第11話 寝起きの悪いお姫様

 翌日、俺が目を覚ますと、太陽は既に、昼前になりそうな高さだった。目の前には、腕の中でうずくまるクリスがスヤスヤと眠っている。


 どうやら抱きしめていたらしい。寝心地が良かったのはこれのせいか。


 苦しくなかっただろうかと思い、顔を覗き込むと穏やかな表情で気持ちよさそうに寝ていた。


『今日はオーガ討伐だし、そろそろ起きるか』


 そう思い起きようとしたのだが、クリスが俺のシャツを掴んでおり、起きれそうにない。


 仕方なく、気持ちよさそうに寝ているクリスを、起こすことにした。


「クリス、もう昼前だぞ。起きろ」


「うーん……もう少し……」


 どうやら寝起きが悪いらしい。吸血鬼だからか? 日が昇ってると弱いのだろうか? 真祖だから耐性はあるって言ってたような……


「おい、クリス。今日はオーガを討伐しに行くんだぞ」


「オーガ……?」


「そう、オーガだ」


「……寝る」


「寝てはダメだろう。昼飯を食べに行くぞ」


「持ってきてぇ……」


 これはダメだな。仕方ないから、強制的に起こそう。


 クリスがシャツを握ってるのをお構いなしに、お姫様抱っこしてベッドから下りる。


「うーん……」


 クリスは、日の陽射しが眩しいのか、俺の胸にグリグリして顔を埋める。


 そのまま椅子に座らせるが、クリスは、されるがままの状態だった。


 さて、どうしたものか……女性の支度には疎いが、髪くらいは梳かしておこう。所々、寝癖がついてるしな。


 櫛を取って髪を梳いていると、気持ちよさそうにしていたので、これで多分あっているのだろう。


 髪を梳かし終わると、掛けてあったドレスを取る。被せて着せれるタイプみたいで、俺でも出来るだろう。


「クリス、バンザイだ」


「んー……」


 言われた通りにバンザイしたので、シャツを脱がしてあげる。


「次は腰を少し浮かせろ。ハーフパンツを脱がすから」


「んー……」


 上手く脱がせられたので、そのまま収納した。下着姿になっても、目覚める様子がないが、今までどうやってたのだろうか?


 真祖ってことだから、お姫様みたいなものだよな? お付きの世話係が全部してたんだろうか? それとも日が落ちてから起きていたのか?


「下着は黒なんだな。おませさん」


「んふふー……」


 もし俺に子供が出来たら、こんな感じになるのだろうか? と思いつつもドレスを着せてあげる。少し髪が乱れたようなので、また梳かし直した。


「よし、出来たぞ! そろそろ起きてくれないか?」


「んー……」


「おーい、クリスー。起きろー」


 このままでは埒が明かないので、ほっぺをペチペチと叩くと、虚ろだった瞳に活気が出てくる。


「あれ……? マオ……?」


「そうだ、マオだぞ。目が覚めたか?」


「えっ……?」


 未だ意識がハッキリしてないのか、混乱しているようである。


「私、座ってる……?」


「あぁ、抱っこして座らせたからな」


「髪……」


「梳かしておいたぞ。寝癖がついてたしな」


「服……」


「全然、目を覚ましてくれないから、着替えさせた」


「――っ!!」


 クリスは羞恥心からか、みるみるうちに顔が赤くなっていた。


「何で起こしてくれなかったの!」


「起こしたけど、起きなかったぞ? 『もう少し』って言って」


「……見た?」


「何をだ?」


 明らかにドレスに着替えているので、わかり切ったことなのだが、クリスは確認せずにはいられなかった。


「下着姿……」


「それなら見たぞ。着替えさせたんだから当然だろ」


「~~!」


 クリスは、マオに下着姿を見られたことで、悶絶していたが、当のマオは全く気にした様子はない。


「気にすることもないだろ? 綺麗だったぞ、少しおませな部分も感じたが」


「……もうお嫁に行けない……」


「嫁に行きたかったのか? お見合いは断ってたんだろ?」


「あれは、私のことを見てくれなかったからよ!」


「まぁ、下着姿を見てしまったものは仕方ないからな、嫁の貰い手がなかったら俺が貰ってやる。それくらいの甲斐性はあるしな」


「……ほんと?」


「あぁ、本当だ。俺もいつかは、嫁さんと子供が欲しいからな」


「約束よ?」


「わかった。約束しよう」


「なら、いいわ」


「クリスも落ち着いたことだし、飯を食べに行くぞ。その後は、ギルドだな」


 これからの行動予定が決定すると、マオが部屋から出て行くので、後ろから頬を赤く染めたクリスもついて行くのであった。

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