第534話 眼と眼で通じ合う
「おいおい、共謀していたのかよ」
「共謀? この女とは今会ったばかりだ。だが勝負を脇からしたり顔で眺めているお前が気に入らないことで共感しただけだ」
眼と眼で通じ合う~エスパーかよ。
「ああ、そうかい」
畔の一撃を銃で受け止めていた俺は力付くで押し返し、畔も逆らわず一旦後ろに飛び下がる。これで俺と畔と海賊女でちょうどきれいな正三角を形成する三つ巴になる。
それにしても特殊合金に換装したコンバットマグナム(殆どの部品を自作の部品に換装してしまってオリジナルの部品は殆ど無い)でなければ受けた銃ごと真っ二つにされていたかもな。生半可な打ち込みじゃないし、それに応えるあの太刀も生半可じゃない。普通なら打ち込んできた剣の方が反動で折れてもいいはずなのに、本当にただの玉鋼かよ? 刀匠の執念が最新の超合金に匹敵する合金に進化させていたとでもいうのか。エンジニアとして実に興味深い。本土に帰ったら組成分析をさせて貰いたいものだ。
「名乗れ」
畔が偉そうに言う。
偽名を貫く手もあるが正体を明かしたときの化学反応の方が面白そうでは有る。
「公安99課 一等退魔官 果無 迫。
陸軍さんと同じ公僕で、海賊の天敵さ」
畔には僅かの皮肉を海賊女には僅かな敵意をまぶして名乗る。
「ほう~お前が噂に聞く退魔官だったのか。意外と若いな。もっとしぶい男を想像していたよ」
やはり海賊女は俺の名を知っていたか。そして顔写真はまだ出回っていない。これは顔写真が出回る前に変装するなどの何か対策をしたほうがいいかもな。
「若いが重厚さが滲み出るいい男だろ。
惚れてもいいぜ。俺がお前を使ってやる」
海賊相手に下手に出るのは悪手。特にこういう女相手には上から言ったほうがいい。
「言うねえ~。いいぜ、お前が口だけの男でないならお前の女になってやるよ」
海賊女はグラビアの表紙を飾れそうないい体をしていて、普通の男なら飛びつくだろうが、俺は時雨一筋さ。
「愛人にならしてやるよ。
そちらの軍人さんはどうする」
「仲間外れは寂しいだろ。俺も混ぜて貰おう」
畔も敵意を溢れさせつつ言う。
「そうかい、なら三つ巴の勝負といこうじゃないか」
「ふっ」
「応よ」
畔と海賊女がそれぞれ獲物を構え、俺は銃を仕舞い両手を上げる。
「おいおい、あれだけ勇ましいことを言っておいて早々に降伏かよ。少しは楽しめるかと期待したのにとんだ口だけのハッタリ野郎かよ。ハッタリで私が降参すると思っていたのなら私を舐め過ぎだぞ。骨が有ると思ったのは私の見込み違いか、フニャチン野郎が」
海賊女はあからさまに白けた様子で俺の悪口を言いたい放題である。
「問おう。どういう意味だ? まさかお前ほどの男が降伏ということはあるまい」
畔の方は思慮深く構えを崩さないまま俺の真意を探ろうとする。
「ネゴシエイターの礼儀だよ」
「礼儀?」
「ああ何言ってんだお前」
「俺をお前ら現場の人間と一緒にするな。一等退魔官は軍隊で言う左官にも等しい階級だぞ。体より頭脳を使って交渉することこそ俺の本分」
自分で言っておいて何だが後方ででんと構えるどころか現場を走り回っているな。
「口先三寸で俺を丸め込めると思っているなら思い上がりだぞ」
「面白い。囀ってみろよ。面白くなかったらその舌を切り取ってやるよ」
「いいぜ。
さあ、交渉の時間だ」
なんだかんだで二人交渉の舞台に上げることは成功した。
さあここからが正念場だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます