第4話 調査クエスト

 翌日、クエストを受けるために、マオはギルドへと顔を出した。今日も冒険者達が、絶えずクエストの物色をしているようだ。


 マオも例に習い掲示板前へ向かうが、中々面白そうなクエストが見つからないことに少し落胆する。


「やはり、ランクを上げないとクエストに幅が出ないな。マールに、何か面白そうなクエストがないか聞いてみるか」


 マオは受付へと向かうが、先客がいたようなので列に並んで、順番が回ってくるのを待っていた。


(これもギルドの醍醐味か……)


 ようやく順番がまわってきてたので、マールに話しかける。


「おはよう、マール」


「おはようございます、マオさん。昨日の買取査定が終わりましたよ。こちらが報酬です」


 ドサッとカウンターに置かれた小袋には、いかにも大量ですと言わんばかりに、重量感がありパンパンに膨れ上がっていた。


「見た感じ結構入っていそうなんだが、そんなにしたのか? 下級モンスターのかき集めだぞ?」


「これは正当な報酬ですよ。量も多かったし、状態が良かったので、上乗せもされています」


「そうなのか。あんなのでこれだけ稼げるなら、すぐに金持ちになりそうだな」


「ふふっ、そうですね。昨日の一文無しを嘆いていた冒険者とは、とても思えませんね」


「ところで、面白いクエストとかないのか? このままだと昨日の繰り返しになりそうで、魔物退治に飽きそうなんだが」


「それでは、討伐系以外のクエストを、受けてみてはどうでしょうか? 気晴らしにもなりますよ?」


「何かあるか?」


「種類としましては、調査と探索と護衛ですね。調査は、街から出て南の森で、最近魔物が食い荒らされているとのことで、その原因の確認です。探索は今のところないですね。護衛は、ここから3日ほど離れた街まで、商人と荷物の護衛をすることです」


「手軽なのは調査だな。それを受けることにしよう」


「わかりました。手続きしますね。クエスト内容は、先程伝えた通りですので、魔物を食い荒らしている原因がわかったら、ギルドへと報告してください。その後、その魔物の探索クエストが出ると思いますので、そのあとに討伐クエストですね」


「なかなかまどろっこしいのだな。一気に片付けてはダメなのか?」


「冒険者も色々いますので、独占にならないように段階をおっているんです。調査が得意な方だったり、魔物の住処を特定するのが得意だったりと。いろんな人に得意分野で、クエストを受けるチャンスを与えているようなものですね」


「なら俺が受けても大丈夫なのか? 得意なやつが受けたいのじゃないか?」


「それなら大丈夫です。このクエストは一週間前に張り出されて、受けた人もいるのですが、達成できた人がいないので、現在、受ける人がいない状態なんです」


「そうだったのか」


「それに、被害が今のところ魔物だけなので、急ぎのクエストってことでもないのですが、不気味なのには変わりありませんから、ギルドとしては、正体を突き詰めたいところなんです」


「わかった。それなら調査するとしよう。期限はあるのか?」


「この調査クエストに期限はありません。だから、後回しにされて誰も受けなくなったんです」


「それならボチボチと調査しよう。ちゃんとした情報を、報告した方がギルドのためにもなるだろうしな」


「ありがとうございます。頑張ってください」


「あぁ、行ってくる」


こうしてマオは、ギルドを後にして早速南の森へと向かったのであった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 南の森に到着すると、外観上、特に不審な点は見当たらず、一見、ただの森であった。


「ここが問題の森か。特段、魔素が強いわけでもない、在り来りな森だな。とりあえず森の中に入るとしよう」


 森の中へ足を踏み入れると、魔物の気配はなく、静かな雰囲気が漂っていた。


「森の浅い部分には、魔物の食い荒らされた形跡はないな。ホーンラビットぐらいいてもよさそうなんだが、何もいないところが逆に不自然だ」


 鳥のさえずりは聞こえてくるが、それだけだった。他の存在が全く感じられない。


 手がかりが何もない状態なので、どんどんと森の奥深くへと足を進める。


「ん? ちらほら魔物の気配が出始めたか。元々の魔物の数が少ないのか、食い荒らされて減ってしまったのか、どちらにせよわからないな。マールに聞いておけば良かった」


 小鳥のさえずりを聞きながら、のんびり足を進めていると、途中で湖畔に差しかかったので、一息入れることにした。


「こんな所に湖があるのか。闇雲に歩いても手がかりが見つからないし、少し休憩するか」


 畔で座り込み景色を眺めていると、離れた所でホーンラビットが水を飲みに来ていた。


「魔物にとっても水場は必要なのか? それとも水場があるから利用しているだけなのか? 何にせよ新しい発見だな。動物が水を飲むのは見たことあるが、魔物は初めてだ」


 暫く観察していると、喉を潤すのに満足したのか、ホーンラビットは森の中へと消えていった。


「俺もそろそろ再開するか。とりあえず湖畔周辺を調査して、魔物が利用しているのなら、何かしら手がかりがあるかもしれない」


 その場に立ち上がり軽く服を叩くと、マオは再び探索を始めた。


 ちょうど湖を半周ぐらい歩いたところで、ようやく手がかりとなる痕跡を見つけることに成功する。


「フォレストウルフが殺されているな。確かに食い荒らされている」


 死体の傍でしゃがみこみ、他に何か手がかりがないか探ってみるが、これといって何も見つからなかった。


「これじゃぁ、食い荒らされて何が原因で死んだのかわからないな。魔物同士の弱肉強食か、誰かが殺した後に食い荒らされたのか……」


 死体を見れば見るほどに、謎が深まるばかりだった。確かにこれだと、誰もクエストを達成出来ていないのが、わかるというものだ。


「中々に面白い。このクエストを受けて正解だったな」


 その場で立ち上がり、ひとまず周囲を探ってみるが痕跡はない。とりあえず、他にも痕跡がないか、湖畔周辺の探索を再開するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る