第5話 調査クエストの報告

 あれから湖畔を1周したが、マオは、目新しい手がかりを見つけることが出来なかった。


「フォレストウルフ以外は手がかりなしか。探索場所を変えるしかないな。さらに奥に進むとしよう」


 街からは離れてしまうが、その気になればすぐに転移で戻れるので、距離はあってないようなものだった。


 それからまた暫く歩き続けていると、どこかで争っているような音が聞こえてきた。


 普段なら歯牙にもかけないのだが、今回は調査ということもあり、気配を消しつつ争っている場へと近づいて行った。


 姿が見える所までやってくると、争っているのはフォレストウルフとオーガだった。


(これは……)


 結果は見るまでもなくオーガが勝った。オーガは、フォレストウルフの肉を喰らうと満足したのか、残りは捨て置いて森の中へと去っていく。


 オーガがある程度離れてから、茂みから身体を起こし、フォレストウルフの傍へと歩み寄る。


「湖畔の近くで見つけた死体と、似たような喰われ方だな。魔物を食い荒らしていた正体は、オーガだったのか。ここまで森の深くに来る冒険者もいないようだし、オーガ自体も、森の外までは興味がないのか出ようとせず、人への被害がなかったのだろうな。帰ってマールに報告するか」


 時間的には昼を回ったあたりで、まだ調査をしようとすれば出来るのだが、この後に出る探索クエストで、オーガの住処を探せばいいと思い、帰ることにした。


 調査クエストは、終わりを迎えてひと段落ついたので、帰りは適度に買取用の魔物を狩りながら、のんびりと街へと戻るのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 街に入りギルドにつくと、マオは解体場へと赴き、シンに声をかける。


「お疲れさん。また魔物を持ってきたぞ」


「おっ、マオじゃないか。今日もいっぱい狩ってきたのか?」


「いや、今日は、調査クエストがメインだったから、そこまで狩ってない」


「調査クエスト? ……あぁ、あの魔物の食い荒らされたやつか。それなら仕方ないな。ある分だけそこに出してくれ」


「あぁ、わかった」


 【無限収納】からフォレストウルフを5体と、ホーンラビットを10体出した。


「そこまで狩ってないって言った割には、結構な量だな。報酬は明日で良いか?」


「構わないぞ。昨日の分は今日貰ったからな。一文無しは卒業した」


「はははははっ! そりゃ良かった。それで気兼ねなく、宿にも飯にもありつけるってもんだ」


「そうだな。じゃあ、買取は頼んだぞ」


「おう、任せておけ」


 マオは解体場を後にすると、マールの所へと向かう。この時間帯は、冒険者たちがまだ戻ってこないので、すんなりとマールのカウンターへと行くことができた。


「マール、戻ってきたぞ」


「おかえりなさい、マオさん。何かヒントが得られましたか?」


「いや、ヒントじゃなくて解答が得られた」


「えっ!? 本当ですか!? 誰もわからなかったのに?」


 誰も達成出来なかった塩漬け依頼を、数時間ほどでヒントではなく解決したというマオの言葉に、マールは驚きを隠せないでいた。


「多分、それは森の浅いところで、調査をしていたからだろう。そこら辺だと、何の手がかりも掴めなかったからな」


「森の奥深くまで行ったのですか?」


「あぁ、途中にあった湖畔は見事だったぞ。そこで暫く休憩してたぐらいだ」


「そんな場所があるのですか? 初耳ですよ」


「初耳で思い出したが、魔物の新しい生態が発見できた」


「魔物の生態ですか?」


「あぁ、ホーンラビットが、湖畔で水を飲んで休憩していたんだ」


「えっ!? 魔物って水を飲んで、休憩したりするもんなんですか?」


 魔物が他の生物同様に、水を飲んで休憩するという内容を聞かされ、マールは信じられない様子であった。


「実際に見たからそうなんだろう。あれば使う程度だとは思うぞ。どこにでも水場があるわけではないからな」


「学者さんに報告したら、報酬が貰えそうですね。魔物の生態は、不明な点が多いですから」


「生態を調べようにも襲われるしな。そこは仕方ないさ」


「それで、魔物を食い荒らしていた正体は、何だったんですか? それによって、次のクエストが発注されますから」


「魔物の正体はオーガだった。森の深くに棲息しているんだろう。ちょうどオーガの食事時にありつけて、正体を知ることができた。今日は運が良かったな。何日かかける予定だったんだが……」


「……」


 マールは、マオの言った報告内容に言葉を失う。


「おい、マール。どうしたんだ?」


「……本当ですか?」


「何がだ?」


「オーガというのは本当ですか!?」


 魔物の正体がオーガであるという事実に、マールは、カウンターから身を乗り出して、鬼気迫る勢いで問いただした。


「あ、あぁ……本当だぞ。この目で見たからな」


 そんなマールの勢いに押されて、マオはタジタジとなるのである。


「緊急事態ですので、ギルドマスターに報告してきます!」


「あ、あぁ、そうか……」


 マールはそう言い残して、急いで奥の部屋へと向かって行った。


「一体どうしたんだ?」


 マオはマールが何故焦っていたのか、皆目検討もつかなかった。そんな時、後ろから不意に声をかけられた。


「なぁ、兄ちゃん」


「ん、何だ?」


 振り返るとそこには、1人の冒険者が立っていた。


「さっき言っていた話は本当か?」


「どの話だ?」


「オーガが出た話だ」


「あぁ、本当だぞ」


「それが本当ならヤバいぞ……」


「何がヤバいんだ?」


「オーガ単体の基本討伐ランクはB+だ。個体によってはAになる。しかも、パーティ討伐推奨モンスターだ。ソロでやれるのは、Sランクみたいなかなりの手練か、熟練のAランクじゃないと無理だ」


「それがどうかしたのか?」


 マオは、冒険者が何を言いたいのかわからず、尋ねてみた。


「この街にいる冒険者は、Cランク以下がほとんどで、Bランクの冒険者パーティは、今、別のクエストで他の街に行っているんだ。つまり、現段階で対処できるような冒険者が、この街にはいないんだよ」


「そういうことか。それでマールも、あんなに焦っていたのか」


 冒険者とそんな話をしていると、マールが奥の部屋から戻ってきた。


「マオさん、ギルドマスターがお呼びですので、一緒に来ていただけますか?」


「何かあったのか?」


「詳しい話を聞きたいそうです。事が事だけに」


「わかった、行こう」


 マオは、マールに連れられて、通路の奥にある扉の前まで来た。


(ここがギルドマスターの部屋か)


「(コンコン)ギルドマスター、お連れしました」


「入ってくれ」


 マールが扉を開け中に入ったので、そのまま後を追うように入ると、中年の男が書類を片付けている最中であった。


「すまないね、いきなり呼び出して。そこのソファにでも掛けてくれ。マール君、紅茶を頼むよ」


 そう言って対面式のソファに座ると、こちらを値踏みするように、机から眺めてきた。


「君が例の冒険者だね。色々とやってくれているようで助かるよ」


「礼を言われるようなことは、一切していないのだが、あんたがギルドマスターか?」


「おっと、すまない。自己紹介がまだだったね。私がここのギルドマスターで、名前はサイラスという。以後、お見知り置きを」


「俺は昨日、冒険者登録をしたマオだ。よろしく頼む」


「それで、お蔵入りしそうだった調査クエストを、達成してくれたみたいでありがとう。持って帰ってきた情報は、ありがたくなかった内容だったけどね」


「あぁ、それなら、さっきフロアにいた冒険者に教えてもらったぞ。何でもB+の討伐ランクらしいな。しかも、街には、Bランクの冒険者パーティが今はいないと」


 マオの話が途切れたところで、マールが入れた紅茶がテーブルに置かれた。香りからして、いい茶葉を使っているようだ。


「それで、確かにオーガだったのかい?」


「間違いなくオーガだったな。今まで人に被害が出てないのは、森の奥深くに棲息していたからだろう。森の浅いところで、魔物の食い荒らされた形跡を見つけたのは、たまたま食事に来てただけだと思う」


「そのが、いつまでも人のいない時とは限らないからね。ギルドとしては、頭を悩ませる事案だよ」


「調査が終わったから、次は探索クエストが出るんだよな? それは俺が受けてもいいのか? それ専門の得意な冒険者がいたりして、そいつらがクエストを受ける場合があると、マールが言っていたのだが」


「それに関しては、受けても構わないよ。オーガの住処を探索するクエストなんて、今のところ、この街には受けてくれる冒険者はいないからね」


「なら、遠慮なく受けるとしよう」


「すまないね……森の奥深くまで入れる君なら、危険なことはないだろうが、くれぐれも気を付けてくれたまえ」


「あぁ。それじゃあ、次は探索クエストの達成報告の時に」


「その時にまた会おう」


 そしてソファから立ち上がると、ギルドマスター室を後にした。


 その後は、カウンターにてマールから、調査クエストの報酬をもらい、宿屋へと向かって帰るのであった。

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