第532話 悪党同士見つめ合う

「どう思います? バレてますかね」

 丸太の間の隙間から中を伺っていた及己が村上に尋ねる。

 早速ズボンを脱いで股間丸出しのお楽しみになっていれば楽に制圧出来たであろうに、なぜかボスはログハウス内で臨戦態勢を取っている。

 まるで俺達が来るのが分かっているかのようだ。

 お楽しみの最中に近付く俺達の気配に気付いたのならまだ分かる。だがボスにその様子はない。最初から迎撃態勢を取っている。それはつまり崖の上にいた俺達の気配を察知していたか来ることを予知していたとしか思えなくなる。

 魔人なのか? 

 しかしなぜ一人待ち構える。もし分かっているのなら折角いる部下を呼び寄せれば弾除けぐらいにはなるというのに・・・。

 考えすぎか?

 あれは高度なプレイだという可能性はないのだろうか?

 俺達を一網打尽にする罠があるのか? 

 情報が足りない足りない情報は囮を使えば得られる。

 そう思って海賊女の方をチラッと見れば海賊女と目が合ってしまった。

 暫し見つめ合う二人の目と目。

 どちらかとなく互いに微笑む。

 流石悪党同士考えることは同じか。

「ふふははははっお前とは意外と気が合うかもしれないな。

 私が先に行く」

 意外なことに海賊女自ら先陣を切る宣言をした。俺としては願ったりではあるが、何か裏が無いかと勘ぐってしまう。

「いいのですか?」

「櫂を返せ」

 海賊女が俺を睨み殺すように言う。

 そう来るなら納得できる。ならば俺はどう判断する。

 断ったらこの場で決裂。

 承諾しても櫂を返してしまえば海賊女に対する担保が無くなる。

 つまりどちらにしろここまでという訳か。

 断ってここで海賊女と戦うのは愚の骨頂。まだ素直に櫂を返して上手く三つ巴に持ち込んだ方がまし。

 海賊女めこのタイミングを狙っていて、俺はまんまと引き込まれた訳か。海賊女を脳筋と侮った俺のミス。だがこの借りはいずれ返してやる。

「分かりました。サポートは任せて下さい」

「期待しといてやるよ」

 海賊女が思った以上に頭脳派ならこの場で俺と戦う愚は犯さないだろう。俺は取り敢えず海賊女にカナリア役で先に入って貰う為に櫂を差し出した。

 これでもう海賊女がいつ裏切っても可笑しくない。

 海賊女は櫂を握り締めるとログハウスの戸を開けて堂々と正面から乗り込んでいったのであった。

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