第6話 猫の手も借りたい

 次の日、早速ギルドで探索クエストを受注したら、街から少し離れたところで湖畔の脇に転移した。


「さて、オーガの住処を暴くことにするか」


 ここからは、昨日見かけたオーガの痕跡を辿るため、まずは、周囲の気配探知から始めた。


 昨日のうちに覚えておいた、オーガの気配を探るが、近くにはいないようだった。


「まぁ、わかってたことだ。早寝早起きの健康的な魔物なんて、あまりいないだろうしな」


 朝一にクエストを受けて来たことに、少し後悔するマオであった。


「これは、根気との勝負になりそうだな。上手いことオーガが飯を探しに、起きてくればいいけど……」


 それから数時間、なんの手がかりもなく、森を散策するだけに終わった。


 このまま続けてもマンネリしそうだったので、お昼ご飯を食べるために、一度街へ戻ることにして、ギルドへと足を運んだ。


「マール、ちょっと聞きたいんだが、ここら辺で美味い飯屋はあるか?」


「午前の探索が終わったんですね。美味しいご飯屋さんですよね……オススメなのは《月熊亭》っていうところです。同じ通りにあるのですぐにわかると思います」


「そうか、それならそこにしよう」


「お肉料理がオススメですよ。人気店なので、急がないと待たされることになります」


「わかった。行ってくる」


 ギルドから出て、《月熊亭》を探すために歩き出すと、お昼時のせいか、通りは人で賑わっていた。


 街中を歩く人たちは、食事処に向かったり、食材の買い出しをしているようであった。


 少し歩くと目的の店が見つかったので、中へ入ると人気店と言うだけあって、人でごった返していた。


 空いている席を見つけて座ると、給仕係が駆け寄ってくる。


「《月熊亭》へようこそ。ご注文は何になさいますか?」


「肉料理がオススメと聞いたんでな。何かオススメはあるか?」


「お昼のオススメメニューは、ナイトベアのステーキとなっております。それで宜しいですか?」


「あぁ、それで頼む」


「かしこまりました。料理が出来上がるまで、暫くお待ちください」


 そう言い残すと、給仕係は厨房へと入って行った。


 改めて周りを見渡すと冒険者やら、普通の市民やらで賑わっている。人気店なのは間違いないようだ。


 何もしないで待つのも暇だと思い、マオは、オーガを探す方法を考えてみることにした。


 昨日、運良く見つけられたのは1体だけだった。もしかしたら、がいるのかもしれない。


 そうなると住処を探すのは、また運任せになってしまう。探索範囲を広げようにも人手が足りない……


 思いのほか深く考え込んでたみたいで、給仕係が来たのにも気付かなかった。


「……様、お客様!」


「ん? あぁ、すまない。何か用か?」


「いえ、ナイトベアのステーキをお持ちしました」


「そうか」


 目の前にはいつの間にか置かれていた、ナイトベアのステーキがあった。焼きたてよろしくジュウジュウと音を立てている。


「美味そうだな。早速いただくとしよう」


「どうぞ、召し上がって下さい」


 ステーキにナイフを入れると、切り口から肉汁が溢れ出し、それだけでも食欲をそそられた。


 一口含めば、噛むのに力はいらず、まるで煮込んだかのような柔らかさを感じ取り、肉本来の臭みもなく、香り付けと思われる香草の風味が口の中で広がった。


「絶品だな。これは人気店になるのも頷ける」


「ありがとうございます」


 それだけ言うと、給仕係は仕事に戻っていくのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 マオは食事を終えたら、再び森の中へとやってきた。これからまたオーガ探しになるが、猫の手も借りたい状況を何とかしたかった。


 普段ならセバスに頼んで終わりなのだが、セバスは今、あいつの補佐に付けているから呼び出すわけにはいかない。


 それなら、他の従者を呼び出すか。しかし、それだと魔王城にいた頃と何ら変わらなくなってしまう。それに、向こうで仕事をしているはずだ。


 せっかくの冒険なんだ、新しい従者を呼び出すことにしよう。旅の仲間は、現地で見つけるのが醍醐味というものだ。


「久々に召喚魔法を使うとするか。ランダムにして、何が出るかわからない方が、冒険に相応しいしな」


 召喚魔法の準備に入り、魔力を高める。マオを包み込む魔力が強大になっていくと、木々に留まっていた鳥たちが不穏を感じ取り、一斉に飛んでいく。


 ひときわ魔力が高まったところで、魔法を行使した。


召喚サモン


 地面に魔法陣が浮かび上がり、眩しいくらいに光り輝く。光が収束するとそこには一人、跪いている者がいた。


「ふむ、誰だお前は?」


 勝手に人を呼び出しといて、その言い草はないのだが、今回はランダムなのでマオ自身、相手がどこの誰なのかが全くわからなかった。


「私は真祖の吸血鬼で、名はクリスティーナ・ブラッドロードと申します」


「確か吸血鬼は大昔に滅んで、もういなかったはずだが……」


「そうなのですか? ですが、現に召喚されているのですが……」


「確かに召喚は成功しているな。謎だ……まぁ、呼んでしまったものは仕方ないし、深く考えることはやめにしよう」


「貴方様は誰なのでしょうか? 自慢ではないのですが、真祖を召喚するなんて不可能なんですが……」


「そうなのか? 言葉を返すようだが、現に召喚されているだろ?」


「謎ですね……」


「「…………」」


 二人して見つめ合うが、謎が謎を呼び深く考え込んでも埒が明かないので、マオが話を進めた。


「それはそうと、俺の名前はマオと言う。しがない冒険者をやっている」


「冒険者? 人族なのですか? 人族が私を呼び出せるなんて、謎が深まる一方です」


「人族ではないぞ。魔族だ」


 そう言ったマオが、指をパチンと鳴らすと、隠していたものが姿を現す。


「なるほど……確かに魔族ですね」


 再度、指パッチンで元に戻す。わざわざ指を鳴らす必要があるのかは、定かではない。


「で、ちょっとクエストに行き詰まってな、協力者を呼んだというわけなんだ」


「そうなのですね。私でお役に立てるなら、お手伝いします」

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