第9話 指名依頼
マオたちは街に戻ると、早速ギルドへ報告に向かった。
「クリス、念のため聞くが、冒険者登録はしてないよな?」
「当たり前じゃない」
「先にクリスの冒険者登録を済ますか」
ギルドの中に入ると、冒険者たちから注目を集めた。主にクリスが。
特に気にする必要もなかったので、そのままカウンターへと向かう。
「マール、クリスの冒険者登録を頼む」
「そちらの女性の方ですか?」
「そうだ」
「わかりました、こちらに必要事項を記入してください」
そう言って出された紙に、クリスがスラスラと記入していく。
「ねぇ、マオ。職種は何て書けばいい?」
「クリスの場合だと、
「じゃあ、それにしとくわね。……終わったわ」
記入が済んだ紙をマールに手渡すと、水晶玉に触れるように促される。
「これで、登録は終わりました。Fランクからのスタートになります。詳しい話は、マオさんにでも伺ってください」
「わかったわ」
そう答えると、クリスはカウンターから横へと移動する。
「マール、ギルドマスターに取り次いでもらえるか? 報告がある」
「マオさん、もしかして……」
「達成報告だ」
「少々お待ちください!」
マールは急いで奥の部屋へと向かっていった。
「ねぇ、マオ。ギルドマスターって偉い人?」
「そうだな。ギルドで1番偉い人だ」
「ふーん……」
クリスはそれだけ言うと、興味をなくしたのか関心がないようであった。
「お待たせしました。ギルドマスターがお待ちです。こちらへどうぞ」
急いで戻ってきたマールが、ギルド長室へ案内をしてくれるようだ。一度行ったから必要ないのだが、言わないでおくのが花というものだろう。
「(コンコン)失礼します」
「やあ、今日はお連れさんがいるようだね。新しい仲間かい?」
執務中の書類から顔を上げ、こちらを向いたサイラスが尋ねる。
「あぁ、クリスだ。オーガの探索を手伝ってもらってな。さっき冒険者登録を終わらせた」
「それはそれは。このギルドのギルドマスターをやらせてもらっているサイラスと言う。以後、お見知りおきを」
「よろしく。私はクリスよ」
サイラスが居住まいを正すと、マオがここへやって来た確信に迫った。
「ここに来たってことは、見つけたってことでいいのかな?」
「そうだ。森の深くに住むオーガは、1体だけだったから、はぐれで間違いない。特定の住処を作らず、森の中を彷徨っている」
「1体だけだったのは、僥倖だね。群れでも成してたら、とてもじゃないけど、この街じゃ対処できないからね」
「それで、次は順当にいって討伐クエストか?」
「そうなるね。けど、倒せそうかい? 無理ならまだ森の奥にいるうちに、近隣のギルドに、応援依頼をかけるんだけど」
「問題ないな。クリスもいることだし」
「クリスさんも強いのかい?」
「あぁ、強いぞ。しかも魔獣使いだから、索敵能力に優れている。今も使い魔にオーガを見張らせているしな」
「それは凄いね。では、安心して討伐クエストを発注しよう。これは中身が中身だけに、ギルドマスターからの指名依頼にするよ」
「わかった。ところで指名依頼とは何だ? 普通の依頼とは違うのか?」
「指名依頼はその名の通り、相手を指名して依頼するものだよ。普通は実績を沢山積んで、高ランクになってから受けれる依頼だけどね。相手を能力的に信用しての依頼だね。その分、報酬は格別だけど。もちろん、普通の依頼と同じで、受ける受けないは冒険者の自由だよ」
「そうか。まぁ、暇だから受けるけどな。同じ魔物ばかり狩ってても飽きるだけだし」
「ありがたいね。クエストの受注はいつも通り、カウンターにいるマール君に言ってくれ。何だかマール君がマオ君の担当みたいになっているけど、問題ないだろ?」
「問題ない。対応もいいしな」
「それは良かった。では、よろしく頼むよ」
「あぁ、終わったらまた報告しに来る」
マオたちは、ギルドマスターの部屋を後にして、フロアへと戻って行った。
「ねぇ、討伐は今日行くの?」
「いや、明日にしよう。楽しみは取っておかなくてはな」
「ふーん。結構、冒険者家業を楽しんでいるのね。そんなに楽しいものかしら?」
「これまでは、ずっと引きこもりだったからな。外で自由に出来るのは楽しいぞ」
「そういえばそうだったわね」
マオは、カウンターまでやって来ると、マールに声をかける。
「指名依頼を受注したいんだが、話は聞いているか?」
「はい、伺ってます。それにしても凄いですね。マオさんはまだDランクなのに、ギルドマスター直々に指名依頼を受けるなんて。ギルド初の快挙ですよ!」
「そうなのか? とりあえずクエストは明日行う。今日はもう宿で休むことにするよ」
「わかりました。明日は頑張って下さいね」
「あぁ」
ギルドからマオたちが去ると、その場は指名依頼の話で持ち切りだった。
「聞いたかよ? 指名依頼だぞ、ギルドマスター直々の」
「もしかして、オーガの討伐じゃないか? 調査依頼もあいつが達成してただろ? オーガが森にいたって」
「それで今日は探索依頼を達成して、明日は討伐依頼だぞ? いくらなんでも早すぎるだろ」
「何者なんだ? 今日は綺麗な子を連れていたし」
「あぁ、冒険者登録させてた子だよな? 綺麗だったなぁ……」
「羨ましいよなぁ……やっぱり顔か? 顔なのか!?」
「あと、強さだろうな。なんせオーガの討伐を、依頼されるくらいだしな」
「でも、Dランクだぞ。ありえるか?」
「強さにランクが追いついてないんだろ。よく聞くじゃねぇか、期待のルーキーが現れたって。いくら強くともランクアップの手順は踏むんだろうよ。お役所様は頭が固いからな」
「紛らわしいから、さっさとランクアップさせればいいのにな。調子こいて喧嘩売るやつが可哀想だ」
「調子こいてるんだから、別にやられてもいいだろ?」
「それもそうだな」
本人たちがいないからか、好き勝手に話題にする冒険者たちを他所に、マールも一人で物思いに耽っていた。
『マオさんカッコイイし凄いなぁ。今日一緒にいた人は恋人かな? 仲良かったし、綺麗だったなぁ……いいなぁ……』
マオに対して、密かに恋心を抱き始めているマールなのであった。
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