。
それに、自分で呼び出しておいて、私が誰だかわからないの?
「私は吸血鬼の真祖で、名はクリスティーナ・ブラッドロードと申します」
どこの誰だかわからないけど、さぁ、真祖の真名を聞いてビックリするといいわ。恐れおののきなさい!
「確か吸血鬼は大昔に滅んで、もういなかったはずだが」
しかし、戻ってきた返答は意外なものであった。
滅んだ……? 吸血鬼一族が? この人は何を言っているの? 現に私が召喚されているじゃない。
そもそも貴方は誰よ? 真祖である私を召喚できるなんてありえないわ。
でも、現に召喚されてしまっては、ありえないこともありえてくる。本当に謎だわ。
「それはそうと、俺の名前はマオと言う。しがない冒険者をやっている」
そう、マオと言うのね。……へ? はぁあ? 冒険者って言ったの? 今!? 冒険者って貧弱な人族がやってるものじゃない! ますますありえないわよ!
そんなことを思っていたら、マオが指パッチンした。その瞬間、魔族の証とも言えるものが現れ、再度音が鳴るとまた消えた。
『指を鳴らす行為はいるの? 何となく様になってるから、別にいいけど。様にならない奴がやれば、痛いだけの行為よね』
それから私を召喚した理由を聞いた。どうやら獲物を探すのに苦労しているようだ。
そこで私は、なんとかなる方法を提案してみる。実際、コウモリを解き放てば人海戦術で如何様にもなるのだ。
使い魔の説明をしていると、召喚した者が自分で良かったのかと聞かれる。
最初は、弱いやつなら殺してしまおうと思っていだが、今は違う。
私をラッキーで召喚できたようには見えなかった。確実に私よりも強いと思える。その証に、クリスと呼んで貰うように頼んだ。
私が嫌ならば、《返還》しても構わないと言う。でも、もうあそこには帰りたくない。お見合い話にも飽き飽きだ。
そんな私の苦労をわかってくれたのか、共感してくれた。でも、次の言葉に私は不意をつかれてしまう。
「そうか。それはうんざりだったな。俺はたとえ真祖じゃなくても、クリスなら大歓迎だがな」
そう、私が望んだ私自身を見ての評価だった。思わずドキリとしてしまう。
顔は赤くなってないだろうか? 心臓がドキドキしているのを感じる。
彼は、敬語は使わなくていいと言う。冒険する仲間だからと。とても、ご主人様らしくない行動だけど、特別扱いされてるみたいで嬉しかった。
それからは、コウモリを使ってオーガを探し当てたのだけれど、直前で討伐するのはなしになった。
どうやらクエストでは、見つけるのが条件で討伐するのは次のクエストになるのだそうだ。
面倒くさいのだが、冒険者としてお金を稼ぐにはそれも許容しなくてはいけないらしい。
そのクエストが、他の人に取られる心配をしたのだが、今現在、オーガに勝てる者が街にいないそうだ。
相変わらず人族は弱い。でも、そのおかげでクエストが横取りされることがないのは、喜ぶべきことだろう。
結局、その日はオーガを見失わないように使い魔を残すことになった。
さて、あとは街に帰るだけだ。
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