第535話 屑はどっちだ?
海賊女のように旋律が使えるわけでもなく。
畔のようにこの地にコネが有るわけでもない。
そんな二人と渡り合う俺に有るのは口のみ。下手なプライドは捨てて必要とあらば靴すら舐める覚悟で挑む。
俺はこんな訳のわからない場所で時雨に再会もできず終わってたまるか。
「まず交渉に当たり俺の立場をはっきりさせておこう。
俺がここに来たのは全くの偶然だ。本土に帰るフェリーに乗っていたら巻き込まれただけだ」
「威張って言えることか」
海賊女が馬鹿にしたように言う。
「だが重要だ。
つまり官憲たる俺は海賊であるお前を捕まえるためにフェリーに乗ったわけでも、お宝目当てでここに来たわけでもない」
「やっぱり私の目的を探ってやがったな」
「そんなのは些細なことであり、重要なのは俺とお前は敵対しないいうことだ。
つまり条件次第では俺とお前は組める」
海賊女が俺を睨みつけてくるが俺は意に介することなくぬけぬけと言い切る。
「はっ役に立つのか口だけ男」
全く持ってその通りで反論のしようもないが、ここで口を閉じたら俺は終わる。
「ひどいな~溺れていたお前を助けてやったじゃないか」
海賊女の罵倒はまあその通りなので気にしない事実は肯定して怒りを霧散させ、ちょっと甘えるように言う。知り合いのホストの技だが役に立ってくれよ。
「私の目的を探るためだろっ、恩着せがましく言うな」
「よく分からないな~、俺はお前に何か悪いことをしたか?」
「はあ!?」
「お前の目的を知る為なら溺れて気絶していたお前を拘束して拷問することだって出来た。だが実際には俺はお前を助けて介抱していただけだ」
拷問は効率が悪く騙される可能性が高いというレポートも有るからな。
「何か批判されるようなことをしたか?」
行動だけ見れば俺は全くの紳士の行動であり、好かれこそすれ嫌われる要素はない。
これで顔が良ければ惚れられていても可笑しくない。
「はっ、拷問ねえ~。悪ぶったたところで口だけの頭デッカチエリートのお坊ちゃんにそんなこと出来るのか」
海賊女は俺を小馬鹿にし舐めた口を聞いてくる。エリート、強いては公安に対する偏見だな。
「そうか? お前 体だけ はいいからなお前が嫌う屑男ほど嬉々としてやるもんじゃないのか?」
「うっ」
俺に何を感じたか海賊女は今更頬を赤らめ咄嗟に体を隠すような動作をする。ほんと今更だろ、下着姿ならさんざん介抱のときに眺めた。そして手は一切出していない。俺はなんて時雨に誠実なんだろう。
「事実だけを羅列すれば、俺は溺れたお前を介抱し、それに恩義を感じたお前が俺を助けることを約束したが裏切ったということだけだ。
偉そうにしているが、どっちが人間のクズか一目瞭然だな」
内心でどんなことを考えていようが行動で示されなければ無かったことと同じ。つまり俺は完全に善人で海賊女は悪人と評される。
「巫山戯るな。偽名まで使って騙す気満々だったじゃねえか」
「偽名を使ったのは職業上の用心の為だ。なにせお前は海賊を名乗っていたからな。俺がどんな名を名乗ろうと助けてやった事実は変わらないだろ」
「だからそれは私を騙すためだろ」
「そうは言うが俺がいつお前を騙した?
お前は宝を求めてここに来たことを俺が探っていたと言ったが、」
海賊女自身が言ったことだが、更に駄目推しで思考を固定してやる。いや違う、親切にも議題を明確してあげる。
「海賊がこんなところに来るなんてお宝以外に目的があるのか? 簡単に推測できる事実だろ。騙して聞き出すまでもない」
俺が知りたかったのは海賊女が脱出方法を知っているかどうかだったので、海賊女の推測は的外れも良いところであるが、訂正してやる義理はない。
そしてその考えに至る前に畳み掛ける
「海賊の流儀だなんだカッコつけていたが、お前に残った事実は恩を裏切りる屑海賊であることだけだ。
お前のような女に死者を迷いなくあの世に送り届ける六文銭の案内人を名乗る資格はない」
「なんだと」
「激怒するということは自覚があるということだ。汚名を返上したいのなら改めて俺と再度契約をして、まずは恩を返すんだな」
「なんで私がそんなことを」
「なら屑海賊を自覚してこれからは生きろ。今後二度と任侠とかカッコつけることは俺が許さない」
「お前にそんな資格があるのかよ」
「少なくとも命の恩人には有るさ」
「ぐっ」
海賊女は黙り込んだ。落ちるか落ちないかは半々かな。旋律の力は喉から手が出るほど欲しいが無理に抱え込むのも危険である。後は成り行きに任せよう。
俺はその隙に本命を口説き始めるのとしよう。
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